ゲーム・プレイング・ロールver.1 村娘。をヒロインにプロデュース
角川スニーカー文庫
プロローグ1 私が村長です。
あの物語には、主人公がいる。
それは、絶対的な主人公だ。破滅を迎えそうな世界を、たった四人で救った。
その物語にも、主人公がいる。
何百何千何万もの兵を、たった四人で退けた。
あんな物語にも、こんな物語にも、そんな物語にも主人公がいる。
宇宙を征服したり、女子高生を侍らしたり、神を殺したり。
あり得ないことをさも当たり前のようにこなす、『最強』の主人公がいるんだ。
そして――この物語にも主人公がいる。
無限に現れるモンスターを蹴散らし、各地に眠るドラゴンを退治し、帝国軍という世界の半分以上を手に入れた巨大国家を一〇人以下で徹底的に壊滅させる――『予定』の主人公だ。
だが、それは俺じゃない。
そう、俺では、主人公には絶対になれないんだ。
俺の名前は『マナト』。察しの良い人は分かってるだろう、男だ。
髪は黒く、瞳も黒。身長はまあまあ、体重もまあまあ。
目が大きい訳でもなく、鼻が伸びている訳でもなく、えらが張ってる訳でも唇がいかりやな感じでもない。
ごく普通の顔。平均的な顔が俺のコンプレックスだ。
よく、「ガチャピンみたいな目だな」だの「眠いの?」だの「究極超人あ~るに出てませんでした?」だの言われることもある三白眼だけが、俺という個人をアピールするための材料だろう。
どこにでもいるような容姿のせいか、よく「前にもお会いしませんでした?」なんてことも言われる。
もしかしたら、あなたにもお目にかかったことがあるかもしれませんね。
あなたが――『ゲーム』をしたことがあるなら。
ここで言う『ゲーム』とは、じゃんけんとか鬼ごっことか、缶蹴りとかスイカ割りとかそんな身体を使ったアウトドアなもんじゃない。
テレビゲームだ。
あなたがテレビゲームをやったことがあるなら、こう思ったことはないだろうか?
『あれ? このキャラ、あのゲームのキャラに似てるな』
『またこのキャラかよー。もういいよこういうキャラー』
『あー、はいはい。どうせこいつ死ぬんでしょ? 前にも見たわ』
同じようなキャラが、同じような台詞を喋り、同じような動きをする、圧倒的な既視感を感じたことはないだろうか?
それもそのはず。
それらは、同じ『人物』が『演じて』いるのだ。
察しの良い人はそろそろ分かってくれているだろう。
俺は、『ゲームの世界』の住人なのである。
テレビゲームとは、プログラマーがデジタルデータを弄って作られているのではない。
実は――配給元である『ゲーム会社』の依頼を受け、『ゲームの世界の住人』がゲームを制作しているのだ。
ドラマや映画のようにな。
俺たちは皆さんから見れば、パソコンの向こう側、デジタルの世界にいる。
だが、データの集合体じゃあない。飯だって食うし、子供だって産む。
そう、世界こそ違うが、俺たちは確かに生きている。
電子の妖精――とでも言おうか。俺の顔には、似合わないがな。
さて、太陽も雲ない空。時間ではなく場所で変わる天気。風という風はなく、小さな虫とかもいない。そんな草原を、ジーンズにジャケットという出で立ちで歩いて、とある村にやってきた。
やってきた理由は、至極簡単。――面接だ。
俺の仕事は、『イベントプランナー』だ。
『プレイヤー様』にお喜び頂けるイベントを成し遂げること。
そのために俺は生きているし、そのためなら命だって賭ける。
全ては、プレイヤー様のために。
それが、この『ゲーム世界』でのスローガン。
その村は、モンスターが来ないよう、柵で覆われている小さな村だった。
家屋のほとんどが木造の平屋。
モンスターの侵入を防ぐための巨大な鋼の門が、まるで今さっき建てられたばかりのように傷も錆びも一切なく悠然と立ちふさがっている。
村へ入るのに、別にノックもいらないし、「すみません」なんて声掛けもいらない。
押せば開く。――それが、一般的な村の門ってもんだ。
だったらモンスターを阻止出来ないんじゃないか? と思う人もいるだろうね。
その心配はない。モンスターは『絶対に』村を襲わないんだ。
だって、周辺のモンスターは村の人間が『召喚』しているのだから。
「エンドール村へようこそ。あたしはルピア」
村に入ってすぐのところに、少女が仁王立ちしていた。
薄紅色の長い髪をした、エプロンドレス姿の少女。
身長は一五〇センチメートルほどで、あまり良いモノを食べてないのか、肉付きはよくない。俗に言う、幼児体型というやつだ。
特に、胸のところの肉付きがよくない。
むすっとした表情の娘だった。
「あ、初めましてマナトです。ルピアちゃんはここの人かな?」
俺は歌のお兄さんぐらいの爽やかな笑顔を向けた。
人間関係はファーストインプレッション、出会い頭で大体決まる。
「けっ」
挨拶を吐き捨てられたっ! 馴れ馴れしすぎたかっ!
「えっと……あの……村長さんはいらっしゃいますか?」
落ち着け俺。もしかしたら、すでに圧迫面接が始まっているのかもしれん!
「ちっ」
質問を舌打ちされたっ!
なんなのこの子! なんでこんなに態度悪いの! ルピアちゃんなんでっ!
とことことことこ。俺が衝撃を受けていると、ルピアちゃんのところへ一羽のニワトリがやってきた。
ルピアちゃんはむんずとニワトリを手に取り――
「にわとり、投げる?」
『あ、そうそう。ついでに』――みたいな感覚で恐ろしいことを言い出した。
「投げない投げない! で、村長さんはどこに?」
俺はぶんぶんと手を振ってお断りした。なんで急にニワトリを投げるか聞いたんだ?
「ここをまっすぐ行って三叉路を右に行って一〇一段の階段を上って行くと右手にデコウの看板があるからそこを右折していい感じに道なりに行くとおそば屋さんがあってその二つ右隣の家だけど」
「………………なるほど」
ものすっごい早口で言われた。
丁寧に教えて貰ったが、全く覚えられない。とりあえずまっすぐ行ってみようかな。
どうせ、村長の家は村の一番奥だろうし。
「……なんであたしが……非番なのにあたしが」
歩き出すと、ルピアと名乗った少女はぶつぶつと恨み節のような、呪いのような声色で喋りながら一定の距離を保って後ろをついてくる。
その一定の距離ってのが問題で、息づかいを感じる程度のすごく近い距離。
忍者じゃなくても、気配を感じられるレベルの距離だ。
立ち止まっても、早歩きにしても、距離を保ったままだった。
「あの、なんか用があるんですか?」
あまりにぶつぶつ言ってるのが気になったので、振り向いて文句の一つぐらい言ってもいいだろうと思ったら――ぶつかってしまった。
立ち止まってから振り向くべきだった。
急いで振り向くべきではなかった。
どん。と思いっきりぶつかってしまい、ルピアちゃんは後ろに倒れる。
「ちょまっ!」
声を上げたのは、俺だった。
なんと、ルピアちゃんは咄嗟に俺のジャケットの袖を引っ張った。
倒れまいと掴んだというより、俺を引きずり倒すために引っ張ったんだ。
その『ぐいっ!』っと感は半端なく、俺も道連れに倒されてしまった。
………………やらかい。
倒れた拍子に、唇と唇が、触れ合っていた。
俺は、受け身を取ろうと、手をついたんだ。
そのせいで、いや、そのおかげで、ぴったりちょっきり、――がっつりキスしてしまった。
優しく、しかし力強く。
正面同士なら、鼻が先に当たっていただろう。
身長差のせいなのか、倒れ方のせいなのか、少し斜めな状態で――やらかい。
これは美味い。じゃない、マズイ。
また、やってしまった。
俺は、どうしてだか、こういう出来事に遭遇する。
ラッキースケベという奴らしい。
確かにラッキーではあるだろうが――ちっともラッキーではない。
その一瞬ならば、確かに嬉しい出来事だとは思う。が、これは完全なセクハラ。これが原因で、何度も何度も解雇されてきた。
女難の相って奴だ。
瑞々しい唇は離そうとすると、うっすらくっついてくる。
小さく、薄い唇なのにも拘わらず、なんとも柔らかだ。
一瞬、頭が真っ白になったのは、キスによる心地よさと、やってしまったという恐ろしさからだろうな。
顔を真っ赤に染めて、少し涙目になりながら睨み付ける少女の表情に、さーっと青ざめた表情の俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「ほんとすみませんほんとマジですみませんマジで」
俺はすぐに起き上がり、そして謝った。ぺこぺこと何度も頭を下げて謝った。
ルピアは手の甲でぐいっと唇を拭う。
その目は妖しく輝いて、拳がぷるぷると震えたが――すぐににっこりと笑顔を見せる。
「こちらの民家もどうぞ」
すぐそこにある民家を手で指し示す。
こちらの――ということは、村長がいる場所でないことは確かだろう。
だが、強く言われれば、断る訳にはいかないな。俺は面接に来ているんだ。彼女は上司に当たるはず。
しかたない、入ってみるか。
戸締まりはしていないが、扉はうっすら開いている。なんで完全に閉めないんだろうと思いながら戸を開けて中へ――
ばふっ。黒板消しが、落ちてきた。
………………あああああっ!
俺は心の中で叫んだ。なんだよこのトラップはっ! 予測出来るか! どこの民家に黒板消しがあるんだよ!
白い粉が舞い、けほけほと咳き込む。それは、後ろにいる少女も同じだ。
振り返ると、ルピアちゃんは腹を抱えて肩を震わせていた。
声には出さないが、どうやら爆笑しているようだ。
…………この野郎……わざとだな?
俺が悪いんだけど……こんな仕返しをされるとは。
「ここで、何をすれば?」
一軒家。だが、キッチンがあるだけのワンルーム。風呂トイレなし。ついでに、住人もなし。カーペットもカーテンもない民家だった。
「タンス、調べたいんでしょ? どうせ」
「いや、別に」
「調べたいんでしょ? どうせ」
何故二回言った。
ゲームの世界では、勝手に家に入り、勝手にタンスを漁っても、誰も文句は言わない。
法律なんてものは、この世界にはないんだ。
タンスの前に立ち、すーっと引き出しを開ける。
すると、カチっと音がして――ぶっしゅーっとガスが噴き出してきた。
「ああああっ!」
思わず、声が漏れる。
………………また、トラップだ。
振り向くと、ルピアちゃんは腹を抱えて口元を押さえながら肩をふるわせていた。
何がそんなに面白いのか。ルピアちゃん……いや、ルピア。こいつ――さては、ドSだな? 人のリアクションを見るのが楽しくて仕方ない部類の人間。
キスをした仕返しに、このトラップへ誘導したんだ。
確かに、急に振り向いたのは俺の落ち度かもしれんが――許せん! 人を弄びやがって! こいつだけは許せん! 絶対に何があっても許さんぞ!
ん? タンスの中に、何かある。
うわーお。下着だ。可愛らしいピンクのパンティが一枚だけ、引き出しに入っていた。
「これ、持っていっていいってこと?」
ルピアに聞いてみるが、返事はない。ただ、顔を真っ赤にして目を伏せていた。
あれ? いいの?
セクハラしても、よかですばい?
そうか。黒板のトラップで、キスした件は水に流した。
逆に、このパンツで、ガスのトラップの件を水に流せということだな。
……まあ、なんだ。そういうことなら……うん。許して――やるかな。
パンティをジーンズのポケットに突っ込んで、俺は民家を出る。
「で、村長はどこに?」
「村長の家なら、ここをまっすぐ行って、三叉路を右に行って、一〇一段の階段を上って行くと、右手にデコウの看板があるから、そこを右折していい感じに道なりに行くと、そば屋があるので、その二つ右隣」
その台詞って入り口からの案内であって、この場所からその通り進んだら村長の家に着かないのでは?
まあいいや。村長の家へ向かおう。
入り口に戻ってからまっすぐ進むと、水たまりを見つけた。
こぽこぽと沸騰しているかのような、紫色の水たまり。それは――『毒の沼地』と呼ばれている。
実際、毒などではなく、踏むと電撃のようなモノが駆け巡り、痛みはないが『イラっ!』とする水たまりだ。
そんなもの、踏むわけもなく、大きく迂回して先へ進む。
三叉路を右に行くと――次は、地面が凍っている。
一歩踏み出すだけで端から端まで強制的に滑りこんでしまう『氷の床』だ。といっても、冷たくはない。あくまで、見た目が氷というだけで、身動きが取れずに滑ってしまう『移動装置』だ。
これはちょうどいい。俺はすっと一歩氷の上に足を踏み入れる。
すい~っとスケートでもしているかのように、足が滑る。
バランスを取る必要はない。これは、とても安全な床なんだ。
氷の床を抜けると、急勾配な階段が目の前に。
「うわあ」思わず声が漏れた。
ルピアは確かこう言っていた。
ワシの階段は一〇一段まであるぞ。と。
一〇一段の階段をぜーぜー言いながら登り切ると――ある看板が見えてくる。
女性の横顔みたいなマークと、達筆な字で書かれた『出光』の文字。
………………デコウの看板ってこれかーっ!
読み方はデコウじゃねえよ! ここで何を給油するんだよ! この世界観で何に何をセルフで給油するんだっつーんだよっ!
「風流ねー」
ルピアはしみじみと出光の看板を見上げている。
「まあ、いいデザインの看板ではありますね……その上はなんですか?」
出光の看板の上に、樽が浮いている。
何かに引っかかっていたり、屋根に置いてあるということではなく、空中に巨大な樽が浮いていた。
「あれ? 樽だけど?」
『……え? そんなことも知らないの顔』をされたので、「そうすか」と小さく返して、見なかったことにした。
そんなこんなで、おそば屋さんの二つ隣にある村長の家へ。
やっとやってきた村長の家。
長かった。やけに長かった。
少しだけ開いた戸。勢いよくガラッと開けて黒板消しを回避したあと、中へ入る。
今までの民家とは違い、外観から中身から、全てが和風だった。
畳の座敷に村長さんを発見。
そこにいたのは、また少女だった。――いや、『多分少女』だ。
ぱっと見た感じは白髪の老人。立派なヒゲを蓄えた老人に見える。紋付き袴の格好で、壺を手にしていた。
だが、多分少女。老人に扮装しただけの、少女だ。
「初めまして。本日――」
俺の自己紹介よりも早く、老人(少女)は壺を床にたたきつける。
「けしからーんっ!」
大声とパリーンという音に、思わず顔を背けてしまった。
「何かあったんですか?」
色々心配になったので聞いてみると――
「北の山にドラゴンがおってな」
そっちかー。壺じゃねえのかよっ! けしからんのは壺の出来じゃねえのかよっ!
「はあ」溜息のような返事を返すのが精一杯だった。
「退治して欲しいなーとぞおもふ」
これもう面接始まってるのかな? それとも面接終わってるのかな?
「……それで、雇ってもらえるんですかね?」
「一流のハンターとして認めて信ぜ候――あ、ちょっと待って――え? ほんと?」
急に、村長が目を丸くした。後ろにいたルピアも同じく、目を丸くしている。
「どうかしました?」
「……お前、何者だっ!」
思った通りカツラだった髪を剥ぎ取り、村長は付けヒゲもびりびりと剥がしながら俺を睨み付けた。
老人の扮装を取った二人目の少女は、黒髪の美しい少女だった。
思わず感嘆の声を上げてしまいそうな、とても綺麗な顔の少女。
彼女が、この村の村長か。
俺は、面食らってしまった。
自分と同じぐらいの年齢だろうか。それとも、それ以下だろうか。
そんな女の子が、村長をしているのだから。
それとも――その少女の顔が、とても輝いていたからだろうか。
どくん、と心臓が大きく動いた気がする。
ファーストインプレッション。第一印象で、俺はこの少女に恋を――いや、これはきっと恋ではないな。憧れだ。『無個性で普通の俺』が欲しかった『華』があったから。
「何者って……履歴書は先に送りましたでしょう?」
「履歴書?」
村長の少女は寝耳に水みたいな表情で聞き返す。
「俺は、マナトという者ですが」
「え! 『ごんぶと』様じゃないのっ!」
「そのごんぶと様って――」
「え! プレイヤー様じゃないのっ?」
質問するより早く、後ろにいた薄紅色の髪の少女、ルピアが叫ぶ。
「え!」「ええ?」
驚きの声ばかりが、前から後ろから飛んでくる。
俺は全てを理解した。
俺たちは、ゲームの世界に生きる『NPC』だ。
俺たちの生き甲斐は、『プレイヤー様』に満足頂き、楽しんで頂くこと。
ごんぶと様というのは、プレイヤー様のことだろう。プレイヤー様は、へんてこな名前を付けることが多いからな。
この村の謎な出来事は全て、プレイヤー様を迎えるためだった。
そこに俺が来たもんだから、変な歓迎を受けたんだ。
「違いますよ。どこの主人公が、ジャケットにジーンズ姿でリュックを背負ってるんですか」
俺は両手を広げて呆れたように言う。
「ぽ、ポケモンとか」
いたーっ! 確かにジャケットにジーンズでリュック背負ってる主人公いたーっ!
「この世界観に、この格好の主人公はおかしいでしょう?」
仕方なく、俺は言い直す。
「…………た、たしかに」
村長とルピアが狼狽える。
納得してくれたようで助かった。
「じゃあ、マナトくん? だっけ? 君はなんだったの?」
「俺はこの村で雇って貰いたくて面接に来ただけの、ただのイベントプランナーですよ」
そう、俺はイベントプランナー…………の、卵。
プレイヤー様にお喜び頂けるよう、村や砦で、はらはらドキドキのイベントを演出する。
プレイヤー様のお心に残り、生涯にわたって『あのゲームは良かった』『あのシーンは良かった』と述懐して頂くことが、夢だ。
そのために、この村へやってきた。
「まずいわっ! 完全に人違いだったっていうことね! 急いで準備を! 全部元に戻すのよ!」
村長が慌てて耳を押さえながら指示を出す。
「総員に通達っ! さっきのご来村は誤報っ! 至急トラップの設置しなおしを! ああ、もう! タンスの下着も取られちゃったじゃないっ! だったらこいつ、心ゆくまでガーランドの銃床でぶん殴れば良かった!」
ルピアも今まで俺が潰してきてしまった小さなイタズラをやり直そうと指示を出している。ガスとか、黒板消しとか。
「……待って。準備はしないで。一時待機。――君、イベントプランナーって言ったよね?」
そんなルピアの指示を、思い悩んだ表情の村長が止め、俺の顔をじっと見る。
「ん? はい」
「この村のイベント、どう思った?」
村長は、真剣な顔で聞いてくる。
その顔がとても俺好みだったので、思わず目を背けてしまった。
「そうですね。まず案内するなら後ろじゃ無く前を歩いて欲しいです。っていうかむしろいらないです」
ちらりとルピアを見る。反論するかな? と思ったが――
「ああー」
感心したように頷いていた。
「黒板消しのトラップもガストラップも別にいらないです」
「え? プレイヤー様はそういうイタズラ面白いと思うんじゃ……せっかく全民家に仕掛けたのに」
「全民家で同じトラップ食らっても、ただテンポが悪いだけと感じるでしょう」
「ああー」ルピアは感心しきりに頷いていた。
「この村長の家までの道のりも面倒過ぎます」
「冒険感があっていいかなって思ったけど」
「一回ならいいけど、このあとドラゴン倒しに出て、また一〇一段の階段登るとなると面倒でしょ?」
「ああー」ルピアは感心しきりに頷いていた。
「そもそも、ファンタジーRPGの世界で、イデミツの看板はおかしいでしょ?」
「え! 愛着があるかなって思ったけど」
「現実世界から離れてお遊び頂いているってのに、現実世界のモノを見せられたくはないんじゃないでしょうか」
「イデ……ミツ……」ルピアは感心しきりに頷いていた。
「あと、下着入れるのもどうかと思います」
「つまり、君はこう言いたいの? 罠の準備も、下着の準備も、お出迎えもしなくていいって?」
「まあ、今の状態でプレイヤー様を迎え入れても、問題ないとは思いますね」
「じ、じゃあ、プレイヤー様がお投げになる用のニワトリとか、壺は?」
ルピアが信じられないとでも言いたげな表情で聞いてきた。
「それは別にあってもいいとは思います。なくてもいいとも思います。あーあと――えっと」
「私? あ、私はフィルス」
「フィルスさんの村長の台詞ですが、昔言葉にしようと頑張りすぎて逆に出来ていません」
「…………そう」
村長はむむむっと何かを悩んだように顔をしかめ、腕を組んだ。
俺は、しまった。と思った。
この村にはこの村だけの、ローカルルールが存在するだろう。
何も知らない人間が、今から雇って貰おうとしている人間が、つべこべと指摘するのは癪に障るだろう。
今度は、俺が指摘される番だな。
お前の中の常識や考えを押しつけるな――とか。
この村の何を知ってるんだ――とか。
あと――
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