第7話 冒険者ギルド
雑貨屋さんを捜しに行った3人が興奮した面持ちで戻ってきた。
女性にかっこいいところを見せようとしたのか、ラグランディが仕切っている。
『ハルキさん、“リホ”という女性が半年前まで住んでいたって家があったぜ……いや、ありました』
半年前?
俺が調べた情報では、こっちの世界は1日26時間の1ヵ月30日、1年は10ヵ月だ。週や曜日という概念はないらしい。四季は一応あり、1~2月が冬、4~5月が春、7~8月が夏、10~11月が秋となっている。その間の3、6、9、12月は季節の変わり目という感じだそうだ。
今日はこっちの世界で5月21日。
半年、つまり5ヶ月前は……12月くらいか。
カルーアの道具屋で聞いた話では、つい1週間前までカルーアに居たそうだから、年末までヘルゼに住んでいて、それから半年間旅をしている途中でカルーアに寄ったということ?
「その後にどこに行ったとかの情報はない?」
『リホさんが家を契約したというお店まで行きましたが、そこまでは聞いていなかったそうです。それと、住んでいたのは2年間で、その……』
マリーさんが答えながら赤くなっている。
「どうした?」
『はい……男の人と一緒に住んでいたそうです』
リア獣爆ぜろ!
確か彼女は32歳、こっちの世界で婚活してたのか。でも、カルーアでは男連れなんて情報は特になかったな。別れたのか? ふふふ……。
『ハルキ! そのリホって人はハルキの何なの? 恋人じゃないわよね?』
「全然違うって! ただの同郷の知り合いだよ。面識はないんだけど、人に頼まれたから捜しているんだ」
リリィが変な勘違いをしている。
まぁ、同郷は嘘じゃないけど、人に頼まれて捜してるっていうのは微妙なところ。でも、家族も不動産屋も彼女を捜しているのは事実だし、心当たりがあると伝えれば間違いなく依頼されるだろうし、余計なお世話ということもないだろう。
『その家に行きます? 何か手掛かりがあるかもしれませんよ?』
「そうだね。行ってみるか」
現在の居住者の夫婦にお願いして中を見させてもらった。
それは意外な建物だった。
比較的大きな商館の2階部分で、いろいろ手が加えられている。ジャグジー・洋式便器・パステルカラーの壁紙。雑貨屋さんが住んでいたのは事実だろう。
これらの設備は原状回復されずに、元の賃料より高く設定されているらしい。
この設備から分かることはあった。石材加工ができる業者に伝手があるのか、自分で作ったのか……。どちらにせよ、それなりの収入がある、つまり職を持っているということだ。
以前のままだという本棚を見せてもらった。
何と、昔の彼女に借りて読んだことがある日本の少女マンガが置かれていた。
その中の1冊を偶然手に取り、本当に偶然ペラペラ捲ったページから落ちた手紙……。
『助けて! 理穂』
殴り書きのように書かれた文字の羅列を見て、心臓を抉られる想いがした。
この生々しい叫びを読み返すたび、今現在も雑貨屋さんが助けを求めながら逃げている気がして、早く助けなきゃという焦りと想いが込み上げてきた。
このメッセージが異世界で書かれたかどうかは分からない。それに、正直何から助けるのかも分からない。異世界に閉じ込められた恐怖? 孤独? それとも明確な敵でもいるのか? 神? 魔王? まさか同棲していた男?
でも、ギルドに人探しの依頼を出したら拙い気がする……漠然とだけど、彼女や俺自身に危険が及ぶ気がしてならない。
家の中では他の手掛かりを掴めなかった。
就職口から割り出せるのではとヘルゼの新街区(第2外壁から第3外壁の間)の店や職人を当たってみたけど、彼女の情報は全く得られなかった。
とりあえず……生きていると信じて、目立たないようにこっそり捜そう。
その後、屋敷に戻るとゲーリックが帰っていた。
『ご主人様、マジックリングを買ってきました!』
彼によると、カルーアの町と同じ1回銅貨1枚の福引方式でしか入手出来なかったそうだ。
ガラガラ300回で金貨3枚を綺麗に使い切った結果、10個の“マジックリング”と、1個の“ユニークアイテム”をゲットしたらしい。それ以外、何往復したのか……鍋や革袋、ガラクタ同然の雑貨類などが部屋の隅に積まれていた。
300回で大当たりが1個、中当たりが10個、それ以外はハズレという相変わらずシビアなガチャ。確率は大当たり0.33%、中当たり3.3%か……買い占める気がなければ、怖すぎて引かないでしょ。
普通に売れば金貨2枚の商品が3枚で売れるうえ、不要な在庫を処分出来るという阿漕な商売だ……。今回は“シークレットレア”が最初から入っていなかったのがちょっと残念ではある。
「赤1つ、青4つ、緑5つか。それと……」
目玉商品の“ユニークアイテム”は“光の腕輪”だ。
ゲーリックから聞いた説明をまとめると、いわゆる光学迷彩のような物らしい。犯罪臭が漂う夢のアイテムだな!
ネットで調べると、光学迷彩と言っても映像投影型、光の回折型、空間歪曲型、電磁波吸収型などがあるらしいけど、この腕輪がどれに該当するのかは分からない。科学で解決出来ないところが魔法というファンタジーなのだろう。
因みに、マジックリングの内訳はこんな感じ。
<赤>
・土魔法/下級:10kg程度の土を生み出す
<青>
・治癒魔法/下級:軽傷や軽い病気を癒す
・治療魔法/下級:軽傷や軽い病気を癒す
・肉体強化Ⅰ/下級:筋肉力を少し上昇させる
・肉体強化Ⅱ/下級:生命力を少し上昇させる
<緑>
・魔道具製作/中級:魔力付与が可能
・鍛冶魔法Ⅰ/下級:基本武器の製作
・鍛冶魔法Ⅱ/下級:基本防具の製作
・運搬魔法/下級:軽い物を動かせる
・食物超吸収:大便、小便を排出しない
魔道具製作だって!?
これはチートアイテムの予感。自作する方が探して買うよりも必要な物を入手しやすいし、何より楽しい!
それにしても、下級とダブりが多いな!
魔力を消費してステータスアップするくらいなら、身体を鍛えろよと言いたい。それに、鍛冶なんかよりもお金で装備を買う方が楽な気がする。
「ゲーリック、ありがとう。なかなか良い物が手に入ったよ!」
俺の険しい表情を見て渋い顔をしていたゲーリックに一言伝えると、人懐っこく笑顔が咲いた。
本音は、良い物は“光の腕輪”と“魔道具製作”くらい。でも、この2つで大きく世界が広がった気がする……何と言うか、俺の煩悩が騒ぎ出す感じ?
その後、日が暮れる直前にやって来た大工さんとの打ち合わせを終え、簡単に水浴びと食事を済ませてから早めに寝ることにした。
全員に個室を与えられなくて申し訳ないけど、健全な部屋割りをして寝てもらった。
★☆★
【5月22日 / 3月8日(水) 21:35】
窓から入る春らしい爽やかな風と陽光で目が覚める。
目が覚めると言うよりは、意識がはっきりすると言った方が良いかもしれない。
俺は完徹7時間ぶっ通しで魔道具製作の熟練度上げに励み、今では消費魔力も1/3に減り、効果もある程度理解出来るようになった。
説明書通りにやってみたところ、思っていた通りの便利な魔法だと分かった。
この魔法は、物体に効果を直接書き込むことで、その物体に使用可能な他の魔法を組み込むことが出来る。ポイントは、文言だけでなく術者のイメージで微妙に調整出来るということ。しかし、中級の壁か、1つの物体に1つの魔法しか書き込めないし、使用する際にも魔力を消費するという欠点があった。
例えば、こんな魔道具が作れた。
1. 危険を知らせる石
これは危険察知を組み込んだ魔道具だ。作り方は超簡単で、拳大の石に“危険察知”と書き込んだだけ。これを手に持ち屋敷を出て怪しげな路地を歩く。ゴロツキが近づいてくると、何と、飛○石みたいに光り出したではないか! 残念なことに、色は黄色だった。因みに“触れると”と書き込まなかったからか、紐で首から提げるだけでも弱く光った。棒に吊るして実験する。身体から離すほど光り方が鈍くなり、30cm以上離すと光らなくなった。この距離が魔力の届く範囲なのかもしれない。その後、絡まれる前に無事逃走することが出来た。
2. 水が涌くハンカチ
ハンカチに“触れると水が出る”と書き込んだ。水道水をイメージしたからか、触れている間は常に一定量の水が出て、普通に飲めた。因みに“触れると40度のお湯が出る”と書いても発動しなかったが、“触れると40度の水が出る”と書けば発動した。お湯=火で温めた水=火魔法+水魔法だとイメージしたからなのか、“水”という文言が含まれていないと水魔法を発動出来ないからなのかを検証したところ、後者だった。どうやら、各魔法発動の為のキーワードが必要らしい。実験後、床が水浸しになって大変だった。オネショだと思われたら悲しい。
3. 空飛ぶ椅子
まず、椅子に“触れると1m浮遊する”と書き込んだ。そして、右の肘掛に布を巻き“触れると前に1m移動する”、左にも“触れると右回りに回転する”と書き込んだ。それにより、ゆっくりだけど自由自在に飛べる椅子を作ることが出来た。複数素材を用いた浮遊魔法と運搬魔法の組み合わせだ。使用する際の魔力消耗を調べると、50回で頭痛がした。試しに“1m”を消すと、触れている間だけ動かせるようになった。意外なことに、同じ運動量で比較すると前者の消費魔力が少なかった。付与する内容を具体的に示す方が消費魔力は少ないようだ。“降下”を付与し忘れて天井付近から飛び降りることになった。
4.熱い石
危険を承知で火魔法を組み込んでみた。小石に“触ると燃える”と書いて触れてみたが、発動はしなかった。いわゆる“A酸素がある、B燃える物体がある、C発火点以上の温度がある”という燃焼3条件を満たさないからだろうか。余談だけど、江戸の火消しは水を撒くよりBを優先して建物を壊す方法を採ったのは有名な話だけど、そもそも水による消火は、A水蒸気で酸素を遮り、C発火点を下げるという併せ技だ。今回は、石が無機物だからBの条件を満たさなかったのかもしれない。これだと炎の魔剣みたいなのは出来なさそうだ……。でも“触れると100度になる”と書くと、小石は徐々に熱くなった。手を離してからもしばらく熱さを保っていた。火魔法は“燃える”以外に“熱する”効果もあるようだ。“1000度”と書いたらどうなるのだろう……。
これらの実験の結果から、お風呂&シャワー・温水洗浄便座・フライパンや鍋の調理器具の目処がついた。
朝食の時間を使って今日の予定を皆に説明する。
最優先事項である雑貨屋さん捜索と並行して、塾の開校に向けても動き出すことにする。
「これから皆の首輪を外します」
開校の目処が立ってから奴隷解放をしようと思ったけど、そこまで待たせると数ヵ月、数年と掛かってしまうかもしれないからね。
いきなりの話題に、7人の視線が俺に集中する。
『やっぱり僕なんかいらないんですね……』
『せっかく幸せになれると思ったのに』
『……』
『至らぬところがあったのならご指摘を!』
次々に苦情が……なんでだよ!
「もう十分手伝ってもらったから。それに、塾の方は時間がかかりそうだし」
そう言いながら、一人ひとりの首輪を外していく。
外し方は簡単だ。主人である俺が直接触れながら魔力を込めるだけ。首輪の精神魔法の効果か、拒否したり暴れる者はいない。
全員の首輪を外し終わると、テーブルに銀貨を5枚ずつ置いていく。
銀貨5枚なら1ヵ月間は問題なく生活出来るでしょ。そのうちに生活基盤を整えることも可能なはずだ。
「生活に必要なお金(銀貨5枚)を渡します。今までありがとう、もう自由だからね!」
皆が下を向いたまま銀貨を受け取ろうとしない。
自由ってそんなに嫌なものなのだろうか。それとも、甘やかし過ぎてしまったのか……。
「故郷に帰るも良し、旅に出るも良し、この町で働くも良し。もう君たちを縛る物はないんだ。自分の道を選んでくれ。本当にありがとう」
相変わらず反応がない。
一人ひとり話をするか……進路面談だ。
「分かった。一人ずつ2階の俺の部屋に来てほしい。希望もちゃんと聞くから」
最初に入ってきたのはラグランディだった。
「君は冒険者だよね。もう自由なんだ、パーティに入るなり、募集するなりすればいい」
『ハルキ……俺はまだ恩を返しきれてないと思うんだが、本当にいいのか?』
「当たり前だ。冒険者は自由であるべきだ、そうじゃないか?」
俺は当然のことを言っただけだ。
ラグランディは、泣きながら俺に土下座をして去って行った。
こういう熱い男って憧れるな。
次に入ってきたのはフリーダだった。
「カルーアの酒場に戻るんだよね。“対の扉”を使って良いよ。いろいろと手伝ってくれてありがとう」
『ハルキさん……ここで働いても構わないと仰いましたよね?』
「フリーダさんに働いてもらえると助かるけど、恐らくまだまだ開校まで先は長いし、お父さんも戻ってきて欲しがってるよ」
『父は私が説得します! 私はもうオトナです。自分の進路は自分で決めます。私の希望は、ここでハルキさんの為に働くことです!』
希望か……。
日本で勉強して挫折した自分を振り返ると、こういう子の希望は叶えてあげたくなるな。
「俺はね、冒険者になってDランクを目指さないといけない。正直、何年かかるか分からないんだ」
『冒険者……』
「塾の準備が出来たら必ず呼びに行くよ」
『……分かりました。いったん帰ります』
目に涙を浮かべながらフリーダさんが出て行った。可愛い子だったけど仕方がない。あの子が剣を振り回している姿なんて想像が付かないし。
次にゲーリックが入って来た。
「今までありがとう。故郷に帰っても大丈夫だよ」
『故郷ですか……我々種族は忠義に厚く、一度主人と決めた方へ尽くすのが使命です……』
「家族が心配しているでしょ」
『それはその通りですが、忠義が……』
「家族を大事にしてほしい。それが俺の希望だ。忠義と言うなら俺の言う通りに故郷に尽くしてほしい」
『ご主人様がそう仰るのでしたら……』
ゲーリックが尻尾を下げて出て行った。
忠犬さん……君のこと嫌いじゃないよ?
でも、聞いた話だと、子どもが3人もいるそうじゃないか。父が奴隷狩りに遭ってそのまま帰らない家庭ってどうよ!?
次にカイが入ってきた。
『僕って役に立ちませんよね』
「そんなことはない。君の能力ならヘルゼでも仕事が見つかるはずだよ。若いんだから何事もチャレンジしなきゃ!」
『チャレンジ……そうですよね』
「見つからないならフリーダさんの酒場で雇ってもらえるように話をしてあげるね」
『ありがとうございます。自分で探してみます……』
「うん、頑張れ!」
俯き加減に去っていくカイ少年。
孤児からの奴隷か。11歳にして激動の人生だね。でも、見た目も可愛いし、ここから大逆転できるはず!
マリーさんが入ってきた。
この子、親に売られたんだった……。
「故郷に帰るのが難しいなら、ヘルゼで仕事を探してみたら? マリーさんならいくらでも仕事が見つかりそうだけど」
『家事でも何でもします。雇ってください!! 』
「でも、俺は冒険者になってDランクを目指さないといけないんだ。何年かかるか分からないけど」
『なら、私も冒険者になります!』
「えっ……」
『体力と根性なら自信があります!』
全員を解放したいんだけど、どうしよう……。
だって、生徒たちをこの屋敷に呼んだときに説明のしようが無いんだよね。二重生活とかストレスで禿げそうだし。
「と、とりあえず……塾の開校準備が出来たら働くということで、それまではどこかで仕事を……」
『嫌です!』
この子って、こんな強気な性格だったっけ?
う~ん……仕方が無いか。
「分かった。家事とかお願いするね。条件は後で決めよう」
『ありがとうございます!! 』
ガッツポーズで出て行くマリーさん。
給料の感覚が全く分からないや。
次にリリィが来た。
死んだことになっている元貴族の身のフリ方……そんな進路相談なんて出来る訳がないだろ!
「カルーアの領主の所に行くのが良いと思うよ」
『あの変態の所になんか行かないわ! 1ヵ月で妊娠しちゃう』
「……」
『ハルキとここで暮らすわ』
「俺は冒険者になるんだよ。リリィは仕事を探して自立すること」
『意地悪……私のお尻触ったくせに』
「はいはい、凄く可愛いし、読み書きが出来るんだから仕事は探せばあるでしょ!」
『夫婦で冒険者ってのも憧れる!』
「俺の話を聞いてないよね?」
『運命なのよ』
「……」
『それに、私には魔法の才能があるし!』
「そうなの?」
『ハルキほどじゃないけど、絶対に役に立つわ!』
この世界で魔法の才能がある人は少ない。性格はきついけど顔は良いし、後々魔法の講師になってくれたら助かるか。講師は顔が命だからね。
「分かった。期待してるよ!」
『はいっ!』
顔を赤くして出て行くリリィ。
会話が噛み合わず、妙な勘違いをされてそうで心配だ。
最後にフマユーンが入って来た。
この子は常にボーっとしていることが多いんだよな。視点が合っていないというか、虚空を見ている感じ。
「フマユーン、君は故郷に帰るべきだね」
『……だ』
「ん?」
『……んだ』
「聞こえない……」
『全員死んだ』
「えっ!? 」
この子は妖精族だと思う。もしかして、奴隷狩りか?
『行く所がないよ……どこに行っても捕まる。また奴隷にされる』
「どこかで仕事を……」
『無理。私の血は希少。絶対に売られる……だから守ってほしい』
「守る?」
『冒険者になるんですよね? なら私も。ハルキはフーを守る。フーはハルキを守る』
「分かった。きっと守るよ。だから泣かないで!」
ふぅ。
可愛い妖精に泣かれて懇願されたら断れっこない。
マリーさん、リリィ、フマユーン……結局、3人も残ることになったか。まぁ、自立するまで面倒を見てあげるさ。
食堂に戻ると、そこでは4人が談笑していた。
「フ、フリーダさん!? 」
『父を説得してきました! 私も冒険者になります!』
「えっ……」
1人増えた……。
結局、男性3人全員を追い出し、女性だけ全員残してハーレム作り。何をやってんだよ、俺!
不可抗力とはいえ、雑貨屋さんにリア獣爆ぜろなんて言えなくなってきた。
こうなったら、“光の腕輪”を常時発動して……いや、ダメだ!
理性よ蘇れ! 気持ちを切り替えるぞ。
「希望者は冒険者ギルドに登録しに行こう」
開業に必要な要件は、商業ギルドか冒険者ギルドでのDランクだけど、俺は冒険者を選んだ。
商業ギルドでのランク昇格にはかなりの時間が掛かるという理由からだ。冒険者に比べ生命の危険が少ないとはいえ、1ランク上げるのに最低2年というのは厳しい。それに、貴族社会のマナーを身に付ける面倒が増えそうだし……。
結局、マリーさん、フリーダさん、リリィ、フマユーンの4人全員を連れて冒険者ギルドに向かうことになった。
俺は俺自身の開業要件の為に行くけど、この子たちも今後どこかで役に立つこともあるだろうから登録をしておこうという話になった。
住宅街の隅にある屋敷から、歩いて10分ほどで冒険者ギルドに到着した。
外から見ると鹿鳴館のような建物だ。
アーチ状の入口を抜けると、喧騒と言っても良いほどの活気が溢れている。重低音の怒鳴り声、甲高い笑い声……築地市場のような雰囲気だ。
日本とは違い、マナーよく並ぶという空気はないようだ。
迷子防止の為にマリーさんとリリィ、フリーダさんとフマユーンの手を繋がせ、人の波を掻き分けながらカウンターを目指す。
「冒険者登録をしたいのですが」
『はい、初めての方ですか?』
「そうです。俺と、この4人です」
『ではこちらに……』
最も暇そうにしていた太目の男性職員に登録を依頼した。
ファンタジー小説定番とも言える、ロリ美人と巨乳お姉さんの受付嬢が人気2トップらしい。今日のところは野郎で我慢しておく!
最初は能力値を測定し、ギルド職員と話し合って職業を決めるらしい。それから冒険者登録をして、細かい説明を受けるんだとか。
言われるままに大理石風の台座に右手を乗せる。
台座が光り、そこにステータスが印字されていた。
これ、鑑定系の魔道具だ……。
異世界人だってバレたらどうしよう!?
【name:チバ・ハルキ】
25歳/男性/人間族/175-63
筋肉力:37
生命力:42
瞬発力:35
技術力:45
知識力:93
精神力:70
魅惑力:91
包容力:77
適応力:82
魔才能:99
『す、すごいですね……』
「あ、はい……」
どうやら異世界人ということはバレていない様子。
安心した反面、人間界では超凡人なのに、この世界では超高ステータスらしい。異世界補正バンザイという奴か。
ステータスの内容を確認しておいた。
【name:登録者の名前】
年齢/性別/種族/身長-体重
筋肉力:パワーや肉体の頑丈さ
生命力:体力や健康度
瞬発力:柔軟性とスピード
技術力:器用さや戦闘テクニック
知識力:世界の真理に対する理解度
精神力:意思や根性、イメージ力
魅惑力:ルックスやカリスマ性
包容力:心の優しさや正義感
適応力:理解や習得の速度
魔才能:魔法適性能力
このステータスだけど、能力要素を10項目に分け、冒険者の全データを元に0~99の100段階で数値化したもの。勿論、高いほど能力が優れている。
これは各項目ごとに算出された全冒険者の、まさに偏差値だ。それを聞かされるとチート臭が漂い過ぎだ。俺は今、目立たないように生きると誓ったぞ!
偏差値の感覚と同じように、70以上はとても優秀、80を超えると天才、90以上なんて普通はあり得ない数値らしい。その90以上が3つもあった。
特に驚かれたのが一番下の魔才能だ。
マジックリングや魔道具の要求才能値はこの項目の数値に対応していて、一般魔法70、下級魔法75、中級魔法80、上級魔法85、超級魔法90となるらしい。いわゆるユニークアイテムは魔才能90以上の超級に相当するそうだ。ということは、生徒たち全員が魔才能90以上ということになるのか。
よく見ると、俺のステータスでも上の方は非常に低い。腕力には自信があったけど、この世界のマッチョや獣人と比べると相手にならないということか。
平均してみたら67.1もあった。目立ち過ぎだ……。
因みに、他の子の数値はこんな感じだった。
【name:マリー】
24歳/女性/人間族/162-54
筋肉力:31
生命力:36
瞬発力:32
技術力:36
知識力:25
精神力:63
魅惑力:77
包容力:75
適応力:56
魔才能:30
70以上が2つある。他も女の子の割にはゴツい数字だ。平均は43.1。
【name:フリーダ】
16歳/女性/人間族/160-49
筋肉力:29
生命力:34
瞬発力:37
技術力:43
知識力:64
精神力:62
魅惑力:85
包容力:78
適応力:68
魔才能:55
70台が1つと、なんと80以上が1つある。平均55.5というのはかなり優秀だ。
【name:リリィ・ストロベリー】
13歳/女性/人間族/154-46
筋肉力:26
生命力:30
瞬発力:52
技術力:42
知識力:78
精神力:62
魅惑力:88
包容力:54
適応力:72
魔才能:78
さすがにお嬢様だ、カリスマがやばい。70台も3つあり、平均は58.2もあった。
【name:フマユーン・ラズベリー】
14歳/女性/ハイエルフ族/146-38
筋肉力:17
生命力:21
瞬発力:42
技術力:75
知識力:80
精神力:89
魅惑力:95
包容力:86
適応力:82
魔才能:88
ハ、ハイエルフさんでしたか……言われてみると納得だ。凄いステータスだけど、上の2つが低すぎて拉致されちゃうのも分かる気がする。
平均67.5……真正チート現わる!
って、担当職員が泡を吹き始めたぞ!?
他の職員さんが代わりに説明してくれた。
冒険者ランクは、F→E→D→C→B→A→Sの7段階らしい。Gから始まらなくて良かったよ。
肝心なランク昇格は、クエストの内容と達成回数による。
因みに、1ランク上げる為には自分のランクのクエストを50回クリアする必要があるらしい。1つ上のランクも受理でき、自分のランクのクエスト3回分にカウントされるとのこと。逆に、失敗すると賠償金及び減点が待っている。まぁ、生きていればだけど。
大変なのは数日間にも及ぶ討伐クエストばかりのCランク以上だ。
EFの低ランククエストは、日数もかからず場所も近い為、ランクがサクサク上がるようだ。1日1クエストでも約3ヵ月でFからDに上がれる計算だ。
俺の場合、Dランクが目標なのでそれほど困難じゃない、かな?
『安全確保の為、ギルドはパーティ結成を推奨する。6人以下なら同一クエストを共同で受理出来る。でも、サボるとバレるからな』
お兄さんはそう言いながら、白いギルドカードを渡した。
スマホサイズで意外と分厚い。これも魔道具らしく、電磁データのように様々な情報が登録されているらしい。
『ハルキとフーが凄すぎて自信無くした』
『リリィも才能が凄いじゃん』
『フーは特別なの。本当に凄いのはハルキ』
『薬草採取とかに才能なんて関係ないもんね! さぁ、今日は目標3つね!』
5人パーティを登録し、クエスト掲示板へと引き摺られるように向かう。
さすがにFランクは採取・採集とお手伝い系ばかりだ。
期限付きクエスト“F12毒草除去”・“F13薬草採取”・“E5食堂の店員補助”の3つをカウンターで申し込み、4人は楽しそうに外の林へ走っていく。
俺はちょっと距離を置きながら追いかけていく。
このパーティの名は……恥ずかしくて言えない。
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