28.冬季望郷

故郷なんて

とっくに失っちまったよ

だからこんなに

ありあり見えているのだね

異郷から


冬は嫌いだと思っていた

朝は布団から出られないし

外は鋭い針が刺しているしさ

冬は嫌いだと思っていた

でもね十月

火が点くようなガラスの秋風のむこうで

冬が待機しているのを肌が予感したとき

遠くのパレードに出向くようだったよ

まだ鳴らない太鼓の音が

記憶のほうからやってきてね


私たちは十二月になると

獅子舞の稽古した

十二月になるたびなるたびね

そして冬の空気と太鼓の音が

冬の空気と獅子の歯鳴りが

鈴の音が

冬の空気と切っても切れない連関をさ

形成しちゃって

人がなくて

獅子舞もやまっちまったというのに

やまなくってさ

やまなくって 鳴りつづけているのだよ

この冬の予感のなかで

ねえ十月

もうじき十一月だね

大阪の

十月 なんで

遠く故郷の文化を 私の記憶を

知っている


冬が来るね

もうじき来るね

来ることのないパレードが

遠くに見えて

胸をかなしく躍らすね

故郷なんて

失っちまったよ

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