今日から友達

けものフレンズ大好き

今日から友達

 ここはさばんなちほー。

 今日も元気にサーバルちゃんが走り回っています。

 そんなサーバルちゃんを羨ましげに見ているフレンズが……。


「サーバルさんはすごいです……」

 誰に対しても物怖じせず話しかけ、すぐに友達になれるサーバルちゃんは、内気なアードウルフちゃんにとって憧れの存在でした。

 ドジと言われてもてんで弱いと言われても、尊敬するフレンズであることにかわりはありません。

「それに比べて私は……」

 アードウルフちゃんは下を向いて、ため息を吐きながら歩きます。


 いつもそんな風に歩いているせいでしょうか。

 落ち込む度に蟻の行列がすぐに目に付き――


「……ごくり」

 

 すぐに立ち直り、巣まで追ってしまいます。

 

 そして――


「痛!」

「いったーい!」


 同じく蟻を追って正面から歩いていたフレンズと、巣の上で思い切り頭をぶつけてしまいました。


「うう……すみません……」

「え、あ、え……」

 アードウルフちゃんはすぐに謝りましたが、謝られた方は何か挙動不審です。

 アードウルフちゃんが顔を上げると、そこには体全体で威嚇のポーズをしているフレンズが……。

「あのあなたは……?」

「あたしはミナミコアリクイだ! 言っとくけど謝らないぞ! お前からぶつかってきたんだからな!」

 強い口調で言ってはいますが、脚がぷるぷる震えています。

 アードウルフちゃんは少しおかしくなって、つい笑ってしまいました。

「な、なんだよう!」

「ごめんなさい。でも私はそんなにこわいフレンズじゃないです。むしろ根暗でよわよわの……」

 言っていてアードウルフちゃん自身が悲しくなってしまいました。


「……お前あんまり怖くないな」

「生まれこのかた、恐がられたのはコアリクイさんが初めてです」

「ふーん」

 コアリクイちゃんはそこでようやく警戒心を解き、威嚇のポーズをやめます。

「ところでこんな所に何しに来たんだ?」

「えっと、蟻を追っていて……」

「蟻!?」

 コアリクイちゃんの目が光ります。


 それから始まる熱い蟻談義。

 蟻を通して二人は意気投合し、それからお互いの身の上についてもポツポツと話し始めました。


「そっか、アードウルフは友達がいないんだな」

「はっきり言われると傷つきますけど、その通りです」

「……実はあたしもなんだ」

「コアリクイさんも? サーバルさんみたいに活発そうだし、私みたいに人見知りとか全然しなさそうだけど……」

「あたしの場合、人見知りがひどすぎて初対面のフレンズには威嚇しかできないんだよう……。そんなんじゃ友達なんて出来るわけ無いよな……」

「わ、私はコアリクイさんのこと怖くないですよ!」

 アードウルフちゃんは珍しく積極的に、ぎゅっとコアリクイちゃんの手を握ります。

 突然のことにコアリクイちゃんは、思わず威嚇のポーズをとってしまいました。


「あ・・・・・・」

「……くす」

 そのあまりの場違いな反応に、アードウルフちゃんは思わず笑ってしまいます。

 初めコアリクイちゃんは照れ隠しの怒った顔をしていましたが、結局自分もつられて笑ってしまいました。


 そして二人はひとしきり笑ったあと――。


「あ、あの、その、聞いて欲しいことがあるんですけど」

 突然真剣な表情でアードウルフちゃんが言いました。

「な、なんだよう」

「その、わ、わ、私とコアリクイさんはとっても気が合うと思うんです」

「う、うん、まあそうだな」

「その、だ、だから」

 アードウルフちゃんはしばらく目を泳がせていましたが、意を決してコアリクイちゃんに詰め寄ります。


「お友達になってくれませんか!?」

「え……あ……はい」

 あまりの勢いに、特に深く考えずにコアリクイちゃんは首を縦に振りました。

「わあ、ありがとうございます!」

 アードウルフちゃんはそのまま、コアリクイちゃんの手をぎゅっと握ります。


 そして2人はお互い初めてのお友達になりました。



 それから数日経ったある日、アードウルフちゃんはいつものようにじゃんぐるちほーのコアリクイちゃんの所に行ったのですが――。


「コアリクイちゃん大丈夫ですか!?」

「う~ん……」

 その日のコアリクイちゃんは体調がひどく悪そうで、顔色も真っ青でした。

「……昼間食べた蟻が悪かったのかな」

「ううう……こういうときはどうすればいいんでしょう……」

「心配するなよぉ。どうせそのうちよくなるから」

「でも……あ、そうだ。さばんなちほーにとっても元気になるジャパリまんがあるんです! サーバルさんが元気なのも、それを毎日食べてるからだと思うんです。だから私がさばんなちほーまでとってきます!」

「べ、べつにいいよぉ……」

 コアリクイちゃんはそこまでしてもらうのも悪いと思ったのですが、アードウルフちゃんは話も聞かずにさばんなちほーへと戻って行ってしまいました。


 さばんなちほーに戻ったアードウルフちゃん――。

 ジャパリまんを見つけるのにしばらく時間がかかってしまい、ゲートまで戻って来たのは数日後でした。


 そして、そこには出るときにはいなかった巨大なセルリアンが。


 アードウルフちゃんは小さいセルリアンを倒すのがやっとで、とてもあの大きさのセルリアンと戦うことなど出来ません。

 さらに未だにコアリクイちゃん以外お友達がおらず、誰かに頼ることも出来ません。


 ハンターが来て倒してくれるまで待っていれば良い。

 

 カバちゃんがいたらそう言ったでしょうし、普段のアードウルフちゃんならそうしたでしょう。

 しかし苦しむコアリクイちゃんの姿が頭に浮かび、引き返すことは出来ませんでした。


 アードウルフちゃんは全速力で、セルリアンの横を駆け抜けようとします。

 けれど、セルリアンは見逃さず、いとも容易くアードウルフちゃんを捕まえると、身体全部を体内に押し込みました。

 アードウルフちゃんは必死でもがきますが、苦しくなる一方です。

 それでも意識を失う寸前で助けを呼ぶことに成功しましたが、それはあまりに遅い叫びでした。


 それからしばらくして、巨大セルリアンはサーバルちゃんに倒されたものの、さばんなちほーのどこにもアードウルフちゃんの姿はありませんでした。


 

 それからさらに何日か後――。


 何日か寝てすっかり回復したコアリクイちゃんは、偶然見つけたとてもおいしい蟻の巣を、アードウルフちゃんのために守っています。

 特にドジで有名なサーバルちゃんに近づかれては、何をされるか分かったものではないので、念入りに威嚇します。


 けれど、いつまで経っても肝心のアードウルフちゃんが戻ってきません。


 内向的で出不精なコアリクイちゃんでしたが、意を決し、ついにへいげんちほーまでアードウルフちゃんに会いにいくことにしました。


「……ん?」

 ゲートを通る際、ジャパリまんを加えてその場をじっとしている動物を見かけます。

 コアリクイちゃんは妙に気になりましたが、今はアードウルフちゃんの方が大事と、その時は無視して先に進みました。


 コアリクイちゃん噂を頼りにまずカバちゃんの元へ向かいます。

 実際へいげんちほーのついて知りたければ、水場の主でお節介のカバちゃんが一番でした。

 けれど、かばちゃんからアードウルフちゃんについての情報は何も得られませんでした。

 この時点でコアリクイちゃんは一生分のストレスを背負った気分でしたが、


「あいつだって頑張ってるんだ……」


 そう思い、臆病な自分を励ましながらアードウルフちゃんを探します。


 けれど結局誰も知らず、ひょっとしたら入れ違いになったのではないかという一縷の望みにすがり、じゃんぐるちほーに戻ることにしました。

 そのとき、行きに会った動物がまた同じところに、同じ体勢でいました。

 しかも加えたジャパリまんも同じで、ほとんど腐っています。

 

 動物がジャパリまんを食べるのはそこまで珍しくありませんが、咥えたままずっと食べないのは明らかに不自然でした。

 まるでそれが自分の命よりも大事な物のように咥えているなんて――。


「・・・・・・!」


 コアリクイちゃんの頭はある絶望的な結論を導き出します。

 それは絶対に認めたくない事実でした。

 コアリクイちゃんはそれを確認するのではなく、否定するために再びカバちゃんの元へ行きます。


「な、なあ。以前ゲートにセルリアンがいなかったか?」

「あーいましたわー。サーバルとかばんと私で協力して倒したんですの」

「じゃ、じゃあそのセルリアンの犠牲になったフレンズは……」

「……分からないけど、いてもおかしくありま――」

 コアリクイちゃんは、カバちゃんが全て言い終わる前に走り出しました。

 そして、今は動物となってしまった初めてのお友達を、涙を流しながら抱きしめます。

「ご、ごべんよぉ! あ、あだじがあんなごど言わなげれば!!!」

 涙を流しながら謝るコアリクイちゃんを動物――アードウルフちゃんは、きょとんとした表情でただ見つめるだけでした………。


「……あたしがなんとかしなくちゃ。あたしの責任だ」

 ひとしきり泣いて涙も涸れた頃、コアリクイちゃんは決意しました。

 セルリアンに食べられたフレンズがどうなるか、コアリクイちゃんもよく知っています。

 記憶をなくして、以前のアードウルフちゃんとは違うことも、理解しています。

 それでもお友達として、何もしないわけにはいきませんでした。


 それからコアリクイちゃんの戦いが始まります。

 サンドスターはいつ振ってくるか分からないし、振る場所も分かりません。

 くわえてアードウルフちゃんは、今はもう腐り落ちてしまったジャパリまんがあったゲートから、決して動こうともしません。

 そのため、コアリクイちゃんは毎日アードウルフちゃんのために餌の蟻を持ってきて、ここにサンドスターが振ってきたときのための準備もします。

 

 顔見知りになったフレンズからは止めた方が良いと言われましたが、絶対に諦めませんでした。

 別の場所でサンドスターに当たってフレンズが誕生した話を聞いては心を痛め、目と鼻の先にサンドスターが落ちたときは絶望的な気持ちになりました。


 それでも諦めませんでした。

 

 アードウルフちゃんが動物に戻ってから1年以上経ったでしょうか。

 コアリクイちゃんの体力も気力も。とうに限界を超えているのにまだ諦めなかったため、ついにはサンドスターの方が値を上げました。


「あ、あ、あああ!!!」


 その日、コアリクイちゃんがいつものように空を見ながら餌の蟻を食べさせていると、火山から放出されたサンドスターが、ゲートに向かって一直線に飛んでいるのを見つけます。

 コアリクイちゃんはアードウルフちゃんを抱え、落下地点とおぼしき場所に向かって駆け出しました。

 アードウルフちゃんもこの頃になると、わずかな食料と不健康な生活で体力が落ち、抵抗もまともに出来ません。

 

 コアリクイちゃんは気力を振り絞り、渾身の威嚇のポーズをとって可能な限りアードウルフちゃんを高く掲げます。

 気力だけで立っているとは思えないほど、しっかりと空に向かって身体を大きく見せます。

 

 それでも、


「うわっ!」


 コアリクイちゃんは後ろに大きく倒れてしまいました。


「うう……」

 コアリクイちゃんは失敗したと思いました。

 しかし、自分の命とサンドスターが切れるまで続けるつもりで、アードウルフちゃんを探します。

 けれどはどこにもいませんでした。

 そのかわり……。


「ううう……ここは……」


「あ……あ……」


 あの時別れたままの姿のアードウルフちゃんがそこにいました。

 実はコアリクイちゃんが倒れたのは、アードウルフちゃんにサンドスターが当たった衝撃によるものだったのです。

 アードウルフちゃんは周囲をきょろきょろし、コアリクイちゃんを見つけると、


「あの、ここはどこですか?」


 いつもの困ったような表情で言いました。

「えっと私は……なんでしょう?」

「お前はアードウルフだぞ。ここはへいげんちほーのゲートだ」

「ゲート……」

 セルリアンに食べられたときの記憶が微かに残っているのか、アードウルフちゃんはその言葉を小声で繰り返します。


 けれどそれだけで、記憶は全く蘇りませんでした。


「うーん全然分かりません。ところで貴方はどなたですか?」

「あ、あたしは……」

 アードウルフちゃんに名前を聞かれたことに、コアリクイちゃんは少し傷つきましたが、がんばって笑顔を作って言いました。


「あたしはミナミコアリクイだ。そして――」


 笑顔は作れても溢れる涙は抑えることが出来ません。


「今日からお前の友達だ!」


                                  おしまい

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今日から友達 けものフレンズ大好き @zvonimir1968

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