Ending1: 証明
戦いは終わった。
激しい戦いによりあちこちが抉れたコンクリートの上には、倒れている少女、倒れている黒い鎧の男、そして唯一立っている青年。
暴走が解けた竜胆はヘカトンケイルに向けて何かを言おうとしたが、口を閉じて首を振ると、フランコイズの元へ向かった。
GM:二人とも無事に帰還できたし、エンディングだ。
竜胆:「大丈夫か?……まったく、そのまま砂になって消えてしまったらどうしようかと思ったぞ」
フランコイズ:「……私も流石に今回はもうだめかと思ったわ」
「立てそうか?」
「大丈夫。侵蝕さえ収まれば、傷はそんなに深くないわ」
フランコイズは、竜胆が差し出した手を取って立ち上がる。しかし立ち上がってから手を繋いでいることに気付き、顔を真っ赤にして慌てて手を離した。
「あ、痛かったか?!すまない、力加減が……」
「えっ、いや、そうじゃなくて……」
「む、そうか? けど、歩けそうなら良かった。二人も担いで帰るのは、流石に骨が折れそうだからな」
「帰る……どこに?」
理解できない発言に、フランコイズは訝しげな顔で聞き返す。
「UGNだが?」
竜胆は当たり前じゃないか、という風に首を傾げる。それを見たフランコイズは、おかしそうにクスクスと笑い始めた。
「私をUGNに連れて帰るつもりだったの?」
「…おかしいだろうか?」
「だって私、これでもマスターエージェントよ?」
笑いながらそこまで言って、彼女は竜胆がいつになく真面目な顔をしているのに気付いた。
「…本気で言ってるの?」
「俺は冗談は苦手なんだ」
彼は真面目な顔のままそう言うと、そっとフランコイズの手を取る。突然触れられてビクリとするも、彼女が振りほどくことはない。
彼はUGNのエージェント、対して自分はFHのマスターエージェントだ。あまりにも立場が違いすぎる。
……だが、それだけだ。
残り僅かな自分の命。ずっと願っていたもの。運命的な出会い。彼が本当に本気だと言うのなら。
拒む理由が、どこにあろう?
「……あなたが、そう言うなら」
「……そう言ってくれると嬉しい」
フランコイズの肯定の答えに、竜胆は初めて笑顔を見せた。
フランコイズ:「王子…」
そう言って頭から煙が上がる。比喩表現的な意味で。
竜胆:しかし答えを聞いた竜胆はさっさと手を離してヘカトンケイルの方へ行ってしまっている訳だ。
フランコイズ:なら、当然のようにその後ろをついていくわよ。
竜胆:……子アヒル?
フランコイズ:違うわよ!
竜胆:俺はヘカトンケイルの側に寄ると、当然のように抱えあげようとする。
長野業平(GM):「……よせ。長くはもたん」
竜胆:「それは治療班が決めることだ。……それとも、ここで終わるのが望みか?」
フランコイズ:「トドメが欲しいなら、刺してあげましょうか?」
長野(GM):「私が持つレネゲイドの治癒力は全て、この魔眼鎧装の治癒に注ぎ込まれる様にチューンされている。言ってしまえば、私は並の人間以下の治癒力しかない。それに、負けた“ヘカトンケイル”など価値を成さない。……ここで、終わるのも良いかもしれんな」
フランコイズ:「そんなことは私も王子も訊いてないでしょう? あなたはまだ生きたいのか、ここで死にたいのかって訊いてるの。まずはそれに答えなさい」
竜胆:(……王子?)
男は……長野業平は考えた。
生きる理由。死ぬ理由。自分の意思とは何だっただろう。
そして、少女の言葉を思い出す。
「……私は……生きたい。最強の名は残せずとも、想いを遺す為に。」
フランコイズ:「……そう。なら最初からそう言いなさい。それで? その鎧に治癒力を取られてるってことは、それを剥がせばいいの?」
長野(GM):「……可能なら、だがな」
フランコイズ:ならとりあえず鎧を剥がそうとするけど……?
竜胆:一緒にやってみようとするが……?
GM:実は簡単に剥がれるんだなこれが。
竜胆:「……うん、剥がれたな」
フランコイズ:「結構簡単に剥がれたけど……?」
GM:だって、本人の抵抗が無い状態で他者が剥がそうとするなんてこと想定されてないんだから。長野自身も呆然。
長野(GM):「何故……否、そういう事か。縛り付けていたのは私自身だったのか」
フランコイズ:「知らないわよ、そんなの。ともかく、これでUGNまでは保つでしょ……保つよね?王子」
竜胆:「…………あ、俺か?保つとも。いや、保たせるさ」
フランコイズ:「うん、じゃあお願い」GM、分解した鎧を《折り畳み》で持ち帰れないかしら?
GM:それは無理なんだ。何故って、この鎧はオーヴァードだからな。折りたたもうとしても、百の魔眼が抵抗してくる。
竜胆:……ちなみにヘカトンケイルの鎧部分ってどのくらいあったんだ?
GM:大体、人間一人分くらいの重さに魔眼が付随かな。
フランコイズ:それって…。
二人はなんとかして鎧を持ち運ぼうと試行錯誤する。しかし長野の制御を離れた鎧は、二人が運ぶどころか近付く事すら許さない。…まるで、長野以外には触れさせないとでも言うかのように。
「…ダメね。持って帰ろうかと思ったけど、この鎧、これそのものがEXレネゲイドだわ。私の力じゃ押し負けちゃう。長野業平、これは持っていけそうにないわ。ここにおいていく。何か言い残すことがあるなら今言っておきなさい」
「あぁ……」
「――さらばだ、友よ。」
男が何を思ってその言葉を口にしたか、それは二人の若者達には分からない。
ただ、その表情はどこか、清々しかった。
「……では、行こうか」
「ええ。じゃあ王子、UGNまで案内してもらえるかしら……ところで、私の事なんて言って紹介するつもりなの?」
「………生き別れの妹?」
「……王子、嘘が下手ね」
「良く言われる。……ころで、なんで君は俺を王子と呼ぶんだ? 俺は一般家庭の出だが」
「あなたは、きっと私の運命の王子様だから……って、言わせないでよ、恥ずかしいじゃない」
「そうか、それはすまない……?と、こんな事を話している場合では無かったな。とにかく彼のために急ごう」
「ええ、そうね」
竜の鱗を持つ青年と、砂の体を持つ少女。
日常の守護者と、秩序の破壊者。
決して交わることのない筈だった二人は、暮れかけた日の中、朽ちた廃墟を並んで歩いていった。
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