餞別

積田 夕

餞別

「この夏祭りが終わったら、引っ越しだよな」


仁はいつも通り、ソーダーアイスをふたつに割る。


「そうだよぅ。ねえ、何かないの?お別れのさあ、プレゼントとかさ」


恵はいつも通りの明るさで、元気に言い放った。


慣れ親しんだ町と、明日でお別れ。

幼なじみの仁とも、明日でお別れ。


仁はゆるく笑って、アイスの片割れを差し出してくる。


「はいよ、プレゼント」


「……えぇ?このアイスがプレゼントだって言いたい?」


「何か、問題でも?」


「いつももらってんじゃん。そうじゃなくって、もっと特別なさあ……」


「いつもと同じ、が、いいだろ?」


「え……」


「俺、毎日メグにアイスプレゼントしてきただろ?今日が最後って、思いたくないじゃん」


ニッとわざと歯をむき出して、仁は笑った。

返事をしたいのに、胸がいっぱいになって声がつまってしまう。


アイスを受け取る瞬間に触れた指先。


いつも通りアイスをくわえている幼なじみの、仁。


恵は口の中でシャリッと溶ける感触をゆっくりと味わった。


不意に、目の前の風景がかすむ。

恵は慌てて、ふいっと顔を逸らした。


「……ったく」


思いがけず近くに仁の声を聴いた、と思った。

その瞬間、初めて抱き寄せられた肩。


「また、一緒にアイス食おうぜ?約束な」


遠くで祭り囃子の音が聴こえる。


暮れゆく空を眺めながら、

恵は小さくうなずいた。

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餞別 積田 夕 @taro1999

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