24.秘密野

 空を隠す高木の

 モザイク緑から

 無数の幹は真っ直ぐ落ちて

 腐葉土に沈みこみ根をひろげた

 樹間は不思議にあかるい

 迷路を抜ける気流は森外で

 溜め込んだ熱を濾されてきて

 頬に触れて汗を拭き去る


 羊歯の薮を奥へと進む

 立つ音も

 速やかに沈降する静寂から

 チロチロと

 かぼそい水鳴りが耳を打つ


 音をたよりに向かってみると

 なだらかな斜面が抉られて

 巨大な水道みずみちがあった

 雨量に耐えきれずいつか崩落したのだろう

 上方には掘り起こされた巨岩が据わり

 水道を塞いでいる その脇より

 ささやかにこぼれ落ちる水があった


何を思い出しているのだろう

私は草の繁る売地を見ていた

そこには一戸の廃屋が佇み

歪んだ屋根の瓦の間から蔓草がのび


 巨岩を登れば石轢の溜まり

 ザリザリと渡ってまた薮勾配に入っていく

 獣が通ったらしく

 影の濃い部分が曲がりくねって条を引いている

 勾配の先を見上げると

 木立の向こうで

 空がひらけている


重機もなく

廃屋は人を失い

自然を取り戻して幸福そうに

朽ちていく


 やがて明るい森を抜け

 眼路いっぱいの野が現れた

 「ここを秘密の場所にしよう」


そうだ

そこには当時の友人とともに行ったのだ

はじめは探検として

そして棄てられた野に辿り着いた

山の自然林を抜けて

私たちは

それを秘密の場所にし

私たちだけの国を作った

口外しない者だけにそこを教え招いた

こどもの秘密とは

大人のルールから解放された自治区

私たちは私たちによってルールを取り決め

段ボールやブルーシートを奪取して

木切れを集めて家を建てた


いつか

来てみると見知らぬ者がいた

仲間の誰かがここのことを漏洩したのだ

諍いが起こり

秘密は解体した


いま

だれがあの場所を覚えているか

あの光に満ちた

秘密野を

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