アイソン彗星の話...vol.2-1
その夜、天文ファンを沸かせた巨大彗星の地球接近は、彗星の崩壊という予想外の結末で幕を閉じた。
星の死に立ち会う機会は、決して多くない。
僕らの寿命は、あまりに短い。
近場で言えば、太陽の寿命はあと50億年程度と言われている。
オリオン座のベテルギウスは、近いうちに爆発し死を迎えると言われているが、数万年後までは「近いうち」に入るらしいので、僕がそれを目にする可能性はあまり高くない。
その夜、
その生涯に一度きりとなるであろう夜。
僕は、家出したという二人の少年を捜し回りながら、そんなことを考えていた。
二人の家出少年は、かわたれどきの草むらの中、並んで眠り込んでいた。
「真野、鹿立、起きろ」
名前を呼んで、肩を揺すってみた。
「ほら、朝……には少し早いけど、まあ、だいたい朝だ」
二人の少年は、悪びれた様子もなく、驚いた様子さえなく、揃って「先生、おはよう」と言いやがった。
「先生、彗星は?」
真野が、眠そうに目を擦りながら、問う。それで、僕は彼らが、明け方の空に彗星を待っていたのだと気付いた。
「砕けたってさ。太陽に近づきすぎたんだな」
「そう」
真野は、東の空を真っ直ぐに見ていた。
「すごいね。太陽の裏側の出来事まで、すぐに分かるんだ」
「そうだな」
僕は頷く。
「変なの」
鹿立が言う。
「まったくだ」
僕もそう思う。
「星も死ぬんだなあ」
「そう簡単には死なないよ。太陽なんか、あと50億年くらいは、死なない」
「遠いよ、それ」
そうこうしているうちに、空と地上の境目が明るくなり、少しずつ、少しずつ夜が終わっていった。
彗星の亡骸はどこへ行ったのかと、僕はしばらく考えていた。きっとそのほとんどは、太陽の重力に捕われて、燃え尽きたのだろう。
すっかり陽が昇ると、僕は2人を車に乗せて24時間営業のファミレスに行き、目玉焼きとトーストを3人で食べた。
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