擬似転校生抹殺
城多 迫
日野
「転校生を紹介します」
驚いた。
このクラスには昨日僕が転入してきたばかりだからだ。
「入ってきて」
担任の教師が教室の外へ向かって機械的に告げる。昨日もそんな調子だった。
教室に入ってきたのは、見るからに明朗な性格の男子だった。髪をほのかに茶色に染め、顔には人懐こそうな笑みをべったりと貼り付けている。
「ヒノケンタです」
ヒノケンタは黒板に日野健太と書いた。
「前の学校ではサッカー部でした」指についたチョークの粉を払いながら日野は言った。
彼は、いわゆる一軍の人間だったに違いない。これからもそうだろう。
「日野に何か質問あるやつー」と担任が気怠そうに発する。まるで日常的な事務作業に接しているかのような態度だ。
「はいっ」
委員長が勢いよく手を挙げる。
眼鏡でおさげ髪の女の子。昨日僕にも質問をしてくれた。初見で「いかにもな見た目だなあ」と思ったが、後から聞いたらやはりこのクラスの委員長だった。
「サッカー部では、どのポジションをしていましたか」
何の変哲もない、普通の質問だ。
「フォワードです。レギュラーでした!」
日野はにこにこと答える。僕はサッカーについては門外漢だが—何というか、フォワードというポジションは、彼の外見や態度に似合っている気がする。
「前の高校って何て高校ですか」と、今度は稲川という丸坊主の男子生徒が質問した。
「
生徒は皆、おおっと唸った。広明大附属と言えば、サッカー部は全国大会常連だし、有名大学合格者数も上位の進学校だ。
「なんでこっちに引っ越してきたんですか」稲川が質問を続ける。
「あ、親の転勤で」
興奮から一転、クラスが静まり返った。日野の至って自然な返答に、不自然な緊張が走る。
「え?あれ、何かのフリだった?ボケなきゃいけなかった感じ?」日野は照れ笑いした。
隣の席の柳が、前に座る橋田にひそひそと話しかける。
「スポーツ推薦にしろ、普通に受験したにしろ、広明大に入れたんなら一人暮らししてでも残るよな」
「サッカー部の寮とかあるだろ。わかんねーけど」と橋田。
「今回ちょろいな」柳がぐっ、と親指を立てる。
「日野って名字も、あの雰囲気に合いすぎてね?嘘くせー」「たしかに。とどめさすか」
密談を終えると、柳が立ち上がって質問をした。
「日野くん、何で親についてきたの?」
「何でって」日野は答えに窮して、俯いた。すぐ答えられないのが自分でも不思議なようだった。「家族だし」と、やっと出した答えは抽象的で不合理なように感じる。
「やっぱサッカー部の寮、あるわ」スマートフォンをいじっていた橋田が、振り返って柳に教える。
柳が机の中から何か取り出した。
彼が手に持っていたのは、拳銃だった。
「あぶね〜!あぶね〜って!」日野は半笑いで小さくかがむ素ぶりを見せる。柳がおもちゃの拳銃でドッキリか何かを仕掛けようとしている—日野はそう思ったに違いない。僕もそうだ。
次の瞬間、ズドンという音がして、日野が倒れて、火薬の匂いが僕の鼻に届いた。続いて、最初から存在していなかったかのように日野の身体がパッと消えた。
「当たった〜」
柳のこの言葉が銃弾の命中を指すものではないと、僕はまだ気がついていなかった。
「まあ……今まで本物が来たこと、ないし」橋田が僕を一瞥して、つぶやいた。
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