雨と廃墟と約束
じゃー
第1話 灰色の道
――――雨の降る夜、俺は一人の少女と出会う。
俺は地元を離れ、大学の近くに家を借りて住むようになった。
それからしばらくは見慣れない場所のせいもあり、自分の居場所がないように感じていた。
そんなことは実際は杞憂で、すぐに馴染んでしまった。でもどこか馴染めない、そんな空間だった。
一番落ち着く場所は自分の部屋で、一人でいることが一番楽だと考えるようになっていった。
決してコミュニケーションが嫌いなわけではないし、苦手なわけでもなかった。
そう思う理由はなんとなく。明確でないからこそ難病である・・・・。
そんな俺にとって夏休みは天国であった。友達に会わなくて済む。
そんなこと思う相手は果たして友達なのだろうか。
「あっちぃな・・・・」
自由気ままに買い物を済ませ、帰路に足を弾ませる。
こんな気分の日は決まってあの道を通る。
誰かが一緒の時は絶対に通らない、通称『灰色の道』が俺を呼んでいる気がする。
そんな馬鹿なことを考えながら、次の角を右に曲がる。
―――ようこそ『灰色の道』へ。
『灰色の道』と俺が命名するだけあって、全くなんにもない。
厳密に言えば、『人の気配が』だ。
建っている建物は廃墟のようなものばかりで、誰かが住んでいそうな建物はゼロだ。
ただただ瓦礫の山と、割れたガラスがそこら辺に散乱しているだけだ。
「道を一本ズレるだけでこれほど世界は変わるのか」と関心してしまうほど、他とは違う雰囲気が漂っていた。
それはまさに、大学での俺のようだった。どこか周りとは違う、芯から馴染めない・・・・。
ふとそんなことを思った時に、ただでさえ薄暗い空間が一層暗くなったような気がした。
それは気のせいじゃなく、前触れであった。
―――そう、雨が降り出したのだ。
「まじでか・・・・」
雨脚はとても激しく俺の行く手を阻むかのようであった。
俺の所持品に雨を回避できそうなものはなく、すぐに止みそうにない空模様。
俺は近くにあった廃ビルで雨をやり過ごすことにした。
外見も凄まじかったが、中も荒れ放題で『ザ・廃墟』という感じであった。
謎の高揚感が急に俺を襲い、で無性に叫びたい気分になった。
「よっ―――――――」
「雨宿りですか?」
急な声に驚き、振り返る。
そこには階段を降りてくる一人の少女の姿があった。
他人の登場により、謎の高揚感も馬鹿な行動衝動も収まり冷静さを取り戻す。
もう少しで危ない不審者に成り下がるところだった。
「この雨だからな。お前もか?」
「この雨ですからね」
こんな場所だからだったのかもしれないが、彼女は少し不思議に思えた。
しかし、その違和感を俺はすぐに気づくことはなかった。
雨の中知らない女の子と廃墟で二人きりとか、どこのラブコメだよ・・・・。
俺はどこか後ろめたさを感じ、早く雨が止まないかとそわそわしていた。
一方、少女の方はどこか楽しそうでわくわくしているのが目にとれた。
「もしよかったら雨が止むまでお話しませんか?」
「・・・・・・・・」
沈黙を破ったのは少女の方だった。
提案の内容が予想外すぎて、俺は少し固まってしまっていた。
「駄目ですか?」
「・・・・・暇だし、いいぞ」
返事をしたが警戒は怠らない。不思議と嫌な気持ちはなかった。
しかし、承諾したものの年下女子との話題なんて持ち合わせていない。
「今日はいい天気ですね」
「・・・・・外めちゃくちゃ土砂降りだけどな。ある意味すごい天気ではあるが」
「元気にしてましたか?」
「まさか初対面の人に言われる日が来るとは思わなかったよ。もしかしてツッコミ待ちなのか!?」
あまりのボケに思わずツッコミを我慢できなかった。
「思ったよりプレッシャーがすごかったです・・・」
「何からのプレッシャーだよ!?」
プレッシャーを与えるようなことしてないだろ。
「その・・・・機嫌悪いのかなーって」
「・・・・・・・・」
無言でプレッシャーを与えていたようだ。それは悪いことをしたな。
「そんな奴によくこんな提案できたな」
「そこは私ですから」
どこまでも誇らしげに言い放つ少女は全く威厳はなかった。
緊張なんてするだけ無駄だなと思った俺は、濡れていない所を探し座り込む。
つられるように少女も俺の横に座り込む。
「まあ、とりあえず無難な質問とかでいんじゃねーか?」
「・・・・・では!好きな動物はいますか?」
「意気込んだ割に普通の質問だな・・・・。いるよ」
「そうですか・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「そこはもっと掘り下げろよっ!会話終了しちゃってるじゃん!」
話をしようと誘ったのそっちなのに、なんなんだよ、これ。
「なんとなく?」
少し可愛く恍けても騙されねーよ。
「はあー・・・・」
思わず溜息が出る。
「溜息をすると幸せが逃げちゃいますよ?」
「誰のせいだ、誰の」
「逃げた幸せの分、私が幸せをあげます」
プロポーズのようなセリフを、少女は恥ずかしげもなく、寧ろ誇らしげに呟く。
本当に変わった子だ。
「期待しとくよ・・・・」
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