ホラー探偵ギロギロ誕生秘話
こんぶ煮たらこ
ホラー探偵ギロギロ誕生秘話
「ライオンとの合戦もようやく一息ついた事だし暫く合戦はお休みにしよう。各自故郷に帰るなり存分に今までの疲れを癒やすと良い」
初めてライオンとの合戦で引き分けに持ち込んだ52回目の合戦の後のこと。
ヘラジカ様が私達を労ってお休みをくれたんだー。
まー休みと言っても特にやる事も無いんだけどねー…そうだ!センちゃんに会いに行こう!
センちゃんことオオセンザンコウは私とダブルスフィアという何でも屋を営んでいる唯一無二の親友。
センちゃんも私の事オルマーって呼んで慕ってくれてとっても仲が良いんだー!
もっとも最近は忙しくて別々に依頼をこなしたりしててあんまり会えてないんだけどね…。
「センちゃーん、いるー?」
「…オルマー!?あなた今までどこで何を…。と言うか窓から入ってこないでください」
「ごめんごめん。いやぁ〜実はかくかくしかじかでさー…」
私は今ヘラジカ様の依頼でへいげんちほーの合戦に参加しているという話をした。
そして予想以上にそれが長引いちゃって今ようやく帰ってこれたという事も…。
「…まったく久しぶりに顔を見せたかと思ったら…。それにあなた、その様子だとまだオーダー完遂していないじゃないですか」
「うっ…」
確かにヘラジカ様の依頼はライオンとの合戦で勝利する、というものだった。
でも現実は引き分けが精一杯…。
しかもそれが52回目でようやくなんだからそりゃセンちゃんも呆れるよねー…。
「…私達ダブルスフィアの掟、まさか忘れていませんよね…?」
「「オーダーは必ず完遂する事」」
「覚えているじゃないですか。じゃあ何で帰ってきたのですか?」
「はははー…相変わらずセンちゃんはキツいなー…。て言うか怒ってる?」
「…怒ってません」
うわーこれ絶対怒ってるよー。
だってもう怒りのマークが浮かんでるのが見えるもん…。
「確かにまだオーダーは完遂してないけどさー、そんなに怒らなくても…ってあっ、もしかして私の事心配だったとか?」
「!?べ、別にそんな事はありません…」
「あれー?顔が赤いぞー?」
「な、なでないでください!もうっ」
そっか。
心配してくれてたんだね。
顔を赤くしたセンちゃんを弄りながら私は帰ってきて良かったと思った。
「…さて、帰ってきて早速ですが今日は依頼が来ています」
「おー相変わらず繁盛してるねー」
「?何他人事のように言っているんですか。オルマーも早く準備して下さい」
「えっ?私休暇中なんだけど…」
「オーダー一つまともに完遂出来ないような者に休暇なんてありません。行きますよ」
「えぇー!?…しょーがない、じゃあいっちょやろーかー!」
「「ダブルスフィア出動!!」」
「まずは依頼主に会いましょう。待ち合わせ場所はこのろっじです」
「依頼内容にはネタ出し?って書いてあったけどネタ出しって何の事だろうね?」
「さぁ…?とにかく中に入ってみましょう」
「いらっしゃいませ〜。ロッジアリツカにようこそ」
「おぉー!すごいねー!これがろっじ…」
私達を温かく出迎えてくれたのはこのロッジのオーナーのアリツカゲラさん。
外観はちょっと寂れてて怪しい雰囲気だったけど中はまだまだ綺麗でいかにこの人が日頃から手入れを欠かしていないかよく分かった。
「今日はお泊まりでよろしいですか?」
「いえ、今日はここで待ち合わせを…」
「わっ!」
「「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!??」」
突然後ろからの声に驚き私達は思わず二人して尻もちをついてしまった。
「いい顔頂き」
「もぉ〜オオカミさんたらまた〜」
「オ、オオカミ…?という事はもしかしてあなたが依頼主ですか?」
「そう、 私が依頼主のタイリクオオカミ。今日はよろしくね」
そう言うと謝りながら私達に手を差し伸べてくれた。
この方が今回の依頼主…。
―――そう、この出会いがまさかあんな事件を生むなんて…この時の私達はまだ知る由もなかった…。
「…ってちょっと!?何勝手に不穏なモノローグ入れてんのさー!?」
「あはは。ごめんごめん。つい癖で…」
「く、癖?」
「で、今回の依頼の件ですが…」
「あぁ、実は私作家をやっているんだけど最近どうもスランプでね…」
「さっか…って何?」
「作家っていうのは簡単に言うとこうやって絵を描いてそこに物語をつけたものを世に送り出す仕事の事かな」
「あっ!?これって…」
そこにはさっき驚いた時の私とセンちゃんの姿が描かれていた。
コミカルだけどそれでいて一目で私達だと分かる繊細なタッチ、そして何よりこれを一瞬で描き上げちゃうスピード…このタイリクオオカミさん、実は結構凄い方なんじゃ…。
「す、凄い…。いつの間に…」
「と、まぁこんな感じで絵は描けるんだけど肝心のストーリーが思いつかなくてね。そろそろ新作も作りたいし…」
「なるほど…。ネタ出しというのはそういう事だったんですね」
「そうそう。どうかな?」
センちゃんも悩んでいた。
確かに今までの依頼は精々人探しだとかセルリアン退治だとかそんなものだったけど今回はちょっと違う。
勿論漫画のネタ出しなんて私達はやった事が無い。
まぁでもセンちゃんなら…。
「…いいでしょう。そのオーダー引き受けます」
「本当に!?ありがとう」
「でもさー、ネタ出しって言ってもさー、具体的に何をすればいいの?」
「そうだね。とりあえず次はホラーとミステリー要素を入れたものを描こうかなって思ってるんだけど」
「ホラーですか…」
「二人とも怖いものってある?」
「私は「怒った時のセンちゃん!」
「ちょっ、オルマー。ふざけないで下さい」
「えーふざけてないよー?だってこの前だって私が帰ってきた時物凄く怒ってたじゃん」
「あれはオルマーが…それに人前でその名前はやめろとあれほど…」
「えー?センちゃんはセンちゃんじゃん!」
「いいノロケ頂きました」
「タイリクオオカミさんもからかわないで下さい…もう」
「…さて、気を取り直して現実的に考えれば我々の生活を脅かすセルリアンはやはり何よりの恐怖の対象ではないでしょうか」
「うん、そうだね…じゃあとりあえず敵はセルリアンで…」
「あとボスがもしジャパリまんをくれなくなったりしたらヤバいよねー」
「オルマー…それはホラーでは無いのでは?」
あ、ついついお腹が減って関係無い事言っちゃったかな…?
「う〜ん…でもこう考えてみるのはどうだろう?ボスがジャパリまんを供給しなくなったのは実はセルリアン側に寝返ったから、と」
「なるほど…確かにそれは面白い発想ですね。そこにミステリー要素を加えるとするならば、ボスが寝返ったのにも何か理由がある…といったところでしょうか」
「うん、良いアイデア頂き。となると…」
あれ?おーい…。
あー…何かタイリクオオカミさんとセンちゃんが完全に自分達の世界に入っちゃったよー。
「何か白熱してますね」
「あっ、アリツカゲラさん。…ん?そ、それってもしかして…!?」
ジャパリまんラムネ味!?
まさか私の大好物とこんな所で出会えるとは…ロッジからジャパリまんとはまさにこの事!
「いただきまーす!…ってあれ?アリツカゲラさん、どうかしたんですか?」
「…う〜ん…何か外の方から妙な匂いが…」
「妙…?まさかセルリアン!?」
せっかくの大好物を前にしてお預けとは…。
まったく近頃のセルリアンは空気も読めないんだね!
センちゃん!…はあぁー駄目だ盛り上がっててそれどころじゃない。
となると…仕方ない私が一人で行くしかないか。
「私ちょっと様子を見てきます。アリツカゲラさんはここにいて下さい」
「えぇ!?でも一人じゃ…」
「大丈夫です!あ、あとこの事はくれぐれも二人には内緒に…」
私の事などお構いなしに白熱する二人を尻目に私はロッジを飛び出した。
「もぉー!セルリアンめー私の食事を邪魔するなんて…」
先程の光景が目に浮かぶ。
私そっちのけで仲良く話す二人の姿。
なーんかセンちゃんを独り占めされたようでちょっともやもや。
ふーんだ!私だってセルリアンを倒して二人に良い所見せてやる。
シングルスフィアでも頑張っちゃうよー!
「見つけた!って多っ!?」
数はいち、にー…じゅう…いやそれ以上!?
幸い小型ばっかりだから数に捉われさえしなければ何とかなるかもしれないけど…これは正直便利屋よりハンター向けの案件じゃないかなー…あはは。
でもやるしかない。
私だって伊達にヘラジカ様に仕えてないんだから!
「やっちゃうですよー!おー!」
…って一人で威勢良く勝負に出たもののやっぱり数が多すぎるよー!
「やばっ囲まれた!?」
一瞬の隙をついてセルリアンが私の背後に回り込む。
よよよよ…正直これはちょっと厳しいねー…。
こんな事なら格好つけないで素直に…
ザシュ!!
「今素直に私に頼れば良かったって思いましたか?」
「センちゃん!?」
「遅れてごめんね。もう大丈夫だよ」
「それにタイリクオオカミさんも!?」
「…よくもオルマーをこんなにしてくれましたね…」ギロッ
「(おぉっ!良い表情頂き…)じゃなくて…さぁ、こちらも全力で行くよ!」
「語る言葉はありません。オオセンザンコウは、行動でもって証明します…!」
それからは私の出る幕も無く二人はあっという間に残りのセルリアンを撃退してしまった。
「助かったよーありがとうセ…ンちゃん?」
「…オ、ル、マ~?」ギロギロッ
あ、あれー?おかしいなーさっきのセルリアンに向けられた眼光がそのまま私にも向けられてる気がするんだけど…
はっまさか私の後ろにまだセルリアンが!?
「…そんな訳ないでしょう。まったく…どうしてあなたはそうやっていつも何も言わずに私の前からいなくなるんですか?」
「い、いや〜センちゃん達お話作りに夢中だったから声掛けるのもあれかなーって思って…」
「はぁ…」
センちゃんは呆れたと言わんばかりに大きなため息をついた。
「いいですか?よく聞きなさいオルマー。私達はコンビです。コンビなら助け合うのが当然ではないですか?」
「い、いやほら私あんまり頭使うの得意じゃないしさー。あ、あれだよあれ!てきざいてきしょ?ってやつ!」
「何を言っているんですか。あなた防御ばかりで攻撃はからっきしじゃないですか」
「なっ…!?ひどいよーセンちゃん!自分は攻守揃ってるからっていくら何でもそんな言い方…」
「最後まで聞きなさい。話はまだ終わってません。確かに私はそれなりに攻撃も防御もこなせますがオルマー程の防御力はありません。私はあなたという盾がいるからこそ安心して戦えるんです。あなたの言う適材適所とはつまりこういう事ではないですか?」
うぅ…ぐうの音も出ない…。
そう、センちゃんはいつだってクール
頭も良いし戦いだって出来るし一人で何でもこなしちゃう
さっきも言ったけど私はそんなに頭も良くないし防御くらいしか取り柄が無いかもしれない
でもそんな私をセンちゃんは必要としてくれてる
それはただ単に私がコンビだからとかじゃなくて、私の良い所も悪い所も全部受け入れてくれた上での彼女の素直な気持ちだと私は思う
へへへ…やっぱりセンちゃんには敵わないなぁ
「ありがとね、センちゃん」
「ど、どうしたんですか急に…。ちょっ!?なでないでくださいっ」
「(うんうん、最高に良い表情頂きました)」
後日
「オルマー。タイリクオオカミさんから新作の漫画が届きましたよ」
「おぉー!無事完成したんだねー!どれどれ、えーっとタイトルは…」
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