第6話 冒険者になりました

冒険者ギルドは木と煉瓦で出来た建物で、なんだか古そうな気配を漂わせていた。


「おーこれがギルドか、古そうだな」



「1000年程前に作られた組織ですからね、古い建物も多いんでしょう」



「取り敢えず入ってみるか」



木製の扉を押すとギィと軋む音をたてながら扉は開いた。

中では武器を装備した男や女、他の種族などの様々な人種が集まっており、酒を飲んだり雑談をしていたりしていたりととても騒がしかった。


俺達が中に入ると数人の冒険者が横目で見てきたがあまり興味は無かったのかすぐに目を逸らした。


視線はすぐに逸らされたから特に気にせずに周りを軽く見渡すと、受付らしき場所をみつけた。そこへ近づいて行くと、そこに立って居た緑髪でショートボブの20歳位の女性に声をかけられる。



「こんにちは、今日は何の御用でしょうか?」



「ああ、冒険者になりたいんだが、ここであってるか?」



「あってますよ、冒険者登録なら一人銅貨五枚ですが…そちらの方もですか?」



受付嬢は見た目が幼くて非力そうなシュースを見てそう言った。



「シュースはどうする?」



「勿論なりますよ、なっておいて損はないでしょうし」



シュースは亜空間から銅貨十枚を取り出し受付嬢へと差し出した。



「亜空間持ち!?…それならクエストには荷物運びなどもありますし冒険者として問題ないでしょう」



一瞬驚いたもののすぐに持ち直すとは、こいつ…できる!



「銅貨十枚、確かに受け取りました。それでは…こちらのカードに血を垂らして下さい」



受付嬢はカウンターの下から取り出した銅のカードと針をこちらに差し出した。

なるほど、異世界モノでよくある方法か、じゃあ針が通る様に能力を一旦解除してっと…



「まあ人差し指でいいか」



針で人差し指を少しだけ刺すと血が出たのでその血をカードに垂らす。

すると、カードに付着した血が光りだし、勝手に文字の様な形へと変化していく。

暫くすると光は消え、カードには赤色の文字が書かれていた。



「えーと…キョウガ=コウヤ様ですね、これでコウヤ様の冒険者登録は終了です」



「ありがとう」



俺が返されたカードを受け取ると、じっと横で眺めていたシュースは俺を真似て針でカードに血を垂らした。カードは俺の時と同じ様に、垂らした血が形を変えていき何事もなくギルドカードは完成した。



「名前はシュース様ですね、これでシュース様の冒険者登録も終了です」



「ありがとうございます」



「冒険者登録が済んだので次は冒険者ギルドの規則についての説明をしていきます。説明が不要な場合はこれで終了ですがどうしますか?」



規則知らなかったらいつ間にか破ってそうだし聞いておくか。罰金とかあったら嫌だしな。


「説明を頼む」



「分かりました。ではまず始めにコウヤ様とシュース様は冒険者ギルドについてどれだけ知っていますか?」



「殆ど知らないな」



「私もです」



「では冒険者ギルドについてですが、このギルドでは主に採取、手伝い、護衛、討伐のクエストを受ける事ができます。そしてこれらのクエストを受注し、達成する事で報酬を得る事が出来きます。あと、クエストを達成するとギルドポイントというものを与えられ、十分に溜まるとランクの昇格試験を受ける事ができますので頑張ってください」



「ランクとは?」



「ランクというのは銅、鉄、銀、金、ミスリル、オリハルコンのギルドカードで分けられています。銅が一番下のランクでオリハルコンが最高ランクですね、銅のランクでは主にゴブリン討伐までしかクエストを受ける事が出来ませんがランクが上がるにつれて高難度のクエストも受ける事が出来る様になります」



「なるほど、大体把握できた」



「なら最後に冒険者ギルドの規則ですが、これに関してはよっぽどの事をしでかしたりギルドの一部を破壊してしまったりなどしない限り特に問題はありません。ただしそういう事をしでかした場合は資格剥奪、または罰金がありますのでご注意を」



「そこらへんは気をつけよう」



「説明はこれぐらいですね、他に知りたい事などはありますか?」



「特にないな」



「そうですか、ではこれからのお二人の活躍に期待しております」



「なら今日は暇だし早速その期待とやらに応えるか。ゴブリン討伐のクエストを受けたいんだがあるか?」



そういうと受付嬢は俺達の全身を見てから困った様に口を開いた。



「一応ありますが…お二人はまず武器や防具を購入すべきだと思いますよ?」



なるほど、そういうことか。でも武器と防具ねぇ…



「俺にはただの重たいお荷物だから要らないな」



「私も魔法があるので要らないですね」



そんな事を二人で言っていると受付嬢は真面目な顔でこちらを見ていた。



「…自分の力を信じるのは良いですが、過信していては駄目ですよ、そういう人は実戦ですぐに死んでしまうので」



「死ぬ覚悟がない奴は実戦に行かないと思うが?」



「そうではありません!いくら自信があっても新人が武器もなしの丸腰でゴブリンの討伐なんて受付嬢として受注を断ります!」



「受付嬢として冒険者のクエストの受注をしているのに自分の考えだけで受注を拒否するのはどうかと思うが?」



「っ!私は新人である貴方達の事を考えて…!」



揉めていると突然、入り口の扉がバタン!と音を立てて開かれる。ギルドの中へ入って来たのは下劣な顔が似合いそうなムキムキの大柄な男と、鉄の棒のような物を腰につけている痩せた男の組み合わせだった。


他の冒険者はその二人を見て嫌な表情を見せ小声で話し始めた。



「『粉砕者』がきやがったぞ…」


「銀ランクだからって調子のりやがって…」


「あいつら本当に気持ち悪いのよ…前に尻触ってきたし」



様々な反応があるが突然尻触るとか…気持ち悪いな、それに二つ名っぽいのが粉砕者とか、逆にお前らの玉を粉砕してやろうか。



そんな事を考えながら二人組みを見ていると、こちらの方へと視線を向けて近づいて来た。



「邪魔だどけ!」



こちらへ来たかと思うと突然身体を押し飛ばされる。触られたのは針で指を刺した時に能力を解除していてそのままだったからか…

というか力強いな、四メートル位吹き飛ばされたぞ。



「紅夜さん!」



シュースが慌てて近寄ってくるが手で大丈夫だと制して立ち上がる。俺を押し飛ばした男達の方を見ると、先程俺達と話していた受付嬢に向かって話しかけていた。



「ほらよ、レッサーデビルの討伐証明部位だ」



そう言って大柄な男は角の様な物体を20個ほどカウンターへ投げ捨てる。

受付嬢はその男を睨みながら呟いた。


「…また貴方ですか」



「おいレリアよぉ、さっさと俺のオンナにやりやがれ」



「誰が貴方みたいな…っ!」



男はこぶしをドンとカウンターへ叩きつけた。

レリアと呼ばれた受付嬢がビクッとすると、男は続けて脅迫の様な言葉を重ねる。



「だからよぉ、俺が優しい内にさっさと俺のオンナになりやがれってつってんだよ!」



さらにこぶしをドンとカウンターへ叩きつける。



「ひっ」



「俺のオンナになればオンナの悦びをとことん教えてやるよ」



男は下劣な笑みを浮かべ、レリアに向かって手を伸ばしていく。

レリアは恐怖で動けないのか涙を流して震えているだけだ。


そんな光景を見て俺は感想を口にした。



「やっぱり下劣な顔がお似合いだな」



「あん?」



男がこちらを睨みつけてくる。


常時展開している能力の効果を再度発動してから男とレリアの方へと近づく。



はぁ…まったくゴブリンの討伐を受けようとしただけでどうしてこんな事になるのやら。



「俺が先に並んでいたからそこをどいてもらおうか」



レッサーデビルの角とやらを床へ全て払い落とし男とレリアの間に割り込む。

あいつ死んだなとか聞こえるがそんなの知らん。


「てめぇ…なにしやがる」



男は低い声でこちらに話しかけてくる。

それに対し俺はあくびをして「邪魔だからどかしただけだが?」と言い返す。



「この銀ランクの俺を邪魔だと?新米がナメやがって」



「ランクが上なだけの格下をナメて何が悪いんだ?」



「この野郎っ!」



顔を真っ赤に染めた男が顔面に向かってこぶしを振り下ろす。

しかし俺はそのこぶしをただ突っ立て待ち構える。

そしてこぶしが顔面へ吸い込まれる様に迫ってきた…がそのこぶしは突如顔面の数ミリ前で停止した。



「は?」



そしてその直後、男は後ろに向かって吹き飛ばされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る