8話 被召喚と猫獣人
ありのまま起こったことを話すぜ。
おれは宿の部屋でアルナと話をしていたと思ったらいつのまにか森でゴブリンに囲まれていた。
何を言っているのかわからねーと思うが、俺はこの感覚を知っている。
周囲には多数のゴブリン、そしてもう1人。
「うわぁ!何なんスかあんたっ!」
突然の俺の登場に狼狽えたその者は、思いがけず引いていた弓から手を離した。
矢は逆さにひっくり返っている俺の股の間を抜けて顔面スレスレに刺さった。
「危ねぇだろおいぃ!」
「つい驚きで手が滑ったッス。申し訳ないッス」
立ち上がった俺はハッとあることが気にかかり自分の姿を確認する。
……ふぅ、大丈夫だ。服は消えていない。
「てかあんた、どっから沸いてきたんスか!」
「まぁ沸いてきたというか、呼ばれたというか」
こいつには自分が俺を召喚したという自覚がないのか。
弓を手に持った細身の女性。肌はやや褐色、癖っ毛で白髪のショートカットに猫のような耳がついてる。獣人ってやつか?
「グガアアアア!!」
そんなこんなしているとゴブリンの1体がこちらに飛びかかってきた。
「わああああ!!」
猫娘は背中の筒から慌てて矢を取るが、焦って落としてしまった。
「もうお終いッスぅぅぅ!!」
「ぬんっ!」
俺はゴブリンの振り下ろした棍棒を片手で掴むと、もう片方の手で殴り飛ばした。
ゴブリンは吹っ飛び、別のゴブリン1体を巻き込んで地面を転がった。
俺の手元にはゴブリンが手放した棍棒が残っている。
「大丈夫か?」
「えっ…は、はいッス」
ゴブリンの数は全部で7体、やれるだろうか。
「おまえ、戦えるか?」
「もも、もちのろんッス!」
「俺が前に出るから援護してくれ」
「任せるッス!」
とは言っても下手には動けない。ゴブリンは前方に4体、後方に3体、林道を道を塞ぐように構えている。俺が片方に向かえば反対側の敵を1人に押し付けることになる。
囲まれた状態でなにかを守りながら戦うのってこんなにヤバいのか。実際になってみないとわからないもんだな。
俺が迷ってる間にもゴブリン達は今にも飛びかかってきそうな気配を見せる。
「とは言っても、どうしたもんか。とりあえず包囲を抜けよう。3匹の方に突っ込む。俺が囮になるからその間に走り抜けてくれ」
「え、大丈夫なんスか?」
「丈夫だけが取り柄なんだ。俺が攻撃を受けても構わず抜けてくれ。行くぞ!うおおおおおおおお!!!」
「あ、待つッス!」
俺は猫娘の返事を待たずに数の少ない方へと突っ込んでいく。注意が俺に向くように声をあげながら両手を広げて3体のゴブリンに向かって行った。
ゴブリンは3匹とも俺に向かって飛びかかってきた。
俺は振り上げた棍棒で1体を殴り飛ばす。
残りの2体の攻撃は俺の頭と脇腹に直撃した。
「行けぇ!」
俺の声に押されて躊躇うことなく走り抜ける猫娘。
包囲を抜けると矢を取りながら反転、こちらに向けて構えた。
「風よ!」
猫娘がそう言うと、引いた矢の前に魔法陣が浮かび上がる。
「ヒューズ・アロー!」
猫娘の放った矢は風を纏って飛び、後方から俺に向かってきていた4体のゴブリンのうち、1体の頭を貫通して吹き飛ばす。さらに隣にいた1体もその勢いに体を飛ばされる。
俺は飛びかかられたゴブリンが顔に貼り付き、視界を奪われたため、振り払おうとその場でむやみに暴れていた。
ええい、くそっ!
なかなかゴブリンが剥がれずにムカついた俺は自分の顔めがけて棍棒を振った。
棍棒が顔に当たる直前、ゴブリンは飛び退き、俺は自分で自分の顔面を強打することとなった。
棍棒が砕ける。それを見てゴブリンは馬鹿にするように笑っていた。魔物の表情なんてわからないけどあれは絶対に笑っていた。
ムカついた、あいつだけは死んでもぶっ飛ばす。
残りのゴブリンは5体、うち1体は猫娘の矢に飛ばされたせいで手負いとなっている。
あれ、俺の顔面に貼り付いてたやつってどれだ?
ゴブリンはどれも同じような顔をしていて見分けがつかない。
まぁいいや、全員ぶち飛ばす!
俺は折れた棍棒を捨てて、足元に落ちていた棍棒を拾った。
「なんとかなりそうッスね」
「あぁ」
「風よ」
猫娘が再び弓を引いている。矢尻の先には先程と同じような魔法陣が浮き上がっている。
「さっきの要領でいこう。なるべく多く俺が引きつけるから、あんたはあんたに向かってくるやつを優先してとにかく数を減らせ」
「わかったッス!」
ゴブリン5体が一斉にこちらに向かってくる。
うち3体がこちらに向かってくる事を雰囲気で感じた。猫娘の方には手負いも含めた2体か。ゴブリンを倒す程度の力はあるみたいだし、予想外の展開が起きない限り大丈夫だろう。
俺は片足立ちで棍棒を両手で握りしめる体勢を取る。野球でバットを振る構えだ。
1体は確実に、あわよくば2体持っていく!
――ここだっ!!
全身全霊、思いっきり棍棒を振りかぶる。
なぜだか一瞬目がくらんだ。
「あ、戻ってき――」
大きな手応えがあった。
その直前に聞き覚えのある声が聞こえた気もしたけど。
俺が打ち飛ばしたそれは部屋の壁に上半身をめり込ませ、浮いた足を揺らしていた。
辺りを見渡す。何が起こったのか、だいたいの予想はついているが確認は大切だ。
もしかしたら想像するような事態ではないかもしれない。うん、かもしれない運転だ。
ここは、アルナの取っている宿の部屋だな。
壁に刺さっているのはアルナだな。
OK、状況確認終了。事態は概ね予想通りだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます