第4話 ライバル

史香の親友、広田真紀は、史香とは対照的な、派手な見た目の女の子であった。

 特に、黒髪でショートカットの史香に対して、真紀の方は茶髪のロングヘアーで、また大学に来る時など、外に出るときは大抵、巻き髪にしていた。そして、派手めの化粧に、時折サングラスをかける、そんな女の子であった。

 そんな、好対照な見た目の2人であったため、史香がサークルへ入った当初は、史香は真紀に話しかけようとはしなかった。(ちなみに、真紀は優と同じタイミングで、サークルに加入している。)史香曰く、

「その時は、私なんて、相手にしてもらえないだろうな~、って思った。」

らしい。

 真紀は自分から壁を作るタイプの性格ではなかったので、史香を避けるようなことはしなかったが、史香の少しよそよそしげな態度を見て、真紀の方からも、特に史香に、積極的に話しかけようとはしなかった。

 そんな2人の関係に転機が訪れたのは、2人が、サークル内の同じバンド、「ピースフル・マインド」で、活動し始めてからである。(もちろん、このバンドには当初から、優も参加している。)そして、このバンドでは、優がギター、史香がピアノ、そして真紀はベースを担当していた。(ちなみに、真紀は高校時代から、ベースを演奏しており、腕前もなかなかのものであった。)

 そこで、今まであいさつ程度しかしてこなかった史香と真紀が、積極的に言葉を交わすようになった。すると、お互いに、史香が、意外とメタルなどの音楽も好きなこと、また真紀が、見た目に似合わず、(と言っては失礼かもしれないが)繊細なところもあることなど、意外な一面を発見し、それで、

「私たち、見た目は全然違うかもだけど、息は合いそうだよね。」

「そうだね~。」

ということになり、気づけば2人は、サークル内でも1番話のできる、唯一無二の親友になっていた。また優の方は、そんな史香と真紀を見て、時折、微笑ましい気持ちになることがあった。

 そして、そんな真紀に、早く日記を渡すべきだった、優はそう思い、少し後悔しながら、真紀にメールを打った。そして、真紀と優は、次の日に会うことになった。


 「優くん、大事な預かり物があるって、メールで言ってたけど、何のこと?」

「そうなんだよ真紀ちゃん。実は俺、史香の日記帳、持ってるんだよね。この前、大学の講義室でたまたま見つけたんだけど、返しそびれちゃってさ。真紀ちゃんなら知ってるかもだけど、俺、史香に振られちゃったんだよ。それで、連絡もとれないから返しようにも返せなくて…。で、真紀ちゃんにこれ返すの、お願いしていいかな?」

優は、サークル室で真紀と待ち合わせをしていた。相変わらず史香の方は、大学の講義だけでなく、サークルにも来ていないらしい。

 「それ、史香の日記帳…だよね?

 もしかして、中身読んだりした?」

「…、実は、読んじゃったんだ。こんなこと史香に言ったら怒られると思うから、黙ってて欲しいんだけど。それで、日記の最後のページの所、なぜかのりづけされてたんだ。だから俺、我に返って、これは史香の日記だから、史香に返さなきゃ、って思い直したんだ。

 それで、悪いんだけど真紀ちゃん、これ、史香に届けてくれる?」

優は、再度真紀にお願いをした。

 「…私が、『嫌だ』って言ったら、どうする?」

「えっ、どうして?どういうこと?」

「やっぱり気づいてないか。優くん、こういう時、鈍感だもんね。

 …私、優くんのことが、ずっと好きだった。最初、サークルで会った時から、ずっと…。でも、史香がサークルに入ってきて、優くんが史香のこと好きって知って、それで、2人が付き合うようになって…、私、史香のことも大好きだから、優くんのことは諦めよう、そう思ったの。

 でも、やっぱり私、優くんのことが好き。優くん、史香に振られたんでしょ?だったらいいじゃない。今は、振り向いてくれなくてもいい。私も、努力するから…、私と、付き合ってくれない?」

突然の真紀の告白に、優は驚いた。

 「…ごめん、真紀ちゃん。それはできないよ。

 俺、史香の日記を読んで、気づいたんだ。俺、やっぱり史香じゃないとダメだ。

 …史香に振られた俺が言うのも何だけどね。でも、今は俺、史香以外の人と付き合うことは、考えられない。

 だから真紀ちゃんとは、これからも友達でいたいんだ。

 ごめんね。」

優は、真紀にそう伝えた。

 「やっぱりそうだよね。史香は幸せ者だね。…ごめんね、変なこと言って。分かった、じゃあこれからも友達として、よろしくお願いします!」

真紀の強がりは、こういうことに鈍い優でも、察することができた。しかし、俺には史香しかいない。優は、その気持ちを新たにした。

 「うん、よろしく!」

「じゃあ、私から、優くんへ一言。

 実は史香から、伝言を預かっています。

 『日記ののりづけされた部分、カッターで切って読んでいいよ。』

 だってさ。」

「えっ、史香から伝言?いったいどういうこと?」

「今はそれだけしか言えない。でも優くん、史香のこと好きなんでしょ?だったら、信じてあげなよ。」

「…分かった。」

優は状況をうまく飲み込めず、はっきり言ってわけが分からない気持ちであったが、とりあえず、家に帰り、日記の続き、のりづけされた部分を読むことにした。


   ※ ※ ※ ※

 優は帰宅後、すぐにカッターを取り出し、のりづけされた部分をはがして、日記の続きを読み始めた。


 ―これから、占いに行ってきます!私、前から占いが好きで、よく行ってるんだけど、今日行くところの占い師さん、よく当たるって、評判なんだ~。でも、ちょっと緊張するな…。

 とりあえず、楽しんできます!

 ちなみに場所は、

「○○○○」

です!―


 日記の閉じられたページには、史香が占いに行く件と、その占い師の住所が書かれていた。

「なぜだか分からないが、史香は俺が、日記を読んだことを知っているらしい。じゃなけりゃ、あんな伝言はしない。

 …とりあえずこの占い師のところまでなら、ここからでも近い。よし、行ってみよう!」

優は心の中でそう呟き、占い師の所に、行くことにした。


 夕方の日差しが柔らかい、午後3時であった。世間一般では、この時間帯は、例えば社会人の場合、眠気が襲い、仕事に身が入らない時間帯であるかもしれない。しかし、優の心拍数は、そんなことは気にしていられないほど、上がっていた。優は、探していた占い師の所に、たどり着いたのである。

 そして、優はそこの玄関の呼び鈴を鳴らした。この占い師なら、史香のことを何か知っているかもしれない―。優は、期待を大きく持ちながら、中の部屋からの返事を待った。また優は、上がり過ぎた心拍数を少し下げようと、懸命になってもいた。

 「はい、どうぞ、お入り。」

中から、優を呼ぶ声が聞こえた。

「失礼します、はじめまして。私、大野優という者です。…あっ!」

優は、思わず声を出した。

「おやあんたかい。あたしも覚えてるよ。久しぶりだねえ。その節は、どうもありがとう。」

 なんとそこには、以前、史香とのデートの時に荷物運びを手伝った、あのおばあさんが、座っていたのである。

「ああ、いえいえ。…すみません、ちょっとびっくりしてしまって。ここで、働かれていたんですね。」

優は、史香の日記を読んだ直後だったので、はっきりと、このおばあさんとの一件を、思い出していた。

 「そうだねえ。意外だったかい?」

「いえ、そういうわけではありませんが…。ということは、以前僕たちが運んだ荷物って、」

「占いに使う道具だよ。」

優が言い終わるか言い終わらないかのうちに、おばあさんは、そう答えた。

「…そうですか。それで今日は、」

「女の子のことだね。」

どうやらこの占い師のおばあさんは、せっかちなところがあるらしい。

 「はい、その通りです。でも、どうして分かったんですか?」

「前にあんたの連れだった女の子がここに来た時も、同じような反応してたよ。」

おばあさんは、優の質問には直接答えずに、そう言った。

「あ、じゃあやっぱり史香…、いや、新川史香という女性は、ここに来たんですね?」

「ああ、来たね。あんたたちには前に世話になったから、特別に教えてあげるよ。本当は、客がこの店に来たかどうかは、教えないことにしてるんだけどね。」

「そうですか。ありがとうございます!」

「これで1人分の借りは返したよ。じゃあ、今から2人分の借り、返すからね。というわけで今から、タダであんたのこと、見てあげるよ。」

 「いえ、すみません。申し訳ないのですが、僕は占いはそんなに…。それより今史香は、どこにいるんですか?」

「あんた、さっき、別の女の子に告白されたね?」

「えっ、どうしてそれを…。」

「自分で言うのも何だけど、あたしゃそこそこ腕のきく、占い師なんだ。だから、大抵のことは分かるよ。その子は、前にここに来たお嬢さんの友達で、あんたとも音楽仲間だね。」

「はい、その通りです。」

その後しばらくの間、優は占い師に、過去を言い当てられた。そして優は、このおばあさんは、確かに腕の立つ人だと、認めざるを得なかった。

「いろいろ見て頂き、ありがとうございました。ところで、史香…新川史香の件についても、お伺いしたいんですが…。」

「さあ、これで借りは返したよ。後は、客の個人情報だから、答えられないね。

 でも、1つだけ言えることがあるとしたら、あんた、その子のことが好きなんだよねえ?だったらその子のこと、信じてあげたらどうだい?」

「そうですか、分かりました。今日は、ありがとうございました!」

 そう言って、優は占い師の部屋を出た。気づけば、時刻は午後4時になっており、優は、あっと言う間の1時間だったな、そう思った。


 再び家に帰った優は、史香の伝言や、さっきの占い師の言葉について、考えを巡らせていた。

「史香は、俺が日記帳を読んだことを、知っている。そして史香は、俺に伝言を残した。さらに、日記ののりづけされたページには、占いに行くことが、書かれていた。そして、史香は占いに言った…。」

これは、史香の方に、何か秘密があるに違いない。優は探偵になった気持ちで、知恵をしぼった。

「待てよ?そもそもこの日記、不自然なところがある。…頑張れ、自分。もう少しだ。」

そして優は、史香に「別れよう。」と言われてから、今までの自分の行動を、思い返してみた。

 「…あっ、もしかして!」

 優は、考えに考え、1つの結論に、たどり着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る