第7話 ゴブリン退治の受注

「がっ!」



大柄な男は他の冒険者達がいたテーブルや椅子を巻き込みながら俺を押し飛ばした時の倍以上の距離を吹き飛んだ。



「こんなもんか?」



テーブルやその上にあった酒や料理が散乱して出来た道を、真っ直ぐに歩いて倒れている男へと近づく。



「くそっ、一体何が…」



「大丈夫っすか!?」



大柄な男が起き上がると、呆然としていた痩せた男が正気に戻り男へ近づく。

痩せた男は大柄な男の安否を確認するとこちらをキッと睨みつけてきた。



「お前、ザッコさんに一体なにしやがった!」



「何をしたって殴られただけだが?」



「殴った方が吹っ飛ぶ訳ないだろが!」



「ハッ、目の前で吹き飛んだんだから現実見ろよ馬鹿が」



煽る様に鼻で軽く笑いながらそう言うと痩せた男は顔を真っ赤にした。




「そんなに言うって事は覚悟出来てんだろうな?」



「覚悟?なんのだ?」



「決闘に決まってんだろ、勝負しやがれ!」



二人は怒りでこちらを睨みつけながら勝負を挑んできた。

こんなの答えは決まっているだろう。


「こちらに良い事が一切ない決闘なんか受けるとでも思ってんのか?」



「なっ、ふざけんな!」



「おいおい、そっちが挑んで来てるんだろ?なら俺には拒否する権利はあるだろが」



「てめぇ、逃げる気か!」



「負け犬の遠吠えは聞かない主義なんでな」



所々で冒険者達の笑いを堪えている声が聞こえる。

顔が真っ赤なザッコと言われた男が背後で叫んでいるが軽くあしらい俺は受付へと戻って行く。


レリアはザッコ達の方を見て呆然としていたが俺が近づくとハッと正気に戻ったので何事も無かったかの様にもう一度話しかける。



「ゴブリンのクエストを受けたいんだが?」



「一体何を…」



「そんな事はいいだろ、早く受注させてくれ」



「…どうやったかは分からないですが銀ランクである彼を退けた貴方なら別にいいでしょう」



そう言ってレリアは壁に貼ってある紙の一枚を取るとこちらに差し出してきた。

見てみるとこちらの世界の言葉で読めなかったのでシュースに見せる。



「読めるか?」



「読めますよ。えーと、クエスト名はゴブリン退治、内容はゴブリン20体の討伐ですね、報酬は3銀貨ってあります」



「ふむ、じゃあこれを」



「了解しました、ではクエスト期限は2日なのでご注意下さい」



「ゴブリンはどの辺りで出るんだ?」



「この街から出てすぐのベアードの森によく出没します」



「なら早速行ってくる、じゃあな」



俺達が冒険者ギルドから出ようとすると先程の二人組が道を阻んでくる。



「邪魔なんだよ、どけ」



「どいて欲しいなら俺達と戦いやがれ」



「今から用事があるんでな」



「そんなもん知るかよ」



「はぁ…」



異世界の人間の自分勝手さに思わずため息を吐く。

とにかく、こういう奴は大抵後から要らないことをしてくる奴だから今の内にさっさと沈めとくか…


手の届く範囲まで近づく。そして手をザッコの装備している鎧に触れる。鎧だけを対象して…よし。



「消えろ」



俺がその言葉を口にした瞬間、ザッコの肉体を覆っていた鎧はまるで存在していなかったかの様に消滅した。


「何言って…は?」



突然、鎧が無くなった事に気付いたザッコは間抜けな顔をして身軽になった自身の身体を見つめた。

痩せた男も何が起こったのか理解が出来ずにただこちらを呆然としてみていた。


俺はその横を通り過ぎてドアを開く。

そして外へ出る前に二人へ一言告げる。



「次、余計な事をしたらどうなっても知らんぞ」



外へ出て歩き始めてすぐに、後ろで正気に戻った二人の叫び声が聞こえた。



「「エンチャントアーマーがぁぁ!?」」



ーーーーー



「あ、ベアードの森はここですね」



「おぉ、外見は大体予想通りの森だな」



ベアードの森の場所はシュースが大体覚えていると言っていたので案内して貰った結果、迷う事もなく森へ辿り着く事が出来た。

よく考えたらシュースがこの世界に来て初めて金以外で役にたったな。



「なんですか、そのあまり使えないメイドを見る目は」



「微妙な表現の仕方すんな」



「なっ、ドジっ子メイド良くないですか!」



「お前メイド好きかよ!?」



「だっていいじゃないですメイド!あ、執事でも行けますよ?」



こいつの事を知る度にどういう奴なのかよく分からなくなってくる…

まぁ、こんな事してたらいつまで経っても森へ入れなさそうだしスルーしとくか。



「さて、入るか」



「えっ、ちょっ!スルーですかぁ!?」



見事なスルーをした俺が森へ脚を踏み入れたのを見てシュースは慌てる様に俺について来た。



そして俺達のゴブリン退治は始まった。

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