第2話
昨日と同じように、帰宅の時間は0時を超えていた。
しわしわのスーツ、浮腫んだふくらはぎ、疲れ切ってクマがひどい顔、毎日こんな状態で家に着く。
今の会社は23歳の時に派遣で入り25歳で正社員として正規雇用された。
昔は多少の無理もできたけど30歳になった今では体がついていかない。
栄養ドリンクと珈琲で誤魔化して仕事をしている。
仕事漬けの日々。家と会社との往復、土日は家に引きこもりで出会いなんか無いから、結婚どろこか彼氏を作るという選択肢もない。
そもそも人との付き合いが苦手だ。
スマホを取り出してメールの受信をチェックしたが広告ばかりで友人からの連絡なんでない。
それが普通になってきて寂しいとか孤独だとは思わないけど、なんとなく心が乾いているような気がする。
「私の人生ってなんだろ」
小さくため息をついた。メイク落としシートで顔を拭き、上着を脱いでそのまま布団に潜り込んだ。お風呂につかる時間も体力も無い。朝起きたら目覚ましにシャワーを浴びればいいや。
明日は土曜日、好きなだけ寝ていよう。
私は、目を閉じた。
―ここは夢の中だろうか。
何も無い。
時間も色も高さも距離も何も無い所に私は立っていた。
真っ暗闇の中。誰かが私を呼んでいる。
「見つけた!」
誰?
突然大きな手が私の肩に触れ、後ろから抱きしめられた。
ヒヤリと冷たい手。
「私あなたなんか知らない」
逃げようとしても抱きしめる力が強くて逃げられない。
得体のしれない男に耳元でささやかれる。それは低くて優しい声。
「思い出して・・・・・ミ・・・ア・・・」
最後の言葉は闇にかき消された。
「はぁ…」
私は目を覚ました。触れられた肩に違和感を感じる。
なんなの?あんな変な夢を見ているなんて相当疲れているのね。
スマホの時計を見ると朝の4時、平日でもこんなに朝早く起きない。
土曜日に早く起きても何か予定があるわけでもする事も無いので、普段だったら二度寝をする所だけど、今日はなんとなく寝たくない。
昨日の夜お風呂に入っていなくて髪の毛がベトベトだからシャワーでも浴びようかな。あ、バスタオルは外に干しっぱなしだった。
重い体をベットから降ろしベランダに向かうと、外から猫の声が聞こえてきた。
迷い猫かな?
カララ…
「ミャー」
ドアを開けると、真っ黒で鍵尻尾が特徴の猫がいて私の足にすり寄ってきた。
毛並みも良いし程よい肉付きだし野良猫ではないと思う。ご近所さんの飼い猫かな?とても人懐っこくて…可愛い。
私の足に必死で頭を擦り付け、ミャーミャー何かを訴えてくる。
お腹がすいているのかな?冷蔵庫に何か入ってたっけ?
「ちょっと待っててね、今何か持ってくるから」
キッチンに向かおうと振り返った時、黒猫がスルリと私の足元を抜けて部屋に入ってきた。
「ちょっ…」
黒猫は私に構うことなく、ベットの上に上がるとそこで自分の顔を手で拭い大きなあくびをして丸くなった。近づいてみると幸せそうな顔をしながら寝息をたてていた。
この小さな来客が来た事で、私のつまらない人生が大きく変わるのであった。
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