恋愛小説
湖村史生
第1話 横顔~わたしの知らない桜
出会いは高校の入学式
訪れた者を圧巻するほどの桜並木が出迎えてくれる事で有名な高校に入学したその日。
私は満開の桜を黙って見上げている彼の横顔と出会った。
何故かその横顔に惹かれて視線を反らせずにいると、突風が吹き荒れ、満開の桜の花びらが舞い散った。
「わあ…」
思わず美しさに声を上げると、桜の木を見上げていた彼と目が合う。
その瞬間、私は恋に堕ちた。
偶然が重なり、いつしか私と彼…望月悠馬は仲良くなった。
友達以上恋人未満
私はこの関係が崩れるのが怖くて、結局何も出来ずに居た。
卒業式当日
勇気を出してボタンをもらいに行くと、既に悠馬の制服のボタンは全て無くなっていた。
落ち込んでいる私に、悠馬はポケットからボタンを取り出すと
「これ…」
って、照れ臭そうに手渡してくれた。
卒業して間もなくは連絡を取り合っていたが、月日と共に段々と少なくなり、いつしか連絡は途絶えてしまう。
それでも私達は大丈夫だと、悠馬からの連絡を待ち続けた。
そして6年が経過した。
そんな時、同窓会のお知らせが届く。
校門を潜ると、満開の桜並木の中に、入学式に出会った時と同じように悠馬が桜の木を見上げて立っている。
まるで、タイムスリップしたようだった。
でもその横顔は、あの日に出会った幼さの残る少年の横顔では無く、大人びた青年の横顔だった。
私が動けずにいると、出会った日と同じように強風が桜並木を揺らして満開の桜吹雪が舞い散る。
「わぁ~」
あまりの美しさに声を上げた私を、驚いたような顔で悠馬が振り向く。
「久し振り」
照れ臭そうに悠馬が微笑む。
「こうしてると…入学式を思い出すな」
隣に並んだ私に悠馬が呟く。
「俺さ…あの時、雪季に運命を感じたんだ…」
ポツリと言われて、驚いて悠馬の顔を見上げた。
「私も…」
必死に絞り出した声に、悠馬が驚いた顔で私の顔を見て
「もし、…どちらかがお互いの気持ちを言葉にしてたら、
俺達の運命は変わってたのかもな…」
と呟いた。
その言葉に、既に私達の赤い糸は切れてしまっていたんだと分かった。
悠馬はゆっくりと
「俺さ、来月結婚するんだ。
大学の後輩で、笑顔が雪季に似てるんだ。
雪季と会って、気持ちを知る事が出来て良かったよ」
私を懐かしむように見つめて呟いた。
そして再び桜を見上げた悠馬の横顔を、私はただ微笑んで見つめる事しか出来なかった…。
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