花びら占い

水谷一志

第1話 運命を、信じますか?

「ちょっと、私のスマホ、ハングル表示になってるじゃん!誰か、韓国語設定にでもした?」

「―。」

「ってか、こんなことするの、美月しかいないよね?」

 「…ばれたか。

 ってか、さっきの真由まゆのリアクション、めっちゃ面白かった!ああ、動画撮っといたら良かったな~。」


 谷山美月たにやまみづきは、イタズラ好きな性格である。

 この日、美月は大学の友達3人で、近くのカフェでまったり過ごしていた。美月たちは大学4年生になったばかり、ということもあり、この日のカフェでの話題は、自然と将来の進路のことになった。

 「ねえ美月。美月は就活はしてないの?」

「…うん。私、大学院の試験を受けようと思ってるんだ。私、将来は、日本文学の研究者になりたいから…。

 あ、でも、教育実習は、する予定だよ!授業なんかしたことないから、緊張すると思うけどね。」

「そっか。私は進学は、考えてないかな。とりあえず、大手でいい所、見つかればいいんだけど…。

 あ、ちょっとトイレ、行ってくるね。」

美月や真由、また美樹みきという名前の美月の友達は、将来に少しの不安を抱えながらも、進学や就職という、次のステップに向かって、一歩を踏み出そうとしていた。

 そんな中…。

「あ~。こんなことになるならスマホ、忘れずにトイレに持っていけば良かった。これ、マジで設定よく分かんない。ねえ美樹、見てたんなら止めて欲しかったな…。」

「え、あ、でも、美月が、

『真由のリアクション、めちゃくちゃかわいいから、見てみようよ。』

って、言うんだもん。」

「ちょっと、そんなの関係ないじゃん。

 ってか、ハングルって暗号みたい。これ、どうするの?」

「どれどれ、仕方ないから私が…。」

「仕方ないって、美月がこれ、したんでしょ!」

「ごめんごめん。じゃあ今から直すね。」

そう言って美月は、真由のスマホを手に取り、操作をし始めた。美月の将来の夢は日本文学の研究者、ということもあり、美月は大学で、中国語と韓国語も勉強していた。(実際、同じ東アジアの言語の勉強をすることで、日本文学への造詣がより深まる、と美月は考えている。)そのため、ある程度のハングルなら読むことができ、美月はスマホを操作して、元の日本語設定に戻した。

 「助かった~。美月、ありがとう、

 …って言ってしまいそうなんだけど、これ、美月がしたんだよね?」

「ごめんごめん、悪かった。じゃあおわびに、カフェラテでも奢るから。」

「やった!じゃあ許してあげるね。」

「わりと単純なんだね…。」

こうして、2人は仲直りした。(そもそも喧嘩はしていないが。)


 谷山美月には、天真爛漫、という言葉がよく似合う。実際、美月は人と接するのが好きで、どちらかというと、笑顔をふりまくタイプである。そのため、美月は友達が多く、美月の周りには、常に人がいる。

 また、身長は150cm台後半で、それほど高い、というわけではないが、スタイルは抜群で、美月は友達からよく、

「美月って、本当に顔、小さいよね。」

と、言われることがある。

 そんな、人気の高い美月であるが、1つ、困った癖がある。それが、冒頭で触れた、「イタズラ好き」という一面である。

 美月はよく、人の物を勝手にとって遊んだり、冷たい飲み物を、わざと友達の体に当ててみたりして、遊ぶことがあった。そんな美月の癖のため、時には(わりと頻繁かもしれないが)、友達を本気で怒らせてしまうことがある。そんな時美月は、

「ごめんごめん、ちょっとやってみたくなっただけ。怒らないで。後で、埋め合わせするから。」

と、愛嬌のある笑顔で、謝るのであった。それを見て、その友達も、

「分かった。それが美月だもんね。許してあげる。」

と言い、仲直りをするのであった。

 また美月は、イタズラをして面白がる性格だけではなく、友達思いの性格も、持ち合わせている。例えば、美月は旅行に行った際、土産物を買うのを、忘れたことがない。そして、友達が、

 「美月、また旅行に行ったんだね。いいよいいよ、お土産なんて。悪いから…。」

と言うと、決まって、

「大丈夫。私、旅行のお土産買うの、趣味みたいなもんだから。

 ほら、私って旅行好きじゃん?それで、友達とも、

『昨日、どこそこに行って来たんだ。』

とか、いっぱい話したいわけよ。そんな時に、お土産がないと、話しづらいでしょ?

 それに、いっつもイタズラして、みんなに迷惑かけてるから、せめてもの償いとして…、ってのは冗談だけど、はいこれ!」

というようなことを、言うのであった。

 実際、美月は、国内・海外含め、また友達との旅・一人旅を含め、年に数回旅行に行くほどの旅好きで、その度に土産物を買い、また土産話をしている。その、土産物などの気遣いも、美月の魅力の、1つなのであった。


そして、この日も話の内容は、(美月のイタズラの後)進路のことから、旅のことになった。

「私、進路のことも心配なんだけど、また、現実逃避も兼ねて、旅行に行きたいなあ。」

「そっか、美月は旅好きだもんね。で、美月は今はどこに行きたいの?」

美月の謝りで機嫌を直した真由が、そう美月に訊いた。

「そうだなあ…。今は桜がきれいな時期だし、大阪造幣局の、桜の通り抜けかな。」

実際、4月のこの時期は、桜がとてもきれいで、美月の大学の近くにも、満開の、美月に言わせれば日本を象徴する、桜の花が咲いていた。

 「いいね美月!私、そこには行ったことないけど、桜がきれいだって、ネットニュースで読んだことある。大阪はここからだとちょっと遠いけど、私も機会があれば、行ってみたいな。」

 「そう、じゃあ一緒に行かない?」

「ごめん美月…私、就活とかで、そんな余裕ないかも。」

「そう、だよね…。美樹は?」

「私も余裕ないかな…。」

ちなみに、美樹はどちらかというと大人しいタイプで、自分から積極的に話す、というよりは、他の人の話を聴くタイプである。

「確かに。私も行けるかどうか、分からないんだけどね。

 でも、大阪って、面白いよ!当たり前かもしれないけど、大阪の人はみんな、関西弁をしゃべってるんだ!私、初めて大阪に行った時は、それまでテレビでお笑い芸人の人とかがしゃべってるのしか、聞いたことがなかったから、衝撃的だったな~。」

 「それ、分かるかも!『なんでやねん。』とか、普通に使うんだよね?面白いな!」

「そうだね。私もうまくはしゃべれないんだけど、関西弁のイントネーションとか、好きだな。」

この後、3人は、3人にとってはゆかりはない、関西の話で盛り上がった。そして、この日はお開きにしよう、という流れになったが、急に雨が降り出したため、3人はもう少し、カフェに留まって話すことになった。

 「ってか、天気予報で雨って、言ってた?」

「ううん。言ってなかったよ。」

真由の問いかけに、美樹が答えた。

「だよね。私も、天気予報はチェックする方なんだけど、言ってなかったよ。

 夏場だったら分かるんだけど、春に急な雨って、何かピンとこないね。」

美月がそう付け加えた。実際、その日の雨は、春に降るにしては、少々強めの雨であった。(もちろん、夏場の夕立に比べたら、弱い方ではあるが。)しかし、(他の2人なら嫌がるかもしれない雨でも、)美月は、それを嫌だとは感じない。なぜなら美月は、日本文学というフィルターを通して、自然を見ることが好きだからだ。美月は、俳句は嗜まないが、文学の1つである俳句で、先人の書いたものを読むのは好きで、例えば、

『この、季節外れのような雨を、松尾芭蕉ならどう詠むのだろう。』

など、考えるのは好きであった。(その辺り、美月は少し、変わった女の子であるかもしれない。)

 そうやって、美月が雨に思いをはせていると、真由が、急に話を変えてきた。

「ねえねえ美月、美樹、突然だけど、美月と美樹は、運命って信じる?」

「えっ、急にどうしたの真由?」

「いや、私の話になるんだけど、私、ちょっと前に、大好きだった彼と別れたんだ。それで、その彼に、私は勝手に、運命感じてたんだけど、その運命も、偽物だったみたい。

 もう少し詳しく話すと、

『ねえ、運命って信じる?』

みたいなことを、私がその彼に言ったのね。すると、その時は、

『俺、よく分かんないや。』

って彼は言ってたんだけど、それからしばらくして、彼の方から、

『ごめん、真由。俺、やっぱり、運命とかそういうの、重いわ。』

って言ってきて、私、振られちゃった。

 はっきり言って、私、まだ心の整理が、ついていないんだ。もちろん、美月や美樹と、こうやってカフェで話をするのは、楽しいよ。でも、私の心のどこかは空っぽで、それは、彼じゃないと埋められない、そんな気もしたりするんだ。

 もう終わった恋だ、ってことは分かってる。…頭では分かってるんだけど、まだ心が、追いついていない、っていうか…。

 それで、

『また重いって言われるかもしれないし、運命なんて考えるの止めよう。』

って、思ってみたんだけど、やっぱり運命を信じたい、そう思う自分がいるの。いつか、運命の人と巡り合って、恋をして、結婚して…。私、そんな人生を送りたい。

 …やっぱり私って、重いのかな?正直イタイって思ったら、言ってくれていいよ。

 なんか、楽しいカフェの時間に、こんな話してごめんね。」

突然の真由の語りに、美月たちは少しびっくりしたが、真由の真剣な表情を見て、美月は言葉を慎重に選びながら、答えた。

 「真由、大事な話、してくれてありがとう。それで私、運命を信じる真由って、かわいいと思うよ。もちろん、これはお世辞抜き!

 きっとその、真由のことを『重い』って言った彼は、たまたま真由にとって、運命の人じゃなかったんだよ。でも、そんな彼のせいで、真由の想いが踏みにじられること、ないって。

 私も、どちらかというと運命とかを信じたいタイプだから、真由の気持ち、よく分かる。そういう気持ちは、女の子なら普通に持ってるものなんじゃないかな?だから、私、真由が運命の人に出会えるように、応援するよ!

 まあ、そうなったら先に冷やかすかもしれないけどね。」

美月の言葉は、真由の心の傷跡を塞いだように、真由には感じられた。

「ありがとう美月。何か、今日は美月に救われた。やっぱり、持つべきものは友達だね!あ、でも、冷やかすのはできたら止めて欲しいな。」

「大丈夫。それは半分は冗談だから!」

「半分だけ?困ったな…。

 それで、美樹は、運命とか信じるタイプ?」

ここまで黙っていた美樹は、よく考えながら、口を開いた。

「ごめん、私口下手だから、美月みたいにうまく言葉を伝えることができないけど…。

 私自身は、運命とかよく分からないタイプだけど、私、真由の友達だから、真由のこと、応援するよ!」

「そっか。美樹もありがとね。」

この会を通して、3人の結束は、さらに高まったようである。美月は、こういう結果になったのは、真由が勇気を持って、自分たちに終わった恋の話をしてくれたからであり、さらに元を辿れば、予報外れの雨が降り、会が長引いたからで、美月は、雨を降らしてくれたお天道様に、感謝したい気持ちになった。


 そうやって、美月・真由・美樹が語っているカフェに、1人の青年が、入って来た。

「あ、あそこの男の人、超イケメン!」

たまたま目が合った真由が、その男性には聞こえないように小声で、美月や美樹にそう話しかけた。

「う~ん、そうかな?確かに、背は高いけど…。」

美月も、青年には聞こえないように、真由や美樹にそう答えた。

 そうこうしているうちに、その青年は、美月や真由・美樹のいるテーブルの方へ、近づいてきた。

 そしてその青年は、美月たちのテーブルの、隣のテーブルに座った。

「あの人、背が高くて細身で、遠くから見てもかっこいいけど、こうして隣のテーブルで見てると、もっと、男前だよね!」

真由は、ひそひそ話をするような小声で、美月たちにそう言った。

「ちょっと、止めなよ。聞こえるって。」

美月は、真由のおしゃべりを止めようとして、こう言った。実際、この時の真由は、ついさっき、自分の身の上話をしてすっきりしたせいか、少しハイになっているように、美月には感じられた。

 「はじめまして。何か、お話中ですか?」

その様子を見てか見ずにか、その青年は、美月たちに、そう話しかけた。

『まずい、今の話、やっぱり聞かれちゃったんじゃないかな?とりあえず、面倒なことになる前に、ここは帰った方が良さそう…。』

美月はそう判断し、

「いえ、何もありません。さ、帰るよ。」

と言い、その場を離れようとした。

 しかし…。

「私たち、今女子会してるんです!」

真由が、美月を制するようにして、この青年に話しかけた。

「ちょっと真由、帰るよ。」

そう美月は言ったが、

「いいじゃん。ちょっとだけだから。」

真由の頭の中のスイッチは、完全にオンになってしまっていた。美月は、

『そういえば真由って、イケメン好きだったような…。あと、どちらかというと、惚れっぽかったような…。』

というような内容のことを、頭の中で思い出していた。そして、

『この調子なら、運命っていうのも、怪しい気がしないでもないな…。』

とも頭の中で思ったが、それを口にすると真由の逆鱗に触れそうなので、決して言い出すことはできない、美月なのであった。(美月はイタズラは好きだが、こういった、その人の核心に迫ることで、相手の気を逆撫でするようなことは、できない体質であった。この辺りも、美月の優しさであるかもしれない。)

 「そうですか。楽しそうで何よりです。」

青年は、にこやかにそう答えた。その青年の笑顔は、やはり素敵で、真由の心は、青年に奪われかけていた。

「ところで、私たちのさっきの話、聞いてました?」

そんな真由を尻目に、美月は冷静に、そう答えた。美月も、確かにイケメンは好きだし、この青年はどちらかというとイケメンの部類に入るとも思うが、一目惚れなど、すぐに人を好きになることをしないタイプの美月であったため、その青年に特にのめり込むことはなかった。

 『それに、相手は初対面の、見ず知らずの男性だ。何か、悪いことを考えているかもしれない。それで、話しかけてきたのかも…。』

美月はそうも考え、何とかこの場を、終わらせようとした。

 「いえ、話の内容は聞こえませんでしたが、何か、大事な話をしているように、見受けられました。」

青年は、やはり快活な雰囲気で、そう答えた。その青年のスマイルには隙がなく、こうやって、女性と話をすることにも、慣れているような雰囲気であった。

「そうなんです!実は私たち、恋バナで盛り上がっていて…。」

真由がそう話しかけ、さらにこの青年との話を続けようとした時、青年の方から、意外な返答があった。

「すみません、僕、あまり時間がないんです。それで、今日は少し話があって、来ました。…谷山美月さん、少し2人で、話をさせて頂いても、よろしいですか?」

「え、何!?美月、知り合いの人?」

真由はその青年の一言に、びっくりしてこう答えた。

「え、あ、いや、その…。」

美月は、頭の中の記憶を必死になって探したが、答えは出て来ない。

「美月さん、すぐに話は終わります。だから、少しだけ、2人きりで、話がしたいんです。用件が終わったら、僕はすぐに帰りますから。」

青年は、その笑顔を、美月の方に向けた。

 「なんだ。美月の知り合いか。分かった。私たち、先に帰ってるから。じゃあ、帰ろう、美樹。」

「うん…。じゃあね、美月。」

「え、わ、分かった。またね、真由、美樹。」

美月は、やはりこの青年のことは思い出せなかったが、とりあえず、要件を済ませたら帰る、とのことなので、少しだけ話をしよう、そう思った。

 また、相手が怪しい人物でも、自分が慣れ親しんだこのカフェなら、大丈夫だろう、美月はそうも思った。

 「では、ここよろしいですか?美月さん。」

「すみません…。私、あなたと前に、どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?どうしても、思い出せないんですが…。」

美月は正直に、こう答えた。

 「いえ、僕たちは、この時間、2016年の4月段階では、会うのは初めてです。

 申し遅れました。僕、中谷悠馬なかたにゆうまと言います。」

「会うのが初めて…。」

「ええ、少なくとも、2016年4月段階では、という意味ですが…。」

『会うのが今日で初めてなら、どうしてこの、中谷さんは私の名前を知っているんだろう?もしかしたら、どこかで私の個人情報が、流出したのかもしれない。やっぱりこの人、怪しい人だ。

 …にしても、『2016年4月段階』っていうのは、どういう意味だろう?

 どっちにしろ、ここは帰った方がいい。』

美月は瞬時にそこまで考え、席を立とうとした。

 「待ってください。僕は、決して怪しい者ではありません。今から、僕の素性を話すので、もう少しお付き合い、願えませんか?」

中谷悠馬と名乗るこの青年は、こう答えた。

 「では単刀直入に聞きますが、どうして、初対面のあなたが、私の名前を知っているんですか?」

美月は半分イライラしながら、そう言った。

 「それは、僕たちが初対面なのは、あくまで2016年4月段階のことであって…、

 すみません。説明になっていませんね。

 実は僕は、2017年9月の、未来から来た人間なんです。」

「…はい?」

美月は、あまりにも予想外な彼の言葉に、耳を疑った。

『どうせ吐くなら、もっとマシな嘘吐けよ!』

美月は、女の子らしからぬ悪態を、心の中で吐きながら、その場から立ち去ろうとした。

 「待ってください!いきなりそんなこと言われても、普通はびっくりして、信じてもらえないですよね…。

 だから、一応証拠、持って来ました。ここに、2017年9月23日、土曜日の朝刊の、写真があります。」

悠馬は、そう言って、自分のスマホを取り出した。そこには、はっきり、「2017年9月23日」と印刷された、朝刊が映っていた。

「一応補足ですが、こんなもの、偽造すると思いますか?もし僕が怪しい人間なら、もっと効果的に、美月さんに近づいたと思います。わざわざ、『未来から来た』なんて言わないですよね?」

 「た、確かに…。」

美月は、それで納得した。というより、するしかなかった。信じられない、SFのような話だが、この、中谷悠馬さんは、本当に約1年ちょっと後の、未来からここに来たのだ。美月は、少しの間、驚きを隠せなかった。

 そして少し時間が経った後、美月は冷静になり、悠馬に質問をした。

「さっき、その…中谷さんは、『2016年4月段階で、私たちは初対面』というようなことを、仰っていましたよね?ということは、その、2017年9月段階では、そうではない、ということですか?

 私たちは一体、どういう関係なんですか?」

その質問は、冷静な面もある美月らしい、質問であった。

「そうですね。その質問には、答えないといけませんね。

 実は、僕たち、付き合っているんです。」

「えっ!?」

 悠馬の返答は、美月を困惑させた。

「付き合って…いる?あなたと私が?」

「はい。さらに言えば、先に声をかけてきたのは、美月さんの方です。そして、告白も美月さんからでした。」

「…はあ。」

 美月の頭の中は、完全に混乱していた。

『未来の私は、この、中谷悠馬さんに自分から声をかけ、告白もした。中谷さんは、確かに顔はかっこいいし、紳士的な感じもするけど、私のタイプとは少し違うような…。

 でも、未来の私は、この人に惹かれたんだろうか?』

美月は、頭の中で思いを巡らせていた。

 「まあそういうことなんで、これからよろしくお願いします。

 あと、やっぱり僕って、魅力的なんですかね?」

「…はい?」

美月は悠馬の次の言葉を聞いた瞬間、またも耳を疑った。

「…魅力的かどうかは、分かりませんが…。」

「でも、やっぱり声をかけられる、ってことは、魅力的、ととってもいいですよね?どう思います?」

 突然の悠馬の発言に、美月は苛立ちを隠せない。

「あの…、そういうことは、口に出して言うことではないと思います。」

「すみません、僕、自分に正直なものですから。」

「…は?」

美月は、呆れてものも言えなくなりそうだったが、悠馬に一言、言ってやることにした。

 「あなた、確かに長身で、顔もいいかもしれませんが、そんなことばっかり言ってると、女の子に嫌われますよ。あなたみたいなナルシスト、私は興味ありません。

 では、未来にでもどこにでも帰ってください。

 さようなら。」

 そして、美月はその場を立ち去ろうとした。

 「ちょっと待ってください。僕は、あなたに用があって、はるばる未来から来たんです。」

「ああ、確かにさっき、『よろしくお願いします。』って、言われてましたね。

 でも、私は、あなたなんかに用はありません。」

「まあそう言わずに。

 …分かりました。では、こういうのはどうでしょう?

 僕と、賭けをしませんか?」

突然の悠馬の提案は、美月をさらに困惑させた。

 そして、この出会いが、「未来」の美月だけでなく、「現在」の美月にとっても、運命の出会いとなることを、美月はこの時、予想もしていなかった。

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