7 てのひら合わせ

 同じ年、同じ月、同じ日。私たちはまったく別の両親から産まれた。つまり双子でも姉妹でもなく、赤の他人で、親友である。


「名前まで似ているなんてホントスゴいよね」


「私がアキでアキちゃんがアキナ」


 知り合ったのは高校からだけど、私たちはすぐに仲良くなっていつでも一緒。

 ファッション雑誌を一緒に見て、同じメイクして、色違いのステイショナリーを持ち歩く。

 少し不満なことがあっても口には出さない。だってそんな些細なことすぐ忘れちゃう。

 男子となんて手を繋がないけどアキちゃんとはいつでも繋いでいる。そんな時、時々アキちゃんの気持ちが分かる気がする。


「だって私たちは親友だよ!」


 アキちゃんは満面の笑みで言う。アキちゃんと会えてよかった。


 ある日。アキちゃんと私はケンカした。いつもの些細なことだったけど、些細なことがつもりに積もって大きくなっていた。爆発したのは私で、アキちゃんは悲しげな顔をしたけど二人して引けに引けなくて、それでも離れ切れなくて適度な距離を取りつつ歩いていた。

 そこに車が突っ込んできて、私は咄嗟に、本当に身体が勝手に、アキちゃんを突き飛ばしていた。

 アキちゃんは車の真ん前に、私は反動でブロック塀に背中を打ち付けた。

 車の急ブレーキの音と、タイヤの焦げる臭い。鈍い音と、悲鳴と、血の臭い。


 私はアキちゃんが、些細なことだけでなく、何処かで耐え難く嫌いだったのだ。


 運転手が車から飛び出て青ざめている。轢かれたアキちゃんはまだ息をしていたが身体が変な方向に曲がって、頭は強く打ち付けて止めどなく血と、頭の中身が少し流れている。


「ア…キちゃん?」


「…ア…キ」


 アキちゃんが私を呼ぶ。事の重大さにやっと気付いた私はアキちゃんの傍に寄る。伸ばされた手を握るとアキちゃんも弱々しく握り返してくれた。


「ごめんね…ごめんねアキちゃんっ!」


「……」


 涙が溢れて、なんで突き飛ばしてしまったんだろうと後悔した。アキちゃんは、死ぬだろう。握り返された掌の力が抜けていく。


「アキちゃん! ダメだよ! 死んじゃだめ…ごめん…ごめん


 今にも息絶えそうなアキちゃんに必死に声をかける。それなのにだんだん意識が遠退いていく。目もぼんやりして、涙のせいかと思ったけど、顔を伝うのは涙ではなくて、血だった。


「ごめんね、アキ。私もあなたが嫌いだったよ。だから代わりに死んで」


 掌は既に離され、涙を拭いながら冷たい眼差しのアキちゃんを映しながら、私の意識は薄闇の彼方へきえた。



 

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