Enemy Side

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

 赤い戦闘機の操縦席に座る坂田大輔は、大きすぎる呼吸をしながらギリギリとグリップを握る手に力を入れる。


「ご主人さま。落ち着くネ。落ち着くときっといい事アルヨ」

「ふーっ、ふーっ」

「イイですか? 絶対開始前に撃ってはダメヨ」

 後ろにいるメイドは男の子に話しかけるが、全く耳に入っていない様子でぶつぶつと呟くように言う。

「な、なんだよあれは……。あんな小さな機体……。フェニックスって言ってたじゃないか。あんな小さい物、ガトリングじゃ捉らえられないよ……。そうか……、そういう作戦だったのか。はは、すっかり騙された。さすがは経験者だ。徹夜で考えた作戦が全部パーだ。どうする? どうすればいい?」


「ご主人サマ。始まったら機体を交差させるネ。交差した後は攻撃していいんですヨ。そしたら後ろに向けて撃つヨ。速度が乗る前ならあの装甲の薄い機体はイチコロネ。大丈夫、今日ご主人サマ幸運の相がアルヨ」


 ふぁん!

「ひっ!」

 ガタガタと震える手でグリップを握る。


「ご主人サマ。もっと力を抜くネ。力んでもイイ事ナイヨ」


 二度目のシグナルが鳴る。

「はっ! はっ! はっ!」

 動悸が激しくなり全身から汗が吹き出す。


 三度目のシグナル。

 ぐぐっと手に力を入れ、これから火を吹き弾丸が飛んで来るであろう相手の銃身を凝視する。


「!?」

 突然、相手の砲身が回転を始めた。


「うっ、うわあああああ」

 パニックを起こし、握るグリップの指に力を込めた。

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