22.夜更けの詩

闇のなかで

あかるい色をともすツツジの花は

虫もないのに風に揺すれて香った


あの藪のなかには虫もたしかに鳴いていたが

ツツジの色には目もくれず

ひたすらに鳴いている


ひっそりとした交差点に

デートをすっぽかされた女のような

街灯が立っていて 照っている

交通標語で飾られた

歩道橋を照らしだし

ひっそりしている

ひっそりしている


花を咲かせたまま

枯れている

夜の街

使われないのに仕舞いもできず

意味だけを(そのために)

いっそう剥き出しにして

あちこちの地面に物は突き刺さっていた


あらゆる物が巨大にみえる

詩はここにあったのか

誰対象あるでなく

工事現場の周縁に

トラロープを張り

人知れぬ夜の微風に揺れ


夜更けの街には詩だけがあって

詩とは物そのものにほかならなかった

(言葉による詩は言語活動を物そのものに接近する行為だ)


朝が近づく

東の空に光の裳裾が昏く忍び寄っている

眠りから覚めた鳥たちが仕事にむかう

人も街にぽつぽつと現れはじめた

ツツジの蜜を採りに蜂が出掛けていく

物の多弁な沈黙が夜とともに減衰していく




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