第21話真実の告白
7-21
二十年以上前。。。。
勝巳は積極的に成って、旅行の営業マンだから話しは上手だ。
兄武雄に有利な弘子の農協への就職、それまでに何とか付き合いを始めなければ駄目だ。
勝巳には弘子があの様に綺麗な女性に育っていた事が驚きだった。
用事も無いのに電話をしてきた。
父直樹と母俊子は知っていたから「勝巳さんが弘子を気に入ったみたいですね」
「そうか、良かったな」
二人は婿養子の確保が出来そうだと喜ぶのだった。
翌年に成って俊子が「お父さん、最近休みに成ったら土手に車が長時間止まっているのよ」
「休みの度にか?家から離れすぎだろう?」
「そうですけれど、田畑ですから、見えるのは見えますよ」
「確かに、見えるけれど、双眼鏡が必要だよ」
「今度一度見て下さいよ、弘子が写真を撮影された事と関係が有るのでは?」
「もう二ヶ月前だろう?」
「私達は気が付かなかっただけで、以前から私達の家を見ていたのかも?」
「そうだなあ、今度の休みには注意して見てみよう」
「弘子のその後は何も無い様ですがね、心配で」
「そうだよ、若しもの事が有れば婿養子の事も流れてしまうかも知れない」
二人は弘子の廻りに変な男が居ると感じていたのだ。
。。。。。。。。。
現在。。。。
自宅でお風呂をあがって、部屋のクーラーの下で涼みながら、ビールを飲む正造。
陽子の寝顔を見て、遠い昔を思い出していた。
弘子に痴漢にされてしまって、最後まで一度も話しもしなかった弘子の娘が、目の前に眠っている。
それも下着姿で、信じられない光景だった。
陽子は小さなバックと少し大きな布袋を持っていた。
若しかしてこの中は着替え?
あの様な手紙を書くのだから、当然着替えを持参しているのだろうと思うのだった。
寝返りで布団からはみ出す身体「正ちゃん、私の事好きに成れないの?」また大きな声で寝言を言う。
正造には陽子が自分の考えが感じ取られていると思う寝言だった。
陽子さんはまだ若い、こんなお爺さんと仲良く成っても幸せには成れないよ、と思う。
確かに陽子と居たら楽しい、でも自分の年齢を考えるとどうしても、これ以上前には進めない。
今から二十年後を考えると恐い正造だった。
陽子は今夜此処に泊まる事は始めから決めていたのだ。
正造に抱かれても良いと考えて来て居たと理解していた。
それが判っても何も出来ない正造だった。
朝に成って陽子が目覚めた時、食卓のテーブルには味噌汁と干物の焼き魚、海苔、卵焼きが並んで居たのだ。
陽子は自分の身体に異常を感じなかったから、昨夜は何も無かったと思った。
でも下着姿「正ちゃん、おはよう、シャワー使っても良いかな?」
「枕元にバスタオルとか置いてあるから使いなさい」
見ると新品のバスタオルとか、歯ブラシが置いてある。
バスタオルを巻いて、正造の前に「昨夜はすみません」と会釈をした。
「良いのですよ、酔っ払ったからね、早くお風呂に入って、お湯も入っているから」
「ほんとう?」
着替えの袋を持って浴室に行く陽子。
「大きいね、風呂場」
「お風呂好きだから、特別製ですよ」
洗い場も湯船も大きく、二人の大人が充分入れるのだ。
陽子は正造がまだ母を忘れられないのだな、と湯船で考えていた。
髪を洗って、洗面台の処には新品のバスローブも置いてあった。
「味噌汁冷めるから、バスローブを着て先に食事をしなさい」
料理は母の春子が持って来たのだ。
春子は朝、正造が先日の女の子が酔っ払ったので、泊めてあげたのと言われて、これは本物だよ、朝ご飯作るよと春子が張り切ったのだ。
正造は逆転満塁ホームランを打ったよと良造に話していた。
二十年前に振られた女性の娘と交際する我が子に驚きと称賛だった。
それも可愛くて、綺麗、そんなに遊んで居る娘にはとても見えなかったから、昨夜二人は結ばれた。
これで結婚間近、春子は天にも昇る気分で料理を作って持って来たのだ。
若いから子供も充分産まれる。
田宮の家は新宅にと思っていた矢先の出来事に気分は満天だった。
「美味しい、正ちゃんが作ったの?」
「まさか、母ですよ」
「えー、私が泊まった事お母様知っているの?」
「はい、何故か喜んでいましたよ」
「わー、誤解されましたね」
バスローブに頭にはタオルを巻いて、今この場所に来たら完全に決められるな、そう考える陽子。
その時本当に春子がやって来た。
「おはよう、起きたの?桜井さん?」
仕方が無いので「おはようございます、泊めて頂いて、食事まで頂いて居ます、ありがとうございます」
陽子の姿を見て春子が「良いのよ、朝から、お風呂に?」
「はい、汗をかきましたから」
春子は嬉しそうな顔をして「そうなの?ゆっくりしてから帰ってね」そう言って春子は帰っていった。
自宅に戻ると「お父さん、あの二人はもう、もう結婚ですよ」
「どうしたのだ、慌てて」
「朝から、汗をかいたらしくて、お風呂に入っていました」
「おお、そうなのか、正造も中々じゃないか」
誤解をして喜ぶ両親だった。
「少し待って下さい、暦を見ます」
「昨日は先勝で今日は友引ですよ、内孫の誕生も早いですよ」
「おいおい、お母さん、少し早くはないか?」
「いいえ、正造はもう四十五歳ですよ、遅いですよ」
「じゃあ、秋には結婚式だな」
「そうですよ、お腹が大きく成ったら恥ずかしいでしょう」
二人の勝手な話しがドンドン進むのだった。
「お母さん、誤解しましたね」
「そうかも知れないな、陽子さんの自宅じゃないから、噂は聞こえませんよ」
「聞こえても良いですけど」と意味有りな発言だ。
食事を終わって髪を乾かし始めると「してあげよう」と言って正造が手伝う。
優しいのよね、最高よ!正ちゃん、素敵だわ、殆ど裸で寝ていたのに触らないのは、嫌いでは無いのだ。
紳士なのだ。
その様に理解すると、陽子は益々正造が好きに成って行った。
「キスはしても良い?」
陽子は髪が乾くと正造に抱きついて、キスをするのだった。
長い時間離れない、喜びを噛みしめていた。
正造がこれはいけない、これはいけない、陽子が戻れなくなる!勿論自分も戻れない。
徐々に好きに成って行く自分が恐かったのだ。
突然陽子が「何故?お母さんと上手く、交際出来なかったの?」
「。。。。」
「お母さんがお父さんと恋愛していたから?」
「判らない」
正造ははっきり言おう、それで陽子は自分の事を離れて行くだろうそう思った。
「実はね、お母さんの恋愛は知らないのですよ、私が知っているのは、お母さんが短大時代だけですから」
「それは、聞いたわ」
「陽子さんの村は桜井って名前多いでしょう」
「はい、七割が桜井ですね」
「昔ね、お母さんにラブレターをお母さんの好きな俳優のコンサートのチケットと一緒に送ったのですよ」
「やるー、素敵!でもお母さんは断った」
「違うのです、同じ村に当時桜井弘子さんが二人居たのですよ」
「えー、間違えて届いた」
「そう、七十代のお婆さんの処に届いたのです」
「何?それ」
「そうなのです、私はそれを知らないから、断られたと思ったのです」
「成る程、愛の告白が届かなかったのか」
「そうなのです、それでも、諦められなかったのです」
「それで二十年以上独身?」
「はい、」
「でも顔も見ないで、話しもしてないで、よく思い続けましたね」感心する陽子。
「正直、こんなに長い間覚えているとは思いませんでした」
「それで、私を見て驚いて追いかけて来たのね」
「はい、昔が蘇ったのです」
「凄いわ、不思議だったの、こんなに優しくて素敵な正ちゃんを何故?母が振ったのか?と不思議だったの」
「恥ずかしい話しです」
「昔は、携帯もメールも無かっただろうし、電話も無い家も多かったでしょう、私の家も田舎だから
、多分電話が遅かったと思うわ」
「意志の疎通は手紙か言葉だからね、それが間違えて届いたら、送った本人は誤解するよね」
「はい、嫌われていると思いました」
陽子は年齢差を超えて、正造がこの二十年以上悩んだのだと感じていた。
失われた二十年なのだ!伝わらない悲しさ、そう思うと涙が一筋頬を伝った。
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