第十九章 前夜(20)
二十
祖父谷のへりくだり方は、気持ち悪かった。
「祖父谷、じゃあお前らは?」
「俺たちは、分不相応ながら、お前たちの優れたお車に乗り換えて、手前のインターチェンジまで戻って、一般道経由で、あらためて微力を尽くしに馳せ参じ候……という段取りだ」
「いや、祖父谷。それこそ俺たちが手前のインターまで戻ろうとしてたところだったんだ」
「中浜、お前たちは急がなければならんだろう。暗くなる前に、そして嵐がこれ以上ひどくなる前に内宮に着いて、ワーズたちを率いてグレート・ボンズを作るんだ。お前たちじゃなくちゃいけないんだ。劣った俺たちでは駄目なんだよ」
祖父谷が、今までとはうって変わって、悔しさに表情をゆがめて万三郎をけしかけた。
「祖父谷……」
「この車で戻れば、向かい風でも十五分以内に伊勢西インターチェンジだ。回り道して一般道で内宮に向かうよりはるかに速い。決断しろ、中浜!」
その時、向かいのピックアップトラックの杏児がライトをパッシングしてクラクションを三回鳴らした。
祖父谷が言う。
「ほら中浜。三浦も急げと言っている」
「……」
「俺たち役立たずはお呼びじゃないんだよ。お前たちヒーローがきちんと活躍しないと、地球がかわいそうだろう? あいつらを呼べよ、中浜。おい、レディース、雨風ひどいけど、向こうに移る準備できてるか?」
万三郎は思わず祖父谷を遮る。
「祖父谷! お前たちは、役立たずじゃない。俺、帰りの飛行機でお前たち三人のことを考えてた。お前たちスピアリアーズがいてくれたから、俺たちみどり組は発奮できた。負けたくないと思ったから、英語力を高めることができた。ニューヨークでの成功は、もとをただせばお前たちがいてくれたゆえの結果だと本当に思ったんだ。お前たちと競い合えたことに、叶うなら礼が言いたいと、機内で考えていた。地球の一大事が起こるより前に、こうして出会えたのが奇跡のようにありがたい」
万三郎はそう言うと、隣にいる奈留美に右手を差し出した。
「な、何です?」
当惑する奈留美のなよやかな手を取った。
「お嬢。よくこの土砂崩れの現場に駆けつけようと言ってくれたね。感謝を言い表す言葉が見つからない」
「そう言っていただくだけで光栄でございますわ」
「お礼に、これからひと仕事終えたら、ティートータラーでごちそうするよ。ハンバーグの食べ方、今度お嬢にちゃんと教えるから」
すると奈留美は握手していない方の手で口元を隠して笑った。
「ハンバーグはもうマスターしましてよ。それより先日、肉まんという得体の知れない食べ物が出ましたの。どこからナイフを入れてよいのやら」
「じゃあ、それを教えてあげる」
「そう。では頼みましたよ」
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