入寮日

そして4月になり、俺は15年間住み続けた地元を離れ、東京に向かった。地元を離れるのはやはり寂しい。




今日は入寮日だ。寮に着いたのは昼過ぎだった。寮母さんの話では、すでに10人ほどの女子生徒が寮に入ったらしい。俺は寮母さんの案内で、3年間生活する部屋に向かった。教職員が生活する部屋にあるとのこと。


部屋には風呂・トイレ・洗面台・洗濯機・冷蔵庫・キッチン・テレビが備え付けられていた。さしずめ一人暮らし用のアパートという感じか。念のため女子生徒の部屋はどんな感じかと寮母さんに聞いてみたが、全員一人部屋だが風呂は大浴場を使い、トイレ・洗面台・洗濯機は共用とのこと。テレビと冷蔵庫は各自で用意するらしい。


寮母さんの指示では夕食まで自室で待機とのこと。これから女子生徒が続々入寮してくるらしい。そのため俺は大量に置いてあった実家からの荷物を一通りまとめた。






夕食の時間になり、俺は食堂に向かった。俺がついた時には誰もいなかった。早く来すぎたかな。しかし、すぐに女子生徒が続々と登場。俺が食堂について10分も経たないうちに全員が席に着いた。


夕食の前に寮母さんからの話があった。寮母さんの話の内容は、食事と入浴の時間は各自の判断で行うこと、首都圏出身の生徒は土日を実家で過ごしてもいいこと、土日は業者がいないため食堂が開いておらず、寮母さんに作ってもらうか、各自で食事を取らなければいけないことなどだった。


寮母さんの話が終わると各生徒の自己紹介が始まる。まず現在芸能活動をしている生徒は10人。その概要はこちら。


アイドル 5人

子役・女優 3人

モデル 2人


続いて芸能人志望者は30人。その概要はこちら。


歌手志望 8人

声優志望 7人

女優志望 5人

モデル志望 5人

アイドル志望 3人

お笑い芸人志望 2人


そして出身地別に分けると、


北海道 2人

秋田 1人

宮城 1人

群馬 1人

茨城 1人

埼玉 2人

東京 8人

神奈川 5人

千葉 3人

石川 1人

静岡 1人

愛知 2人

京都 1人

大阪 3人

兵庫 3人

広島 1人

高知 1人

福岡 2人

沖縄 1人


これは俺を省いての人数なので悪しからず。


そして出席番号順に40人の自己紹介が終わり、俺の出番がやってきた。




「出席番号41番、男子枠として入学した渡辺優斗です。3年間よろしくお願いします」




以下は自己紹介を終えた俺に対する女子生徒数人の反応。




「ブ男じゃなくてよかったけど正直イケメンって訳でもないわね」


「そう?私は好みのタイプだけど。背もまあまあ高くて素直そう」


「顔は正直言って普通よね・・・性格が良ければいいけど」




まぁ、そんな反応想定の範囲内さ。初見じゃみんな慎重になってしまう。俺も女子生徒についてどう接していいのだろうか。




俺の自己紹介が終わると、やっと夕食に入った。今晩の夕食は入寮祝いなのかバイキングだった。来年、再来年に使う机に食べ物が並べられている。食事中も喋るようなマナーの悪い生徒はいない。しかし俺は食事中も何度か質問された。




「渡辺くんの好きな女の子のタイプは?」


「うーん、背高くて髪は黒くて長い人かな。性格は大人しい人か真面目な人」


「よかった、私タイプかも!」




そう俺に質問し、俺の答えに反応したのは俺の隣の席に座る出席番号40番・若井遥わかいはるかさん。5歳から子役を始めて、今ではそこそこ有名な女優さんだ。




「ねー、渡辺くんはどうしてこの学校を受験したの?」




と俺の斜め前の席、出席番号20番・寺内裕奈てらうちゆうなさんが質問してくる。現役アイドルで背は少し低め。ツインテールが特徴的だ。寺内さんの質問に対し俺は、




「実は俺、母子家庭なんだよ。父親の顔も知らずに15年間育った。とにかく母親を楽にさせたかったんだ」




と答えた。ちなみにこの話は事実である。母親は一人息子を養うために働き詰めだった。しかし収入はわずかだった。俺も中学生になると新聞配達のバイトを始めた。それでも収入は微々たるもの。だから高校に進学せず就職ということも考えていた。しかし母親から、「優斗は勉強ができるんだから高校くらい卒業してほしい」と言われた。


中3の秋、担任の先生から「合格者は学費無料・生活費支給の高校がある」と言われた。俺は迷わずその高校に願書を送った。その高校が東京で全寮制、女性芸能人養成学校の男子枠だと知ったのは受験する数日前の話だが。






そして明日は入学式当日。どうやら複数のテレビ局が来るらしい。しかも朝の情報番組で入学式の模様が生中継されるほどの豪華さだ。それはともかく、担任は誰になるのだろうか?今のところ知る由はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る