Middle4: 両陣営ともお手上げ

 敗走。行きついた先は……これまた廃墟。どうやらここは昔病院だったらしく、様々なモノが揃った上にインフラもまだ生きている。

 竜胆は適当なベッドに抱き抱えていたフランコイズを下ろし、竜化を解く。ベッドの端に腰掛けてしばらくすると、フランコイズも目を覚ました。


「ん……あれ? ここは……?」


竜胆:「どうやら病院だった場所のようだ」と答える。


フランコイズ:「病院……あなた、ちゃんと私の事連れてきてくれたんだ」


竜胆:「そういう約束だったからな。本当は倒れる前に逃げさせてやりたかったが、予想以上に強かった」


フランコイズ:「約束、か……素敵な響きね」


竜胆:フランコイズが目覚めたので立ち上がり、服を整えつつちょっと距離を取る。上を脱いだままだったからな。

「それより、体は大丈夫か。ここなら探せば治療器具があるかもしれないし、治療した方がいいんじゃないか」


フランコイズ:「気にしないで。どうせ力を使えばまた傷つくもの」


竜胆:「そういう事を言うものじゃない。自分の体は大切にするべきだ。先が短いなら、尚更……いや、すまない。説教くさかったな、忘れてくれ」


フランコイズ:「ありがとう、竜胆幸守。でも時間がないからこそ、不要なことに割くことはできない。今はあいつのことを分析しないと」


竜胆:「そうだな。まずはあれを倒す方法を見つけなければ」


GM:情報収集だな。ヘカトンケイルに累計96点のダメージを与えたので、『ヘカトンケイルの倒し方』の項目の難易度が96-50で46下降するぞ。


竜胆:そういうシステムだったのか。


GM:このシーンでは、『情報項目の収集』『調達判定』『その他』が一人二回出来る。



◆情報収集項目の一覧

 『ヘカトンケイル』〈情報:FH〉 難易度30

 『ヘカトンケイルの倒し方』 〈情報:UGN/FH〉 難易度4

 『ヘカトンケイル(古い?)』 〈情報:UGN/FH〉 難易度11/14



竜胆:実は、俺は今のHPではクライマックスで時間凍結が使えない。という訳でGM、まず応急手当キットの調達判定をしたいのだが……。


GM:やるがよい。


竜胆:あっっっぶね!ぴったり成功だ。


フランコイズ:さぁ、問題は回復量ね。


竜胆:2d10で13点回復。これなら足りる!


フランコイズ:55%で足りるって、なんとも危ない橋を渡るわね……。


竜胆:ああ、ダイスの出目でハラハラするのはすごくTRPGって感じだ。

えーと、続けて情報収集も判定していいか?


フランコイズ:私は後にやるわよ。


竜胆:じゃあ『ヘカトンケイルの倒し方』について、情報:UGNで……成功。



『ヘカトンケイルの倒し方』

 ヘカトンケイルは100の魔眼を持っており、それによう防御がEロイス"不死の巨人"として現れている。効果は『一人のキャラクターの一回の攻撃のダメージを、一ラウンドに一度100点軽減する。この効果は全ての効果に優先される』。

 防御は魔眼によるものなので、何らかの方法で魔眼を本体から引き離すなどすれば攻撃が通るようになる。



竜胆:ひゃくてん。


フランコイズ:一回の攻撃で100点……できると言えばできるけど、あまり現実的じゃないわね。というかこれ、一回目の攻撃は極論素殴りでも良いのよね?


GM:まあ、そうだな。復讐の刃を使う都合上必ず当たるぜ!


竜胆:何らかの方法で剥がせるのか…?


フランコイズ:とりあえずわたしは『ヘカトンケイル(古い?)』について判定したいわ。情報:FHと情報収集チームで……うん、余裕!



『ヘカトンケイル(古い?)』

 百の魔眼使いとして名を轟かせたFHエージェント。彼は或る相棒と共に非日常へ身を投じていたのだが、それも終わりを告げる。ある任務の折に行方不明……というのがFH及びUGNにある“ヘカトンケイル”のプロファイルデータだ。

 百の魔眼による多大な負荷に肉体及び精神が耐え切れず崩壊……というのが彼の失踪の真相である。だが、その優秀な能力が消える事が惜しまれたからか彼の能力を生かしたワンオフの装備を作る計画が■■■によって立案、実行された。

 今“ヘカトンケイル”を名乗る者はかつての“ヘカトンケイル”ではない。だが“ヘカトンケイル”を名乗る何者かがいるのであれば、それが百の魔眼を使うというのであれば、それが“ヘカトンケイル”である……とする他あるまい。



竜胆:そういう方向の情報か!!あれ全部魔眼なのかよ……。ブラムの従者じゃないんだから……。


GM:ネタバラシタイムだな。そもそもヘカトンケイルとは50の頭に100の手を持つ巨人だが……さて、問おう。50の頭に目はいくつある?


竜胆:……100個デス。


フランコイズ:100ね……。


GM:じゃあ、その百の魔眼を全て魔眼槍にして、百の手に持てばいい。


フランコイズ:くっそかっこいい!!


竜胆:くっそかっこいいが火力見た後だと恐ろしすぎる!! そして結局対応が分からん……。


GM:まあ実際には半数が自動防御にまわって100点軽減、半数が轢殺に使われていると考えてくれ。つまり、全ての魔眼が出払っている隙に攻撃を叩き込めばダメージが通るという訳だ。


フランコイズ:あと何かあるとしたら『ヘカトンケイル』の難易度30……後はアッシュと天船巴の間で“ヘカトンケイル”について齟齬があることくらいかしら。


竜胆:そういやFHのイベントを拾うの忘れたな。


GM:FHのエージェント達はヘカトンケイルが勝つか今回の哀れな実験体が勝つかで賭けしてるよ?


竜胆:くっそ巻き込んでやりてえ!


GM:あと解除方法をぶっちゃけると、“説得してみろ”という事だな。一応解除できなくても勝てるようには組んだはずだが。


竜胆:それは……やっぱそうなるか。


フランコイズ:ううん……説得も何もわたしにはヘカトンケイルと言葉を交わす動機が微塵もないのよね。「性能試験」だけで実際のところ「倒してこい」すら言われてないから、戦闘データを持って帰れば十分な気もするし。


竜胆:こっちはあるんだが、んん……。


フランコイズ:とりあえず『ヘカトンケイル』難易度30を判定してみましょう。他にできることもなさそうだし。


竜胆:だな。俺も特に思いつかない。


GM:ではどうぞ。


フランコイズ:うん、失敗。


GM:まああれです、現在活動している“ヘカトンケイル”についての“過去の”情報は一切掘り起こせません。


竜胆:相棒なあ……とりあえず竜胆は包帯をくるくるしながらフランコイズに調べた事を話す。


フランコイズ:私もとりあえず情報は共有するわ。


竜胆:じゃあお互い把握したところで、ちょっと迷ってから

「……一つ、気になることがあるんだ」

 と切り出そう。


フランコイズ:「どうしたの?」


竜胆:「ヘカトンケイル……彼は、負けることを望んでいるようには見えないか?」


フランコイズ:「……負けることを望んでいる?」


竜胆:「彼を攻撃すると、必ず反撃を食らう。……だが、それは彼が一切攻撃を避けようとしないという事でもある」


フランコイズ:「うん。……でも避けなくても私達の攻撃で手傷を負った様子はなかったわ」


竜胆:「過去の“ヘカトンケイル”の話といい……なんとなく、気になるんだ。まあ、単に自分の力を信じているというだけなのかもしれないが」


フランコイズ:「確かに、彼は『弱肉強食』を繰り返し説いていた。イマイチ何がしたいのか見えないというのには同意見よ。彼が、自分よりも強い者を探している? ありえない話ではないと思うけど……」


竜胆:「俺は彼を“保護”するのが任務だ。本当は説得できれば一番いいんだが……強い者、な。もしそうなら、俺では力不足のようだ」


フランコイズ:「……そう。私は“性能試験”。死なない程度に殴って戦闘データを持ち帰れば、それで終わり。さっきのデータじゃまだ足りないかしらね?」


竜胆:「……君が充分だと思うなら、帰っても良いんだぞ」



「いや、あの性悪がこの程度で許すとは……」

 フランコイズがそこまでいいかけたところで、静謐な廃病院に、突如けたたましい電話のベルが鳴り響く。二人は訝しげに視線を合わせ、そしてフランコイズが受話器を取った。



天船巴(GM):「クシュン……何か私の事を噂しましたか?」


竜胆:エスパーかよ?!


フランコイズ:「(げぇ……)ええ。“ヘカトンケイル”の性能試験ということだったけど、一度交戦したわ。その時のデータで十分かしら?」


天船巴(GM):「一応聞いては見ますが……戦果は?」


フランコイズ:「全く。私の刃ではあれに傷一つつかないわ。そもそも、性能試験なのに“戦果”とはおかしな言い方をするのね? あなた、“アレ”をどうしたいの?」


天船巴(GM):「いえ、以前ディアボロスの時に一方的な戦闘のデータは既にあったもので……。それはそうと、私としてはアレは有用な兵器として利用すると共に、“どうやったら止まるか”を知りたいんですよ。ブレーキの壊れた車など車ではありません、中止ボタンの無いモノは兵器としては三流です……分かりますかね?」


フランコイズ:「そう。“制御方法”……ね。車を壊すようなブレーキをつけたところで、仕方ないと思うけど。……でも、まだ腑に落ちない部分があるわ。“ヘカトンケイル”の情報がUGNに抜けている。しかも『FHから脱走してきたオーヴァード』とのことよ。これもアンタの差し金じゃなくて?」


天船巴(GM):「おや……貴女へのプレゼントを贈ったつもりなのですが、気に障ったのならすぐに返品させましょう」


竜胆:返品って言うなよ……。っていうかやっぱりお前じゃないか!


フランコイズ:「いえ、構わないわ。今は少しでも攻撃の手数がほしい。とりあえず、いまはそれで納得しておいてあげる……プレゼントは使い捨てかしら?」


天船巴(GM):「子供に贈ったプレゼントを26日に持っていくサンタがいますか? ……どうやらお気に召したようで何よりですね。やっぱり、人の欲望が叶うの喜ばしい事ですねぇ。」


フランコイズ:「(何から何まで……)了解よ。余計な力は使いたくない。その方がいいわ。……もういいわね? 切るわよ?」


天船巴(GM):「えぇ、“頑張って”下さいね」



「…………」

フランコイズは無言のまま、受話器を強く握りしめる。そして苛立ちのあまりそのまま受話器を砂に還す。



フランコイズ:竜胆のところにもどって声をかける。

「私の上司からだった。“ヘカトンケイル”か“マスターライラックわたし”のどちらかが機能を停止するまで戦えということ、あとは任務後にあなたを始末する必要はないとのことだったわ。」


竜胆:「それは……何で俺の話が出てくるんだ?」


フランコイズ:「“ヘカトンケイル”は『FHを脱走したオーヴァード』ではないの。正しくは『性能試験のために一時的に解き放たれているジャーム』。情報を歪めたのは、うちの上司らしいわ」


竜胆:「ああ、匿名通報というのは……そういうことか」


フランコイズ:「だれがどこまで把握しているのかは知らないけど、あなたがここにいる事はあの女の計画通りみたい」


竜胆:「それで、君はまだ戦うのか? さっきの戦闘では充分ではないと?」


フランコイズ:「うん、そうね、戦うわ。あの女の手のひらの上で踊るのは癪だけど……こんな『ピンチ』またとないもの。」


竜胆:「……『ピンチ』?」


フランコイズ:「ええ、ほら、私、そこそこ強いでしょう?だからこういう『ピンチ』になることってあんまりなくて。だから、私は『見極める』の」


竜胆:「ピンチにならないのは良いことだと思うんだが……見極めるって、何をだ?ヘカトンケイルの強さの事か?」


フランコイズ:「えっ……え!? そんな野暮なこと訊かないでよ……。あなたは素敵よ? 竜胆幸守」と、出会ってから初めて照れてうろたえる。


竜胆:「な、なんでそこで俺が出てくるんだ?!」 と唐突に褒められて一緒にうろたえる(笑)


フランコイズ:「……言わせないでよ。信じたいじゃない?」

顔を真っ赤にして目をそらしているわ。


竜胆:「こほん……まあ、深くは聞かない事にするが、自分から危険に飛び込むような事はあまりしないでくれ。FHのマスターエージェントとはいえ、心配になるからな」



竜胆は、少女の頭を撫でようとして手を伸ばす。……が、何を思ったか途中で下げてしまった。


「!?」


思いもよらない彼の行動に動揺したフランコイズは、さらに顔を赤くする。どころか、動揺のあまりレネゲイドコントロールを間違えている。あたりの床が砂の煙を上げ始め、廃病院は怪しい音を立て始める。


「ちょっ、待て!どうしたんだ具合でも悪いのか?! …よく見たら顔が赤いじゃないか! もしかして熱か? 体温計を探してくるから寝ているんだ!」


彼女の心情など露知らず、斜め上の勘違いをした竜胆は慌てて部屋から飛び出していく。

後に残されたフランコイズは、頭から煙を上げてへたり込んだ。


「びっくりしたぁ…」

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