第五章 仲間(13)


十三


 がっしりしたスポーツマン体格の祖父谷が立ち上がったので、たちまち緊張感が最高潮に達した。


「おい、店内で暴力沙汰はごめんだよ、外でやってくれ」


 マスターが再び怒った声で言う。


「マスター、こっちから手は出しませんよ。こいつらとは違います」


 祖父谷は不敵な笑みを浮かべ、マスターにそう答えると、悠然とユキの方へ向き直った。そして、京子と万三郎の頭越しに、カウンターのユキに声をかけてた。


「福沢さん、いや、ユキちゃん、君は野蛮な男たちとは違って、きっと優れている。特に容姿が優れているから、スピアリアーズにおいでよ、歓迎するよ」


「何言ってんだ、ヨッシー!」


 そう叫んだ万三郎を祖父谷はちらりと見たが、放っておいて、ユキの方へ一歩歩み出した。


 ユキは気が動転する。


「な、何? 来ないで」


 祖父谷が歩き出すのを見て、京子は万三郎の横をすり抜け、祖父谷を遮ろうとした。

「ちょっと、義史よしふみ、うちがあの子と話あんねん。邪魔せんといてくれへん?」


 その京子の腕を、万三郎は後ろからつかんだ。


「いや、君もダメだ。『みどり組うち』のユキに、何もするんじゃない」


「ちょっと、あんた、うちに触らんどってよ!」


 京子は万三郎の手を振り払いながら、その前を行こうとする祖父谷の肩をつかもうとした。だが、小柄な京子の腕は、一歩先行く祖父谷の肩に届かない。


 そこへ、盆にグラスを乗せてカウンターから回り込んできたマサヨが、ユキへ向かう祖父谷の進路をふさぐように立った。


「お客様、水をお持ちしました」


 立ち止まった祖父谷は、わずかに屈んで、マサヨの目の高さでニッコリと微笑みかける。


「ありがとう。僕の席に置いておいてください」


 そう言って、マサヨの両肩を優しく抱え、少し力を加えて、脇へ避けさせた。


 そのすぐ後ろで、京子が叫ぶ。


「ナイス、水。福沢! よくも、うちの自慢のまつ毛を侮辱したな。くらえ!」


 京子はマサヨの盆から水のグラスを取ると、ユキに向かって中の水をぶちまけようとするそぶりに入った。


 その京子を止めようと、後ろから瞬時に万三郎が一歩前へ踏み出した。


「ダメだ、ユキに手を出すなッ! あッ!」

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