第二章 杏児(7)
七
突然、プラットホームに立っている電柱のような柱の上についている拡声器が、「フアン、フアン、フアン……」とけたたましく鳴り始め、その隣の黄色いパトライトがクルクルと回り始めた。
大きな製鉄工場で巨大な鉄骨を吊るして移動させる時や、大きな船からガンクレーンでコンテナが荷揚げされる時を思わせる注意喚起の音だ。うるさくて心がざわつく。
そこへ、もう一つ、同じシステムで音が鳴り、パトライトが回り始めた。これは、百十七番線、中浜のホームの音だ。僕らの作業が今から始まる、ということが直感で分かった。
向こうの方からマネージャーの楠が大きな声で呼んでいる。
「おうい、島田、斗南、こっちへ戻って来い。業務命令だ」
斗南は「はい!」と答えておいてから、タブレットとインカム・マイクセットを僕に手渡し、僕の肩をポンと叩いて言った。
「いくらETだからって、最初からうまく行ったらオレの立つ瀬がないよ。まあ、あまりひどい事故にならんことを祈ってるよ」
そう言った斗南の顔にはまったく笑顔がない。むしろ、恨みがましい表情だ。お前の尻は俺が拭かなくちゃいかんのだ、と言っているようだった。
「はい、最善を尽くします」
それを聞くと斗南は、「ハッハ!」と言って僕に背中を向けて歩いて行った。
見ると、同じホームの反対側でも、中浜がタブレットを持ったまま、いくぶん緊張した面持ちでひとり、立ち呆けていた。この広々としたホームの真ん中辺りに、僕と中浜の二人だけが立っていた。
そこへ、ホームに平行しているレールの、くしの歯の付け根の方の自動扉が開いて、ボウリングの球が現れるように、シークウェンス・トレインがカタン、カタンと入線してきた。それはまさしく、一両一座席のジェットコースターの、二十両連結程度の列車そのものだった。むろん、まだ誰も乗っていない。全体的に、デザインが昭和風だった。車体も、ブリキ製なのかとても古めかしく、あちらこちらに大きなめくれ傷があり、ペンキも剥げていて、超レトロな感覚だ。
――こんなので、本当に大丈夫なのか……?
僕がそう思ったその時、コンピューターの声がホームに響いた。
“Lines 117 and 118, forming operations must be started.”
(百十七番線と百十八番線は、編成作業を始めてください)
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