第十三章 選別(22)

二十二


 呆気に取られて見ているだけの万三郎と杏児をよそに、京子はついに解答ボタンを押した。


 ピン、ポーン。


「はい、スピアリアーズ!」


 京子の答えを聞くべく、一瞬、静寂が辺りを包む。


「……リ……【restraintリストレイント】……」


 激痛に耐えつつ、無理に目を開けて出題者の楠を見つめる京子はすでに、髪を振り乱した夜叉同然の風体と化している。その夜叉の視線の先で、楠は無情にもゆっくりと首を左右に振った。


 ブッブー!


「スピアリアーズ、不正解」


 ♪ なんてこったい、ホーリー・マッカラル!


 ピンポーン!


 万三郎はハッとした。不正解でも連続解答権があるのか。


 当たり前やん、当然あるわと言わんばかりに、京子は再びボタンを押したのだった。


「はい、スピアリアーズ!」


「……【restrictionリストリクション】」


 万三郎と杏児も息をのむ。京子は、すでに両方のつけまつ毛を失った目で、痛みに耐えるために大きくまばたきを繰り返しながら、必死で楠を見つめる。


 ブッブー!


「スピアリアーズ、不正解」


 ♪ なんてこったい、ホーリー・マッカラル!


 ピンポーン!


 三たびボタンを押した京子を見て、ユキが大きな声で嗚咽し始めた。


「……もう、もうやめてあげて……」


 しんと静まり返ったチンステに、ユキの嗚咽だけが響く。京子は、気力だけで解答台にしがみつき、震えながら口を開いた。


「コ……【controlコントロール】」


 言い終わると京子は力尽き、ゆっくり、しかし、しっかり目を閉じて、倒れている奈留美の横にへなへなと座り込んだ。目を閉じた京子の耳に音が聞こえた。


 ブッブー!


「スピアリアーズ、不正解」


♪ なんてこったい、ホーリー・マッカラル!


 ピンポーン!


「……!」


「……!」


「……!」


 万三郎と杏児、それに嗚咽を止めたユキだけではなく、誰もがその音に驚いた。


 京子の代わりにスピアリアーズの解答台に立ったのは、一糸まとわぬ姿の祖父谷義史その人であった。

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