課題『夏休み』花火と夏期講習(5枚)

人 物

山村祐也(11)小学生

奈原慎一(12)小学生

講師


〇道

 ランドセルを背負った山村祐也(11)と奈原慎一(12)が並んで歩いている。

 山村は姿勢が猫背気味で、奈原のランドセルはボロボロ。

奈原「夏祭りいこうぜ」

山村「ごめん、今日は夏期講習あるから無理なんだよ……」

奈原「なんで夏休みに塾なんて行くんだよ」

山村「親がそういうから……」

奈原「ちぇーっ。つまんねーの」

山村「ごめん……」


奈原「わたがしって食べたことある?」

山村「ないけど……」



〇雑居ビル内・進学塾・教室(夜)

 黒板の上に『必勝合格』と大きな文字でポスターがある。

 生徒たちは真剣そうな表情で参考書の問題を解いている。

 花火の音が聞こえてくる。

 山村、窓に目をやる。

 窓に暗幕が垂れ下がっていて、外は見えない。

 講師が教室内を歩いて、見回りている。

講師「山村君、外が気になりますか?」

 びくっとする山村。

講師「夏祭りなど、受験生の君たちには関係ありません。そんなものにうつつを抜かしては志望校に合格できませんよ」

 山村、あわてて参考書に目を移す。

 教室の扉が開いて、奈原が顔をだす。

 奈原、山村を指さし、

奈原「やっと見つけた! ここ教室多すぎ!」

講師「こら、キミ。勝手に入るんじゃない!」

 奈原、山村のところまで歩いてきて、

山村「(慌てて)山ちゃん、ダメだよ。いま授業中なんだって」

奈原「花火、もう始まってるぜ。行こう」

 手をさしだす。

山村「…………」

 ドン、と打ち上げ花火の音が聞こえる。

 周囲の生徒が奇異の視線を向けてくる。

奈原「はやく!」

山村「ちょ、ちょっとだけ待って」

 机の上の参考書や筆箱を片づけ始める。

奈原「んなことしてたら、花火おわっちまうぜ!」

 山村の手をひいて、走りだす奈原。

 その勢いで、机の上の筆箱や鉛筆や消しゴムが床に散らばって、騒がしい音をたてる。

 名残惜しそうにそれを見る山村。

 すぐに吹っ切れて笑いだして走りだす。


〇雑居ビル・外(夜)

 空を見上げ山村と奈原。

 山村の瞳に花火の光が映り込む。

奈原「無理やりつれだして悪かったな」

山村「(笑って)そんなことない」


/了


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夏休みと聞くと、ラノベっぽい内容を想像してしまうので

それを追い払うのが大変でした

7/20引導




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