第三章 由紀(13)

十三


 あ、それ、あ、それ、あ、それそれそれそれ……。


 もとより、本格的などじょう掬いの踊りなど見たことない。私は狂ったようにガニ股の足を、右、右、あ、左、左……と繰り出しながら、ざるに見立てたお盆を両手でしきりに掬い上げる仕草をした。


――うえ……気持ちわる……。


 激しく頭を振ったので、束ねていない髪が乱れ、私はおそらく夜叉のようになっているだろう。今、お店の扉が開いてお客さんが入店したら、すごいトラウマになるだろうなあ、お客さんが。……いや、私がか。


 そんなことを考えながら、たぶん私は足をもつらせてフロアに倒れ込んだのだろう。


「あっ、ユキ……さん、大丈夫ですか?」


 壁に寄りかかりながら崩れる私に駆け寄って私を介抱したのは、一番近くで見ていた中浜万三郎のようだ。


――一度くらいの失敗が、何だってのよ。


 誰にともなくそう反発している心の中で、私は、宇宙空間にぽっかり浮かぶ地球の姿をイメージしていた。


――そりゃあ、地球は一つしかないけどね。


 朦朧とした意識の中で、中浜が私の上体を抱いて、小さく呼びかけた。


「怪我はないですか?」


 私は頷きながら答えた。


「へも、吐ひほうはも……」


「なんてこったい、ホーリー・マッカラル……」


 中浜万三郎は、気の毒そうに意味不明の言葉を言うと、顔を覆って乱れに乱れた私の髪を優しく左右にかき分け、私の鼻に刺さった割り箸を、そっと取り外してくれた。


「あ……ありがとう」


 私はやっとのことで薄目を開けてお礼を言った。


「ああ、大丈夫みたいだね」


 マスターの声が中浜の後ろから聞こえる。


「マサヨたん、ユキちゃんに冷たいおしぼりを」


 すると、中浜と並んで私を覗き込んでいる三浦杏児が、独り言のようにつぶやいた。


「だからさっきから何回も、『マサヨたん、マサヨたん』て……おかしいでしょ」


 それを聞いた私は、残る力を振り絞って、三浦の頭を一発ひっぱたいた。


「最初にそう言えよ、バカ!」

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