第二章 第三話 恋するアイドル part3
ぴったりと止まっていたはずの空気が揺れ動き、そしてまた止まる。今日はとても騒がしい日だ。これも全部この佐久良涙という一人の姫のせいである。部屋に入って2秒も経たずに場を自分のものとし、周りのものを掻き乱していく。さらに驚くべきことに自覚がないのだ。そしてこのお姫様がまた場を乱そうとしていた。
「その、恋をしたというのは?」
仲上は恐る恐る尋ねる。無理もない。彼はこの現役アイドルの僕であり、ファンでもあるのだから。
「好きになったのは、その、テレビのディレクターさんなんですけど…」
「・・・うしっ」
仲上は呟き、小さくガッツポーズをした。
「仲上さん、なぜ喜んでいるのですか」
それに答えるように長谷川は言った。
「だって考えてみろよ!どこぞのイケメン俳優なんかよりずっといい!俺はこの子に幸せになって欲しいんだ!」
「この子って」
囁き口調ながらも、芯に訴えてくる。まるで我が娘を見るかのような発言だ。僕の次は父親か。
「あのー」
そしてまた姫が喋り出す。
「はい!」
父親が僕に戻る。
「その、あの人にどう喋りかけていいのか。わからなくて」
「うーん、でもテレビに関連しているのなら話す機会も多いのでは?」
「それは、そうなんですけど。なんか、いざ目の前に来ると、頭が真っ白になっちゃって」
姫は酷く取り乱す。二人は気付いていた。この人は本当に恋をしているのだと。それならば、我々は探偵として、依頼主の依頼に全力で向き合う義務がある。
「わかりました。引き受けさせて頂きます。詳しいことはまた後日。時間が取れるときに。」
仲上は気を遣った。ここまで情緒が乱れているのだから、落ち着いて話せるときに日を改めた方がいい。その言葉を聞き、佐久良は連絡先を書き示し、急ぎ足でその場を去った。仲上は1時間後にこの近くの商店街で生放送に出演するという予定を知っていたので、何も言わなかった。
「上手くいきますかねぇ」
「絶対に上手くいく!」
長谷川の不安を掻き消すかのように仲上は吠えた。
「それよりマモル。俺の頬っぺたまだ痛いんだけど。お前、どれくらいで殴った?」
「仲上さん、それ虫歯です」
続く
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