第3話 リバラシオン

午後二時

サイザリアから出た俺らは、近くのゲームセンターへ向かった。雲ひとつないこんな晴れ晴れした日には外でスポーツの一つや二つ、したかったがーーあいにく俺の相棒達は頭脳派で運動音痴のためスポーツが絶望的にできない。なのでここは諦めるという以外の選択肢しか俺に与えられていないのだ。

まだ夏の暑さが残る並木道を俺ら3人は並んでゆったりまったりと歩いていた。

「しっかしあっついなぁーーさっさと免許とりてぇー」

などとワイシャツの第二ボタンを外して汗ダラダラ状態の康太は、今にも力が抜けてしまいそうな声でそう言った。

「温暖化もいいとこだろ、ホント。」

と俺が康太に共感した途端、機械大好き少女は、待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべて、

「はっはっはーーごほんっごほんっ、こんな暑さうちの天才的な発明があれば米粒の大きさほどの問題やわ〜。たったら〜『ホットバスタ〜』このクリームを体に塗ればなんと!!その名の通りホットな状況をバスターしてくれるって訳や〜。全身がたちまち涼しくなるで〜?チャレンジしてみーへんか?お2人さん。」

そう堂々と出されたものの、どうもそのホットバスターとやらは怪しく胡散臭いオーラが漂っているため、正直自分から塗ろうという考えには全く至らない。

「.......いいんちょーがつくったものは全部、何かしらで不具合が起きたりするからな...」

康太は肩を落としていやいや感丸出しの視線を委員長に送っている

「それな....」

と俺もため息をつきながら康太に共感した。

「えぇーー2人とも酷いやんか〜ほれほれぇぇ〜ものは試しやでっ☆」

そう言いながら委員長はゆっくり且つ素早く、忍者の如く俺らの背後に回り込んで、その手には自製の無色のクリーム、ホットバスターを塗りこんでいた、

「「あ.......」」

気づいた時にはもう遅かった、塗られてしまっていた....ホットバスターを首あたり一面に塗られてしまった....あの液体を塗られたら何が起こるか分かったもんじゃない!

あぁー俺はついに命尽きるのであろうか... 神様仏様ルシファー様ーーと俺が心の中で神達を崇めていたその時、康太に異変が起きた。

「ん、あれ?なんか急に涼しくなった??」

なんと康太は目を丸くしてそう言ったのだ。それを半信半疑に聞いていた俺にもこの直後に効果が表れた。

「う、ウソだろマジだ、、あのいいんちょーがまともな発明するなんて....明日原爆でも降ってくんじゃねーか?.....いやはたまたどこからか核ミサイルか?」

というのは委員長の作品の数々はほんっとにそれほど駄作で使えないものばかりなのだ。

「あったりまえやないの〜うちの作ったもんは大抵、安全安心最安プライスで皆さんのお家にお届けってのをモチベーションに作っとるかんね?たまに失敗もするけれどもあんなん失敗のうちに入らん入らんよ〜〜どー?お二人さんこの今日夏ちゃん発明したホットバスター!今ならなんと1ダース12個入りで3980円!3980円でのご提供やで!!今がお買い得!今がチャンス!今しかない!」

とこの能天気委員長はだろだろ〜と言わんばかりに手首を上下に振って笑いながら、勧誘もちゃっかりしてきている。彼女のその姿からして、よっぽど褒められたのが嬉しかったのだろう。

それを言い終えた途端委員長がハッと何かを思い出したかのような顔をして、

「あ、言い忘れとったけどそれね、運動とかして体を動かすと動かしたぶんだけ、ものすっごい寒くなるからな☆」

と笑顔で俺らを見ながらそう言った。

やっぱりか!!!こいつ俺らの期待を返せ!!と俺と康太は言いたかったが今回は流石に呆れ果ててしまい、共にアイコンタクトを合わせて無言でこの場は突き通し、俺と康太は先程よりも肩をさらに落としてゲームセンターに向かうのであった。


ゲームセンターに入ると外とは全く違った空間が広がっていて、涼しく快適な空気と騒がしいゲーム機の音が店全体に響き渡っていた。店に着いて早速、康太と委員長は俺を置きざりにして、2人対戦の格闘ゲームをプレイした。2人とも夢中になっていたので、邪魔するのは悪いと思った俺は、委員長らをそっと残して、1人近くのコンビニまで飲み物を買いに行った。

俺はコンビニで買ったカルピスソーダを片手にコンビニ前のイスに腰掛けた。

「しかし人間界はいつもいつも夏になると暑いですね旦那様、なぜ人間界ってこんなにデビル暑いんでしょう?」

と素朴な疑問を問いかけてきたアルルに対し、

「そりゃ、あれだよ、やっぱ地球温暖化じゃねーか?アルル。人間が石油、石炭、ガスや灰をだして地球の温度を上げてるんだよ。」

その素朴な質問に俺も素朴に回答をした。

「人間って、そーゆーところ、愚かですね。」

とアルルが冷たい言葉を言い放った。その数秒後にアルルが突然声を張り上げた。

「旦那様、、近くに魔界の物の魔力を感じます。半径50メートル以内にいます!」

アルルは常に体から微弱な魔力を常に放出しているため、他の悪魔が少しでも魔力を使えばそれを察知し、この様に感じ取ることができる。

「悪魔だと分かっても、そいつが本当に悪い奴かどーか、わかんないじゃん?」

俺はゆったり腰をかけてアルルの方を見ながらそう言うと、

「確かにそうではありますが、一応それが善なのか悪なのか見極めることが必要です。」

と言う彼女の視線が痛いし断る理由もなかったので、

「よっし、じゃ、いっちょやるか〜アルルそいつまでのナビを頼む。」

俺は椅子から立ち上がりアルルと共にそいつの場所まで向かうことにした。

「オールクリア、かしこまりました旦那様、どうやら住宅街の方向にその悪魔がいるみたいです。先ほどのゲームセンターを右に、そして左、さらに真っ直ぐ進んで、右斜め前の路地に入って下さい。」

俺はアルルのナビに沿って全力で走った。

やっべ....そういえば委員長にさっき塗られた奴、あれって運動すればするほど物凄く冷却していくんじゃ.....?? と、思った時にはもう遅かった。

「やばいやばい、首が冷たい冷たい、冷たすぎる死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!、寒すぎなんだけど!!、ガチやばい本体はクソ暑いのに首だけドライアイスみたいに冷たすぎるんだけど!!」

誰もいない、誰も話しかけて来ない住宅街で1人、大声で叫んでいる俺がいた。恥ずかしすぎて死にそうだ。

「旦那様、すいません。解毒や状態回復魔術はアルッシュくんしか出来ないので。」

「お、おぅ、大丈夫大丈夫ーー今んとこどうにか堪えてるから心配すんな、今は敵にあった時に悪魔を “リバラシオン” にさせる可能性があるからそれに集中集中。」

“リバラシオン”とは悪魔を人間の体から引きづりだし、完全消滅させる魔術である。俺も一応悪魔祓い、という役職に就いている訳だが、このリバラシオンで悪魔を消滅させるには色々方法はあるが、やはり1番手っ取り早いのはバトルして勝つことだ。

俺は自分自身に気合いを入れ直したその時であった。

「オールクリア、旦那様ターゲットを見つけました。あそこの二階のベランダにいるあの男の人です。」

遠くからは後ろ姿と長い髪の毛しか見えなかったが、見るからに怪しく、しかもモロ空き巣をしていたので、彼が善か悪かは聞くまでもなく、すぐ様そいつをリバラシオンの対象にした。俺はふと、先ほどサイザリアで委員長が言ってた、都市伝説で語れられている*空き巣* というのはこいつのことなんだと感覚で悟った。

「リバラシオンの方法はいつも通りでいいですよね?」

アルルは首を20度わざとらしく傾げて問いかけてきた。

「勿論」

「オールクリア、仰せのままに」

そう言うとアルルは俺が中学まで使ってた竹刀を取り出した。俺の竹刀はアルルに管理してもらっている。

俺の竹刀は元々普通の竹刀だったがアルルとアルッシュ共有のストックゲージの中に収入すると、その物を使う持ち主の魂の一部が宿り、物と持ち主のパワー、使いやすさ、属性、形状などがそれに伴い変化する。俺の場合、このストックゲージには竹刀しか入れてないが、どうやらその竹刀はストックゲージに入れたことにより、俺の好きな時に形状、パワー、属性、その全てを自由自在に変形することができる。ストックゲージに入れている理由として他に、どこでも好きに取り出すことができること、そして俺自身があまり竹刀を視界の入る所に置きたくないということがある。目につくところに置いていると無意識に昔の記憶が蘇るからだ。それを防ぐためいや、回避するためという訳だ。たまにこうしてリバラシオンをする際や戦う場面で使う分には特に支障がないため使用している。

「半径1キロメートル以内に一般市民による干渉妨害フィールド起動、メアドライブ発動。」

すると、彼女を中心に半径1キロメートルに魔術結界が張られた。メアドライブには悪魔とその場にある人間世界の物を完全コピーして閉じ込める能力はある。これでのびのびとバトルができる。

「さぁーて、おいそこのベランダから部屋の中に進入した長髪!とりあえず出てこーい。」

俺がそう叫ぶと、すぐに男はベランダの外へと顔を出して、

「やれやれだ、空き巣がばれない自信はあったんだけど、君みたいな若者に見つかってしまうとはー、いやはやーーまだまだ磨きをあげませんとな。おや?君も悪魔が取り憑いているのかぃ?さっき悪魔の波動みたいなのはメアドライブだったのか...それで、私に何かご用件でもあるのかな?わざわざメアドライブまで使って、しかも私のみを特定して探し出す輩なんて貴方が初めてですよ。」

不気味な笑みを浮かべながら彼はそう言うと俺もそれに対抗して、

「あんたに取り憑いた悪魔をリバラシオンさせて、一般市民に戻すためにここに来た。さぁ悪魔よ、その長髪男の体から離れろ!!」

と、取り憑いた悪魔に対して要求した。

「だとさ、ルニウェイ。」

と男はボソッとそう言った。するとその悪魔は本性を露わにし、先ほどとは口調をガラリと変え、

「よぉーーガキぃぃぃぃ!俺がアークバインド=ルニウェイだ!! よく俺の数秒しか放っていない魔力だけでここまでたどり着けたなぁ〜この男の体は取り憑きやすくてなぁ、世間への絶望感が絶大で中々心地いいんだわ〜こいつ。会社でも上手くいかないし、恋人は生まれてから出来たことないし、おまけに趣味もないときた! いやぁここまで絶望しきってる人間の体に乗り移るのは最高に舞い上がるネェェェェ!!! 」

悪魔はその長髪男の声を使い悪どいオーラを放ちながらゲスな顔をしてニヤついている。

「ヤロウ.....悪魔ってのはなんでどいつもこいつもこんな感じなんだ。」

「旦那様、これは少々厄介です。彼に取り憑いているルニウェイと呼ばれる悪魔は、パワーや影響力は大して問題ないんですが、乗り移った体を完全にコントールし、その上、悪魔自身に大ダメージを与えるとすぐに取り憑いた古い体から離れ、近くにいる一般人へと新たに取り憑く能力を持っています。大ダメージを食らわせてからが勝負だと思います。弱点などはバトル中に分析しましょう。」

と言い残してアルルは俺と少し距離を離して立った。

「さぁて、お手並み拝見といきますかな、若者よいつでも、かかってきな。」

話し方からどうやら先ほどの悪魔、ルニウェイは一般人格とあの後入れ替わったらしい。


よほど余裕があるのか、1ミリもさっきから動いていない。だが俺は構わず、長髪男の体を切りにいった。アルルも俺に続いて「魔剣サイレントアクシス」という悪魔の魂のみを刈り取るという黒光りを帯びる紅色の片手剣を、ストックゲージから取り出して大振りに横に一斬り、さらにその遠心力を利用して立て続けに色んな角度から切り刻んだ。どうやら男は何一つ武器を所持していない様だ、これなら勝機はありそうだ!ちなみに俺の竹刀もアルルのストックゲージの武器も、全て人間界に存在してはならないモノだけを斬り殺すことができる。つまり神と悪魔の魂を切ることが出来る。そのため取り憑かれている人間にはダメージは一切ない。

「余裕かましていられるのも今のうちだぜ長髪。俺とアルルの剣術をナメないことだな!」俺は自慢の剣技 “バルザール”を長髪に叩き込んだ。この “バルザール”という技は体をしなやかに動かして、且つ剣の先の部分を使い、何度も突くと同時に相手の弱点を探る。そして最後の一撃でその急所に高速の一撃をお見舞いするという光技だ。ちなみに技ごとにも種属が存在しており、技発動毎にそのパワーの分だけ体力を奪われるという代償を経る。

俺と長髪男の戦いは更にヒートアップし、路地裏から人通りの多い商店街まで、気付けばかなりの距離を移動していた。

長髪男は依然として武器を所有する素振りや反撃の意思は見せずに軽々しいバックステップと得意のスピードで俺の剣技を次々と躱す。何度切りにいっても相手の体にかすり一つしなかった。ということはつまり、悪魔の特性もしくは何かしらの魔術を使ったのだろうか。

「若いのにその素早い動き、正確な剣さばき、実に大したものですな〜悪魔が取り憑く前の俺ならば100パーセント躱せなかっただろうが、今の私ならばルニウェイの力を借りているお陰で、すいすい躱せるわ!!」

本当に一撃も当たらない....こうも全くかすり一つしなければ俺の今までやってきた剣道の名が廃る。こうなったらあまり使いたくはないが、アレを使うしかない!

「凰牙流奥義、三段の構え、5番、”乾坤一擲”(けんこんいってき)!!」

元々この技というか剣術そのものを、俺は幼稚園の頃からの師匠、凰牙勇人先生から伝授して貰ったものだ。先生は俺が中学に上がった頃に突如姿を消されてしまったが…あの人はどこで道草を食っているのだろうか。それはさて置き、この技はものすごい体力を消費する代償があるが、先ほどの “バルザール”より遥かに破壊力とダイレクトポイントを決めることができる技である。その技を使ったことにより俺の竹刀の属性が光技から天神の技<アマノ戦技>に代わり、竹刀が鋼の如く固く、銀色の輝きを見せた。ようやく彼に数発当てることができたが、やはりどれも急所には至っていない様子だ。しかし、彼が自慢するだけあって確かに無茶苦茶スピードは速い。乾坤一擲がこんなに当たらないのは初めてだ。自慢の技が全く決まらないので、いつの間にか俺は我を忘れてしまって、ヤケクソに剣を振るっていた。

動けなくさせようと足を狙って、往復横切り技 “絶燐” を放った。長髪男はそれを物ともせずにまるでタカの如く、天高く跳躍した。俺もそれに負けまいと後を追いかけ高く跳んだ。

だが、男は一切顔色を変えずに、むしろ先ほどよりもニヤリと笑い、

「確かに君のその乾坤一擲とやらは私のスピードと同じくらい…いや、それ以上かも知れない。それは認めよう。しかし、それじゃあ到底私とルニウェイに及ぶことは出来ない!!」

長髪男は俺の技を体操選手のようなアクロバットさで交わしてみせ、ここにきて初めて反撃してきた。すぐ近くでサポートしてくれていたアルルが、突如、顔色を真っ青にして声をあげた。

「旦那様、その男性が出す魔術は危険な気がします!!避けて下さい!」

瞬間、長髪が出した魔術を俺は体を左に逸らし、アスファルトへ真っ逆さま。見事とは行かなかったが、どうにか態勢を立て直すことができて上手く足から着地できた。

「よくあの近距離でかわせましたね、中々骨がありますね!いやぁ〜しばらくこんなに楽しませてもらえる機会は無かったんで、久々に腕がなりますね!!」

と長髪は次々に両手から魔法弾を放った。先ほど魔法弾を撃った地面に、ふと顔をやると、そこはジューーーと鉄板のような音を立ててどろどろに溶けていた。どうやら先ほどの魔法弾は触れたものを溶岩のように溶かせるみたいだ。

「それにあなたの悪魔、名前はなんと申すかは分かりませんがー、かなりの上級悪魔とみました。あの数秒間で私の次の行動パターンと能力を推定出来るとは、いやはやー、恐れ入ります。」

男は商店街の屋根の上に立ってこちらを見下ろす様に話している。ここからでもはっきり長髪野郎の体に幾つかの切り口があることが確認できる。しかし、彼はそんなことは全く気にも止めずに、未だに表情一つ変えずに笑みばかり浮かべ、引き続き魔法弾を俺らに向かって次々と放つ。

「この魔法弾は “グランヘクテール”と私は名付けまして、ご覧の通りどんな物でもこれに少しでも触れれば、徐々に体が溶け出し、苦しみ、もがきながら死んで行くのです!!」

屋根から屋根に飛び移りって行く長髪男。正直俺は、あの高さまでジャンプし彼を先ほどまでの正確さで剣術をお見舞い出来る力も、そろそろ限界が近づいてきている。そんな中、今までほとんど黙り込んでいたアルルが、突如口を開いた。

「えぇ、貴方も中々ですね、私と、旦那様と互角に戦えてなお、これほどの殺傷力を誇る魔術を使えるとは、どうやら私達は貴方を甘く見ていました。」

するとアルルは黒い渦に包まれ紫の瞳が赤に変わり、長髪男の魔法弾に対して、

「闇より暗く、漆黒よりも暗き炎よ、その暗き燈を、悪に落ちいしモノを灯火せよ、、、貫け!! “アガレルス”!!」

と唱えると、黒く鋭い槍状の炎が無数に彼女付近の空中に出てきてそれを一目散に放った。その黒い槍はたちまち長髪の体を削りとった。これはかなりのダメージだろう。

「こ、これは、先ほどの剣術といいこの魔術といい、お前、まさかルシファーか!?かつての堕天が許されて天界に帰還したのではなかったのか!?」

アルルの魔術を受け、かなりダメージを食らった体で、よろけながら驚きを露わにした。

アルルは1人のルシファーとして男に説明した、

「えぇ、私こそは元天界の長にして天と魔をつかさどる力を持つもの。こんな感じですかね?もしアルッシュくんがこの質問に応えたのであれば。私は悪魔バージョンの人格なので天使ではありませんが。ルシファーかどうか、というご質問であれば答えはYESです。私たちはルシファーとしてーいや、あの行為はほとんど私ではなくアルッシュくんでしたけれども、天界でまたも過ちを犯してしまって再びこうして堕天されたのです。」

その解答に引き続きアルルは、

「私とアルッシュくんが再び天界に戻る為には貴方を駆除しないといけませんので遠慮なく排除させて頂きます。」

といい、さき程まで唱えていた“アガレルス”を再びそいつに向け、鋭い襲撃をかけた。

「アルル、たたみかけるぞ!!」

「はい、旦那様!!」

俺の”乾坤一擲”とアルルの “アガレルス”が長髪男を休ませる暇を与えることはないほどの勢いでそいつの体を切り刻んだ。

俺の剣とアルルの槍がグサグサと刺さる音がメアドライブの空間中に響き渡っていた。

長髪男の辺り一面には煙が出て、辺りは一瞬静かになったが…倒せたんだろうか?

ところが彼は煙の中からまた現れ、

「はははっ、残念だが負けを認めざる終えないようだ、お前らの方が私よりはるかに強い。なのでここで一次撤退させて頂くことにする!では失礼!!」

と言って、先ほど俺とアルルが放った技が出した煙を横切って逃げ去っていった。

「野郎!!クソっ追うぞアルル!!」

「オールクリア、旦那様脚力増幅魔術をおかけします。」

と共にアルルは “スピリッツ”をかけてくれた。さっき逃げていった長髪野郎にも数秒しない内に追いつくことができた。

「くっ、流石は大天使ルシファー。どんな魔術でも自由自在って訳か。この体はもう持たなさそうだ。どこかいい体は転がっていないものか。」

そう呟くのを聞こえたのか、もしくは聞こえては無いが悟ったアルルは、

「旦那様、このままではルニウェイがメアドライブの外へ出てしまい、他の人間に取り憑く恐れがあります。せめて彼の弱点さえあれば今すぐにでも浄化させることが出来るんですが.....」

アルルがそういってから間も無く、長髪男はアイスクリームを持っている子供の横を大きくわざと避け、弧を描いて通り過ぎた。何故わざわざ避けたのか....数秒脳内で考えるうちに、俺は咄嗟に閃いた。

もしや、氷やそれ関連の魔法や魔術ならば急所を突いて倒せるのでは無いのだろうか?俺は高速で走ってるうちに右ズボンのポケットに何か入ってる感じがした。恐る恐る手を入れてその正体を確かめて見ると、それは委員長が開発したホットバスターが入っていた。これ、いつの間に入れられたんだ?と疑問もあるが、それよりもこれは、もしかしたら今の状況に使えるかも知れない。

「アルル、提案がある。何でもいいから拳銃をお前のストックゲージから出してこの薬品を銃弾に塗ってあいつに撃ってくれ!」

俺はアルルに先ほど取り出したホットバスターを見せつけた。

「それはーー今日夏さんのホットばすたー?って奴ですね、これを銃弾に塗って当てればなにか起こるんですか?」

アルルは走っているスピードを落とさずに顔を俺に向けて問いかけた。

「んー多分な、確証はないが試す価値はあると思う。」

そんな俺のよくわからないしかも確信もない閃きに対してアルルはそれ以上何も問いかけてくることはなく、

「かしこまりました。」

そういうとアルルはストックゲージから“ボルテック・デルヴィーニュ”を取り出した。それは人間界から何処かの悪魔が拳銃を魔界へ持って帰りそれを改良したものだと前にアルルから聞いたことがある。ちなみにアルルのお気に入りの武器でもあるんだとか。

その銃にホットバスターを塗って、アルルは引き金を引いた。その銃弾は見事におっさんの肩を貫いた。貫かれたと同時にルニウェイはもがき始めた。

「うぁぁぁぁぁがぁぁぁぁ!ーーー」

銃弾がブチ抜いた肩から徐々に長髪の体が、いや、ルニウェイの魂のボディが溶け始めていた。彼は手で首を掻きながら叫んだ。見てるこっちが痛くなりそうな光景だ。

「今です旦那様、トドメを刺してきてください。」

正直誰かを殺すような感じになるので中々気が向かないが、これもルシファーと俺の日常のためだ。

俺はゆっくりと倒れてる野郎に近寄った。

「おい、ルニウェイ、いや、まだ取り憑かれる前の、正常の意識があるのならば聞いてくれ。俺はまだ学生だし、仕事経験はないし、頭もいたって普通で、今は部活にすら所属していないし、彼女だって今まで出来たことない超平凡な男子高校生だ。今の趣味だって、胸を張って言えるものはないけれども、友達と話したり、妹とアルルの作る晩飯、ルシファーの天界と魔界について知識を増やしたり、妹の演奏を聴いたりっていったごく普通の楽しみならばある。あ、天界魔界の雑談話は普通ではないけれど、そこは置いといて。。」

俺はゴホンと咳払いをして話を続けた。

「だからおまえがどんだけ必死こいてそしてどんだけ頑張って来たかはわかんねぇ、だけど俺は!今まで一生懸命頑張って来た人生の先輩がダメ人間で役立たずだったとは決して思わない!!普通に生きるのが何が悪い?普通な人生、人と同じような人生を送るのがそんなに恥じるべきことか?」

ルニウェイは依然としてもがきあがいていた。しかし、その瞳は先ほど光がない虚ろな影はなく、かすかに輝いて見えた。

「普通を恐れることはない!趣味だって人それぞれだ!部室に籠ってメカをひたすら作る、家に帰れば個室に籠ってゲームをするっていうのも趣味。ならば、普通に仕事をして普通に帰ってテレビ観て、起床し、明るい朝を迎える...普通の暮らしを送るのも俺は一つの趣味だと思う。確かにこんなのを世間様から見れば趣味じゃないのかもし知れない、だったら...だったら!そのごく普通の生活の中で自分らしさを引き出せて楽しく出来るものを見つければ良いんじゃないか?無駄な人間はいない、全てをこなせる完璧な人間も存在しない!誰にでも良いとこもあれば悪いとこもある!それを尊重し合うのが人間だと俺は思う。」

隣でアルルはつまらないごく一般的なことを一般的に1人で語ってるだけのお説教というか、お節介焼きを静かに見守ってくれていた。こんな大人に学生の俺が説教、しかも見知らない他人にこんなことを言うのはなにか申し訳さがあるが、まともに人生をもう一度踏みなおして欲しい、その願いを込めて俺はリバラシオンをする時、こうやって取り憑かれた相手と喋るのが俺のバトルスタイルでもある。まぁ喋るとは言っても俺の一方的な意見をただただ述べてるだけなんだけどな。

「じゃあな悪魔、最後に溶け死ぬのはどうやらおまえの方だ。その体は今度こそ返してもらう....滅せよ、邪悪な陰謀よ、悪魔の魂よ、其方の魂を俺が責任を持って神々に変わって裁こう。」

俺は息をふぅーと吸い込み静かに最後の消滅魔法を唱えた。

「エクシードエデン.....」

俺は大きく竹刀を縦に振った。

「クソォォォォぉぉぉぉぉぉ、このガキがぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ルニウェイの最後の嘆きが商店街に響き渡った。今度こそルニウェイが消滅したと証明できる確かな沈黙がそこにあった。その沈黙はルニウェイの駆除に成功したことの証明でもあった。

「おっさん、これからも頑張って働きなよ。近くで誰も応援しなくとも、少なくとも俺は応援してるぜ。頼みましたよ日本を、俺らの世代を。」

そう俺は言い残して長髪男、いや、ごく普通のサラリーマンを掲げた。おっさんに傷つけた傷自体はあの悪魔が肩代わりしてくれてるため今んところ、意識がないが無傷ではある。ところで今更だが、何故悪魔が悪魔狩りの魔術を取得しているのかが謎で仕方ないのだが.....

先ほど取り憑かれていたサラリーマンに関しては意識が無い状態なので、近くの公園まで俺とアルルが運んで長椅子に座らせて置いた。気がつけば彼自身今まで何をしてたのかとか取り憑かれていた時の記憶は全てなくなるらしい。なんて便利な設定なんだ。俺はおっさんの人間的社会復帰を望んでいる。この先、あの人は人生の選択を間違えることは無いのだろう。きっと大丈夫だ。俺とアルルは公園におっさんを1人にしてそのまま残し、帰宅した。

ふと腕時計を見ると、その時にはもう腕時計の時刻は6時を回っていた。

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