おしどり夫婦 ~愛は揺らぐ~

にのい・しち

おしどり夫婦 ~愛は揺らぐ~

「また他の女のところに行くの?」


 妻の問いかけに、夫は面倒くさそうに舌打ちをする。


「ねぇ、もう直ぐ子供が産まれるのよ!?」


「うるせんだよ! このアマ!!」


「きゃぁ!?」


 夫は妻の顔を、足で踏みつけ蹴飛ばす。

 

 あまりの仕打ちに、妻は打ちひしがれ、思う。



            ————もう、愛は無いのね————



 世間では、私達の事をおしどり夫婦、何て言うけど嘘。

 出逢ったきっかけは、私が野蛮な男に乱暴されそうになった時、彼は身を呈して私を守ってくれた。


 付き合ってからは、どこへ行くにも一緒。

 星空の下で「君の前で俺は盲目だよ」なんて言われて嬉しかった。

 それなのに……子供が出来てから急に冷たくなった。


 最近の彼は、一人で出かける事が多くなって、帰りも遅い。

 彼を信じてたけど、やっぱり不安になって或る夜、後を付けた――――彼の隣に知らない女が……。


 見知らぬ女に向かって「君の前では俺は盲目だよ」なんて軽々しく言うなんて…………目の前が真っ暗になったわ。

 それからは毎年、彼は別の女のところに行くようなった――――。



 妻は、立ち去ろうとする夫の、冷たい背中を必死で引き留める。


「待って!」


 だが、夫は無視した。

 彼女の声で、彼の愛情を取り戻すことは出来なかった。


 その時――――無邪気な泣き声が、二人の時間を止める。

 

 産まれたばかりの赤ん坊は、二人をつなぎ止めるかのように必死で”鳴き声”を上げる。

 妻が子を抱き寄せ、あやしいると夫が静かに寄り添った。

 

 彼女は彼に、新たな愛情が芽生えたことを確信する。

 

 夫は詫びるように、自分の頭を愛おしく、妻の頭にすり寄せる。


 妻は言う。


「この子のくちばし、あなたに似ているわ」


「そうか? 羽の色はお前に似てるぜ」


 卵の殻を破り次々と産声を上げるヒナ達、それを二人は幸せそうに眺めていた。



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 オシドリ。

 鳥綱カモ目カモ科オシドリ属に分類される鳥類。

 メスが卵を産むまでどこへ行くにも寄り添う。

 毎年、パートナーのメスが産卵を終えるとオスは別の交尾相手を探す。

 メスがワシやタカに襲われそうな時、オスが羽をパタパタさせ身を呈してメスを守る。

 鳥目なので夜は目が悪くなる。

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