6話 初めての街、初めての逮捕

 アリアとミルの戦場を離れた俺とアルナは最寄りの街に向かって歩いていた。


「先生たち置いてきちゃったけどよかったのかなぁ」

「あの場はとりあえず離れるしかないだろう」

「それはそうだけど」


 アルナが街に宿を取っているというので、とりあえずはそこに向かうことにした。

 アルナから話を聞いてこれからの身の振り方を考えないとな。そのためにもまずは落ち着ける場所が欲しい。あと服な。さすがにポンチョ1枚じゃ心許ない。


「そういやM-1に出たいって言ってたな」

「うん、そうなの。でもあたしは錬金術師で、召喚の才能もなくて、無理だって言われてたの。だけどそんな時あなたが来てくれたから、これでM-1でれるぞってすごく嬉しかったんだけど…なんか、やっぱりダメみたいなの」

「そうなのか…」


 しゅんとするアルナになんて言葉をかけてあげればいいかわからなかった。

 この子が俺をこの異世界に召喚したわけだけど、アルナは召喚術士ではないのか。錬金術士って言うと、石を金に変えたり、賢者の石を探し求めてたりっていうイメージだけど、アルナも物質を別の物に変えたりできるのかな。

 そうこうしているうちに道の向こうに壁が見えてきた。


「あれが目的の街か?」

「そうだよ。フューゲルの街なの」


 街を囲うように建てられた石造りの立派な壁。その一部に門が構えられており、門の左右には守衛が立っていた。

 ずっと森の中を進んでいた事もあって、どちらかというと村と呼ぶような場所を勝手に想像していたけれど、随分と立派な街なようだ。

 アルナは小走りで守衛に近づき、なにか話をしている。その途中、俺を指差すような動きもしていた。

 話が終わると俺の元へと戻ってきた。


「入っていいって~」

「おう、ありがとう」


 街の中は中世を思わせる雰囲気だった。レンガや土壁造りの家が立ち並び、道は石畳で整備されている。通りには木箱や地面に敷いた布の上に商品を並べて屋根代わりに帆を張ったいかにもといった露天が立ち並んでいた。


「この街は規模的には大きい方なのか?」

「ん~…中くらい?王都はもっとおっきいよ」

「王都なんてあるのか」


 王都か、国を王が統治してるなんて、いかにもって感じでいいな。街にきてから異世界率が急上昇だ………異世界率ってなんだ?

 そんなことを考えていると、前方の角から人影が飛び出してきた。その人物は急いでいたようで、俺には気付くも止まりきれずにそのままぶつかった。その勢いで互い倒れて尻もちをつく。


「いててて……」


 と口には出してみるが、まぁ実際には痛くはない。痛くはなくてもついつい言っちゃうよね。

 俺はなんともなんともないぶつかった箇所をなでながら、ぶつかってきた人物を確認する。

 汚れたマントを羽織り、フードを深くかぶって顔は確認できない。相手方もぶつかった肩を手で抑えている。


「角を右だ!お前たちは回り込め!」


 そんな声が少し遠くから響いた。ぶつかったボロマントの人物は舌打ちを残して走り去っていった。

 それから数秒遅れて、ボロマントが来たのと同じ方向から、鎧を身につけた人らが走ってきた。

 全身を鎧で固めた者が2人、俺とアルナの背後に回り込んで、抜いた剣をこちらへ向けた。正面に立ちはだかるは同じく銀のフルプレートに身を包んだ藍色のショートカットの女性。威風堂々な出で立ちで、厳しい目でこちらを睨みつけている。


「観念しろ」


 女騎士は剣を抜き、俺に向かって振り下ろす。

 急なことに俺は肩をすくめて目をつぶることしかできなかった。

 しかし斬られる感触に襲われることはなく、恐る恐る目を開けると、剣は俺の鼻先に突きつけられていた。


「取り押さえろ」

「えっ、お…ちょい、なんだよ」


 うろたえる俺を尻目に、女騎士の掛け声で後ろに回っていた兵士2人が剣を収め、俺の両肩をそれぞれが抑えて無理矢理に立ち上がらせられる。

 と、その姿を見た女騎士の顔が歪んでみるみる真っ赤になっていく。


「きききっ、貴様!なんだその格好は!」


 両脇の下から腕を回されて肩を広げるように持ち上げられたせいで、俺の羽織っていたマントが御開帳し、色んな部分が露わになっていた。

 俺だって好き好んでこんな格好をしているわけじゃない。色々と経緯があるわけで、できれば責めないで頂きたい。


「そう思うなら離してくれ、俺だって恥ずかしいんだ」

「ええい!さ、さっさと連れて行け!」

「え、いやおい待てって。俺が何したってんだよ!人違いだって!」


 状況から察するに、さっきぶつかった奴と間違っているパターンなのは決定的明らかだ。

 しかし俺の変態的格好も相まって、どうにも話を聞いてくれそうな雰囲気じゃない。


「君、怪我はない?」


 剣を収めた女騎士はアルナに優しく話しかける。


「うん。それよりその人を離してほしいの」

「この男を?それはできません。この男は盗みを働いたのです」

「人違いなの。マント被った人ならさっきすれ違ったの」

「そうだそうだ。そいつ、俺にぶつかってったんだ」


 アルナが庇ってくれている。俺はそれに援護射撃を加える。


「変態野郎は黙っていなさい」


 女騎士はそう言ってキッとこちらを一睨みする。なんかこれ…悪くないかも。俺の中に眠る新たな扉の閂が少し緩んだのを感じた。

 女騎士は目尻を緩めると、アルナを優しく抱きしめた。


「可哀想な子。きっとこの変態に脅されたのね」

「えっと、全然そんな事はなくて…」

「もう大丈夫よ、なにも心配いらないわ」


 こいつ、人の話聞けよ。完全に俺の事を悪者の変態だと決めつけていやがる。……まぁ、後者は状況的に否定できないが。

 そんなやりとりをしている最中、後方からこちらに呼びかける声が聞こえた。


「おーい、たいちょー。捕まえましたぜー」


 そう言ってこちらに手を振る2人の兵士。そこには先程のボロマントの男が手を縛り上げられて捕らえられていた。

 女騎士はそれを見て、俺を見て、もう一度遠くの兵士らを見て、再び俺を見た。


「言ったろう、人違いだって」


 一応事情を聞くということで、俺たちは兵士らに同行することとなった。

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