第27話「モーニング・ストライク」
シイナ・
他言無用のシイナの真実は、今も優輝の胸の奥に沈めてある。
自分にだけ打ち明けてくれた、そのことが彼女にとって大事な事実だった。
そして、学園生活の日々は今日も平和に過ぎようとしている。
「ふっふっふ、さあ来い……さぁ! 来ぉい!」
朝の教室で腕組み仁王立ちなのは、
彼女は、痩せていた。
復活……雨宮千咲、復活ッッッッッッ!
以前のスリムでメリハリのある、世界の全てが美少女と認めるヴィジュアルを取り戻していた。あのパッツンパッツンだった腹回りや
そして、それは隣のシイナも一緒だった。
「ねね、優輝……千咲、元に戻ったね」
「ん、まあ。千咲もね」
「どうする、のかな?」
「どうするって……決まってるんじゃないかなあ」
シイナは、優輝の言葉に「だよねっ」と嬉しそうに笑顔になった。
そうこうしていると、他の生徒達も登校してくる。にわかに騒がしくなる教室内で、クラスメイト達が自然と囲むのは千咲だ。
土日のラストスパートで身体を
「えー、ちょっとちょっとー! 千咲、痩せてない?」
「ってゆーか、よかったあ。わたし、心配してたんだよ?」
「そうそう、俺等だってさ。クラスのマドンナが変な病気じゃないかって」
「
「い、いや、雨宮さんは太ってなかった! 今までそう錯覚してただけで、今は正常に見える! ぼっ、ぼぼ、僕が言うんだから間違いない! だって僕、僕……」
クラスメイト達が驚き、そして祝福してくれている。
改めて優輝は、友人の千咲を見直したし、安心もした。
そして、そんな彼女が親友でいてくれることが嬉しくなる。
千咲は昔から、全校女子の憧れのプリンスである優輝の側にいた。親衛隊と呼ばれる女子達の隊長だったとか、そういう感じである。どこか
だが、ある日を
そして、
驚く周囲の、その悲喜こもごもの感情さえ全て受け止め、持ち前の面の皮の厚さでラジカルに暮らしたのだ。それが結果、彼女の人気を不動のものにしていたのだった。
「ねね、優輝……今度、もっと千咲の話を聞きたいな。ボクが来る前の、千咲の話」
教室の隅で、優輝をすぐ側で見上げてシイナが笑う。
自然と優輝も笑顔が零れた。
「千咲ね、すっごい御嬢様キャラだったよ。そういうの、やってた。黒歴史? って言うよ、千咲。笑いながらさ」
「なにそれ見たい……ふふ、でもきっと、今の千咲の方が輝いてるかなぁ」
「だね」
「それに、優輝×千咲……リバあり、むしろ千咲×優輝、
優輝は笑いながら、ハハハこやつめとシイナの頭を
でも、はにかむシイナの笑顔が今は嬉しい。
彼氏彼女、恋人同士……でも、優輝はまだまだ女子高生だ。
シイナだってそうである。
社会的にはまだまだ子供で、背伸びする程に大人に憧れるが、大人の社会を全然知らない。
でも、だからこそ、
今という時でしか、確かめ合えない気持ちがあった。
「あ……優輝、どしよ……来たよ」
「えっ、わかるの?」
「だって……似た者同士だもん。ほら……いっつもイヤホンでアニソン聴きながら登校するから」
シイナが教室の入口を見て、身を正した。
運命と言う名の、特別な時間が訪れようとしていた。
意外に耳がいいんだなと、変なことに驚きつつ……気付けば優輝も、変に緊張してしまう。
教室の扉がガララと開かれ、一人の少年が顔を出した。
「おはようですぞ、デュフフ!」
満面の笑みで現れたのは、
彼の登場に一瞬、教室が静まり返る。
誰もが振り向いたが、一拍の間をおいて固まったあと……再び千咲の話題で盛り上がり始めた。
そう、もはや誰も朔也にキャーキャー言ったりはしない。
以前の熱狂は
「おお、優輝
「朔也っ、おはよ! ……ねね、ちょっと待って。そこにいて」
「そうだよ、朔也。おはよう……ねえ、千咲! 朔也だけど」
クラスのみんなと
だから、優輝は大きく
シイナも、満面の笑みで拳に親指を立てていた。
千咲は、今まで見たこともないような微笑みで、二人に頷きを返してくる。
それは、いつもの強気で勝ち気な千咲ではなかった。
まるで
「ちょっちゴメーン! ……よっす、朔也。おはよ!」
千咲が朔也の前に立つ。
痩せた彼女の向こうに、その細いシルエットを縦横完全に包む朔也の輪郭があった。
朔也もまた、元に戻っていた。
リバウンドだ。
夏休みのバイト生活で得た、細マッチョの肉体は失われて久しい。そうなるともう、彼はただの太ったオタク少年である。誰も見向きもしなくなった。
だが、朔也本人は変わらない。
寄ってくる友人とは、親しく。
去ってゆく友人は追わずに、見送る。
そして、優輝とシイナにとってはずっと、気のいい友達だ。
千咲もそうだ……以前は朔也と、友達だった。
「お? 千咲氏、おはようですぞ! ……な、なにか
「ん、肉かな? あとは目と鼻と、口と、あと肉」
「肉って言ったね! 二度も言った! 親にも言われたこと……ありますな、デュフフ。小生、少しふくよかなぽっちゃりボーイでして」
「だね、ふふ」
誰もが目を疑っただろう。
逆に、優輝はその光景を当然のように見守る。
そう、当然……当たり前のことだ。
確かに容姿は大事だし、身だしなみや清潔感は気をつけるべきだろう。そういった意味では、朔也はああ見えて
少し
そんな彼に、千咲は真正面から……ニカリと白い歯を見せて笑った。
恋する乙女の表情が、一転して
「朔也さ、ちょっとアタシと付き合いなよ」
直球勝負だった。
それも、最短コースを最速で進む真っ直ぐなものだ。
一瞬、教室が静まり返った。
それがおかしくて、親友の勇気が愉快でたまらない優輝。自然と笑みが込み上げれば、隣のシイナも同じ顔をしていた。
千咲は、朔也が好きなのだ。
痩せてイケメンになった朔也に、
でも、その前から気心知れた友達だった。
それが唐突に終わって、二人の立場は逆転した。
激ヤセで女子の憧れの男子になった、朔也。
夏休みの
二人はお互い、元に戻った。
だが、千咲の気持ちは消えたりはしなかった。
「およよ? つまり……おお! 購買部ですかな? ではでは、買い物に付き合いますかな……グフフ」
「ちげーよ、もぉ……あのさ、朔也」
「ほいほい。何ですかな?」
「アタシ、朔也のこと好きみたい。アンタは?」
静まり返った教室に、どよめきが連鎖する。
誰もが
だが、周囲をもう千咲は気にしてなかった。
優輝を慕う御嬢様な御令嬢……それはもう、過去の話。
そして、変わった今の彼女には周囲のアレコレなど
強いな、と思った。
千咲は強いと思うと、優輝も不思議な嬉しさが込み上げる。
朝の教室で朔也だけが、何度も
だが、千咲が
「困りましたな……小生、
「このさい嫁はいーよ。アタシ、恋人枠? だから」
「ではでは……自分も気持ちは同じなので、放課後ゲーセンにでも寄りませぬか……ダンス、音ゲー、格ゲーでの三本勝負! ……勝った方が負けた方をデートに誘うってのは」
「ん、いいじゃん? それな! わはは、少し手加減しろよー!」
バシバシと朔也を叩いて、千咲が笑顔をことさら眩しく輝かせた。
周囲が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます