真銀さんとラブレター

紀之介

秘密の。。。

「…何してるの?」


 スピーカーから、最終下校時刻の予鈴が響く閑散とした校舎の玄関。


 下駄箱には挙動不審な人影が有りました。


 気が付いた真銀さんが声を掛けます。


「野上?」


 凍りついた相手に、真銀さんは近づきました。


「…秘密の趣味?」


「は?」


「まあ…女の子の靴の方が、良いかもだよね。」


「─ 何の話?」


「く・つ! 嗅ぐんでしょ? に・お・い!!」


「ち・が・う!」


 焦って抗議する野上君。


 驚きの声が、真銀さんの口から漏れます。


「─ え、男の子の方が…良いの?!」


「僕には、他人の靴の匂い嗅ぐ趣味はない!!」


「じゃあ…何してるの?」


 野上君の右手に握られた何かに、真銀さんは気が付きました。


「…ラブレター?」


 真銀さんは、右手を背中に隠した野上君と距離を縮めます。


「私個人としては、様式美として 下駄箱にラブレターは否定しないけど」


 真銀さんが前に進んだ分、野上君は後ろに下がりました。


「他の人はどうなんだろうね」


 ニヤニヤ顔の真銀さんが、野上君の顔を覗き込みます。


「─ で、誰宛?」


 目が合った野上君は、観念した様に真銀さんを指さしました。


「…え? 私?!」


 驚いた様に真銀さんは、数歩後退します。


「物好きだね。。。」


 沈黙してしまった真銀さんに、野上君は必死の覚悟で尋ねました。


「で…どうかな?」


 野上君が左手に持ち替えた封筒を、真銀さんが見詰めます。


「…貰う機会って、めったにないと思うだよね、ラブレター」


「─」


「折角、書いて貰った事だし…それを読んでから、返事しても…良い?」


 真銀さんの言葉に、野上君は頷きました。


 しばらくすると、真銀さんは辺りをキョロキョロ探し始めます。


「ところで…野上の下駄箱って、どの辺?」


 場所を確認してから、真銀さんは呟きました。


「下駄箱ラブレターの返事は、下駄箱に返さないとね。」


----------


 週明けの朝、自分の下駄箱に 可愛い封筒を発見する野上君。


 中身を確認するために、急いでトイレの個室に向かいます。


 封筒を開けると、野上君の出したラブレターと 折り畳まれたピンクの便箋が出てきました。


 ラブレターは赤字の添削され、封筒には「もう少し頑張りましょう」の赤いスタンプが押されています。


 ピンクの便箋には、こう書かれていました。


「近日中に、添削を参考にラブレターを再提出! なお、添削料として<カフェ敦賀>で、私に紅茶とケーキをご馳走してくれる事♡」

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