包み状

紀之介

何じゃ、これは?

「何か他に、余に話があるのではないか?」


 領主は、重臣の右月に尋ねました。


「言いたい事があるのなら、申してみよ 茶吉」


 幼名で呼ばれた右月は、懐から 表に呪文の様な文字が書かれた包み状を取り出します。


「…これを、ご覧頂けますでしょうか」


 差し出された包み状を、受け取る領主。


「光文4年3月1日、出口村の田吾作が4人殺める」


 中身の文面を読み、右月に確かめます。


「─ 何じゃ、これは?」


「目安箱に、入っておりました」


「数日前に起きた…騒ぎの話ではないか?!」


「…それが投函されたのは……事が起きる9日前なのです」


 眉間にシワ顔を寄せた領主に、右月は別に包み状を差し出しました。


「昨日、これが…」


 先ほどと同じ様な紙で包まれた文を、領主は手に取ります。


「光文4年3月11日からの数日で、上新田村のおスミが13人殺める」


 中身を改めた領主は、すかさず右月に確認しました。


「上新田村に、おスミと言うものは居るのか?」


「─ 居りました」


「…」


「年端も行かぬ、童女で御座います。」


 顔を上げた領主の視線を、右月は受け止めます。


「田吾作の件…日次も場所も、殺めた人の数まで、言い当てられております…」


「─ 捨て置け」


「よ…宜しいので?」


「突然錯乱した、大の男の田吾作が殺めた数が…4人」


「─」


「童女に…13人もの人を、殺められると思うか?」


「…思いませぬ」


「仮に、おスミが狂乱して暴れたても、如何程の事があろう。。。」


「仰せの通りに…」


----------


「上新田村での流行病、人死は14人で御座います」


 右月は領主に言上しました。


「…吟味の結果、最初に あの死病に掛かったのは…」


「おスミ…だったのだな」


「3月11日に…森で奇妙な虫に刺されたのが、事の始まりとの見立てで…」


「─ あの文の通りに…なってしまったのか。」


 何か言いたげな右月に、領主が気が付きます。


「どうした?」


「…誠に、申し上げ難き事で御座いますが」


「またか?」


 頷いた右月は、前の2通と同じ様な文字の書かれた包み状を 領主に差し出しました。


「その方…もう中身を改めたのか?」


 頭を振って否定した右月に、領主は問い掛けました。


「茶吉、その方の存念は?」


「包みを開かずに、燃やしでもした方が…良いかと存じます」


「…」


「─ まだ何もしていない者を、錯乱して人を殺めるかもしれないからと、捕らえて首をはねる訳にも参りません。」


 右月は、領主と目を合わせます。


「ましてや…死病を振りまくかも知れないと言う戯けた理由で、童女を…」


 領主は、右月に頷いて見せました。


「余も…そう思う。」


「─」


「事が起こる前に判っても、御し様がなら…知らぬ方がマシよな」


 姿勢を正した領主は、右月は命じます。


「今後、その包み状を目にしたら 即刻灰にする事、しかと申し付ける。」

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包み状 紀之介 @otnknsk

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