表裏一体〜神装使いと〜

雪野 那珂

第1話 プロローグ

俺は両親の記憶が無い。捨てられたのか、はたまた死んだのか、それすらも分からない。

一番古い記憶は、とある少女との記憶。何を話したのかすら今ではもう憶えていないが、記憶がなく一人ぼっちだった俺はその言葉がとても嬉しかった事だけは憶えていた。




─────キーンコーンカーンコーン♪

夕暮れに照らされた校内に放課後開始のチャイムの音が鳴り響く。


私立関東東しりつかんとうひがし高校』

それが俺の通っている高校だ。名前の通り関東の東側にある。生徒数も多く、頭は良くないが、部活動が盛んな学校だ。

近所の男子中学生からは、


「えー、あそこの女子ゴリラしかいねーじゃん!」


近所の女子中学生からは、


「え゛!あそこの学校!無理無理まずスカート膝下っていう校則から無理」


などと言われる程、頭が悪く、校則が無駄に厳しく、そして運動の盛んな学校だ。


二つの学科に分かれていて、スポーツ科、進学科、と分かれている。俺はその中の進学科、通称「無能科」に入っている。

頭も普通より下で運動神経はいい方だと思うがスポーツはそこまで得意じゃない。やることがない頭の悪い人が集まる学科なのでそう呼ばれている。


下校やら部活やらで騒がしい教室の中、帰宅部の俺は一人自分の席に座り、紅く染まる建物をぼんやり眺めていた。


こんな俺に話しかけようとする友達なんてクラスには一人もいない。


すると、担任のヒミコちゃん先生が教室から出た直後、ひょっこりと扉から顔を出し。


「おっと、新井あらい亮介りょうすけ。お前今日の放課後、追試な。このままの点数が続くとお前留年だから」


.....と、一言雑に放り投げて颯爽と巧みなステップで教室を後にした。


.....合コンにでも誘われたのだろうか?


先生の調子がいい時は大体そんなもんだ。


「.....今日も追試か」


ため息混じりに周りの人に聞こえぬように言葉を吐く。


亮介の追試は日常茶飯事だ。テストがある度に赤点を取り、授業の最中は先ほどのようにぼんやりと外を眺めているため単位すら取れていない。そのため、その日の授業が終わると大体の確率で追試に呼び出されるのだ。


亮介は重たい猫背の体をゆっくりと持ち上げ、背伸びをすると通学用の鞄を肩にかけ、騒がしい教室を出て、ふらふらと追試の行われる教室へ向かった。


─────追試を終え外に出ると、陽がとっくに沈んでいた。辺りは暗く月の光が街を照らしている。


(六時.....か)


考えることもそれ以外特に無く、手元の腕時計を見る。


(さて、帰りますか.....)


その後、街灯で照らされた道を駅方面へとぼちぼち歩いていく。


亮介の住んでいる街は電車で一本、十分前程度とさほど遠くない。しかし、駅から学校までは距離が長く、亮介の足で三十分程度かかる。そのため、大体の生徒は自転車で来る人が多いのだが亮介は自転車に乗ることが出来ないため、毎日この長い道を往復している。


─────歩いて行くとやっと駅の近くの交差点まで到着した。


(あと、数分.....次の電車だな.....)


と思い信号を見るため腕時計から目を離した時だった。


ふと、亮介の視界に幼馴染みの仁木にき智香ともかの姿が交差点の向こう側に映る。栗色の髪を二つに結んだ、高校生ではなかなか見ない髪型で、黒色の瞳をした身長の低い女性。あれは間違いなく智香だ。


彼女は周辺を見回したあと一人路地裏の暗闇へと姿を消した。


(何でこんな時間に智香がいるんだ?アイツ三日間風邪で休んでなかったっけか?とりあえず心配だ。後をつけるか.....)


信号が青になった途端、人混みをかき分け智香の入っていった路地裏へと向かう。


路地裏は人ひとり入るのが精一杯でとても広い道とは言えない。更に夜のせいか暗すぎてスマホのライトを使わなければ足下が見えない始末だ。


辺りにはゴミ箱やら換気扇やらで散らかっていて、時折カラスの鳴き声が響く。ガラの悪い人が出てきてもおかしくない空間だ。


路地裏の一本道で進んで行くとやっと広がった空間が見えてきた。高い建物に囲まれた人目につかないような場所だ。


その空間の中に一人周りを気にしながら歩く智香をやっと見つけた。


.....だが、そんな智香の背後から少し...また少しと近づく黒く、禍々しく、この世のものとは思えない異形な生物が今!智香に飛びかかった。


「智香ァ!!危ねぇぇぇぇ!!」


気がついた時には叫んで智香へと走り出していた。危ないという確実性も無いのに。体が勝手に智香のもとへ走り出していた。

変な体勢から走り出した為か右足から鈍い音と痛みを感じる。

しかし、満身創痍に走る!


「ッ!!」


すると、智香が声に気づいたのか体を素早く捻って.....いつの間にか手に持っていた拳銃を数発、異形な物体へと放った。


次の瞬間化け物は泡のように砕け空へと綺麗に散っていった。その場に化け物の死体は見つからず、跡形もなく消えていた。


服もいつの間にか普段着の白のワンピースから朽葉色のシンプルなコートに変わっていた。


「......」


その光景を亮介は唖然として見ていた。とてつもなく痛い右足を気にする素振りもなく。


「はぁ.....見られちゃったかぁ〜。まぁいつかはバレるとは思ってたけど」


智香の拳銃は光の粒子となって一瞬で消え、それと同時に服も朽葉色のコートから白いワンピースへと変わっていた。


「んっぐッ.....よ、よお。智香.....」


痛みと驚きのあまり話を整理せず適当に話しかける。


「ん、りょーくん。三日ぶりだね〜」


「.....」「.....」


二人の会話は一向に進む気配がない。


─────五分間の沈黙を亮介が破った。


「えーっとさ.....何で.....拳銃持ってたの?」


亮介がやっと口を開いた。が、まだ途切れ途切れの言葉だ。


「うーんと、幻覚じゃない?なんか変なものでも食べた?」


「それマジで通用すると思ったの?それにあの化け物なんだよ」


聞きたいことを沈黙の五分間で整理してやっとの事で聞き出す。


「.....りょーくんちょっと待って、化け物ってあれ見えてたの!?」


友香は何かに驚いているようだ。頭に響く大きな声が路地裏を反響する。


「見えてたも何もハッキリとこの目に映ってたし」


「.....」


再び智香が黙る。


「なぁ、教えてくれ、お前はこの三日間何をやってたんだ」


「.....」


亮介は心配そうに俯く智香の顔を覗く。


すると


「仁木中佐!!周辺のウォープトゥの討伐、完了しました!.....この少年は?」


一人のガタイのいい剣を腰に刺した男性が智香のもとへとやってきた。


「幼馴染み。はぁ.....各員に通達。彼を本部まで連行します」


「了解。私たちは先に支部へ戻り報告をしておきます。それではお先に失礼致します」


最後に一礼して男は路地裏の暗闇へと溶け込んでいった。


十年間以上一緒にいたが全く見たことのない智香だ。昔は泣き虫で犬ごときに怯えてすぐに俺のところに助けを求めてきた智香とは大違いだ。


「あの〜、智香さん?連行って.....俺のとこじゃ無いですよね?」


さっきの言葉が耳にかかり念のため問いただす。


「りょーくんだよ?とりあえず質問されたことも教えたいし、黙ってついてきてくれるかな?言っとくけど強制だからね」


あっ、声のトーンの智香さんは苛立ってる時の智香さんだ〜。

(なんかまずい事でもやったかなぁ〜)


「.....ったく、早めに終わらせてくれよ。もう夜中なんだし.....」


亮介は付いてくるのが当然とも言わんばかりの智香の背中をしぶしぶついて行くのであった。

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