婿様は唯一無二のノベルティ

りくつきあまね

第1話 『邂逅』――――それは始まり。




 ――――――瞳に映る光景に息を呑んだ。




 それはあまりにも衝撃的で、どこまでも甘美な情景だったからだ。

 何万という観客の歓声が消えた闘技場。

 研ぎ澄まされた斬撃と暴虐な戦斧による破壊の軌跡。

 僅かな油断が命取りになる戦場ですら感じ得なかった心躍る緊迫感。

 その全てが心地良い歓喜となって体を巡り――――少女は満ちた笑みで相手を見た。


 ――――――その瞳に映ったのは幼い少年。


 幼く華奢な体を着古したシャツとズボンで包み、使い古した髪紐で纏められた長い黒髪が激しく踊る。

「っぁ…………」

 鋭い剣戟と轟音の中、苦悶の滲んだ声が滲んで消えた。

 太刀を握る小さな両手は緊張からか小さく震え、今にも崩れて落ちてしまいそうな程に儚い。

 だが、それらをはねのける様に土で汚れた幼くあどけない表情には覚悟が据えられ、その中で揺るぎない信念を灯す緋色の双眸が鋭く研がれていた。


 ――――――己の全てを賭し、戦いの先にある勝利を渇望する姿。


 その姿に少女の瞳が、心が、体が歓喜の様な形容しがたい熱に一瞬で煮え滾った。

 甘く、

 激しく、

 心地良い、

 痺れにも似た感覚。

 胸の奥で暴れ回る熱に少女は可憐な口元を綻ばせ、好奇心から問う。

「少年、貴様は何を求める? 金か、地位か、名誉か? それともそれら全てか?」

 その問いに少年は一瞬表情を悲痛に曇らせ、

「……僕はそんなモノ要らない」

「ほぅ、ならば何の為に私に勝利せんとここに立った?」

自分の中にあるただ唯一の願いを成さんと、何の迷い無く告げた。


「僕はただ――――――――――――」


 思いもしなかった少年の告げた言葉に少女の瞳が大きく見開かれ、

「…………ふふっ」

僅かな間の後、少年の言葉に淡くも煌めきに満ちた微笑を浮かべる少女。

「それが貴様が望むモノ、か…………ならば見事、私に勝利し手にしてみせよっ!!」

 歓喜の咆哮と共に少女は戦斧を振り上げ、少年へ獣の如く突進。

「はああああああああああっ!!」

 少年もそれと同時に太刀を腰にぶら下げていた鞘へと収め、一足飛びに疾走する。

 その刹那。二つの影が重なり、場を斬り裂く先鋭の音が響いた。




 これが戦いの決着であり――――少年と少女、二人の物語の始まりだった。

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