第4話 初めての異世界へ

「…ん」



カーテンで遮られた窓の隙間から溢れる眩しい光で目が覚める。

ベットから起き上がると身体を伸ばし、昨日の事を思い出す。



「そういや夕飯食ってなかったな」



欠伸をしながらリビングへと向かい、ドアを開ける。

そしてリビングに入ると、そこにはポテチやクッキー等、様々なお菓子が散乱していた。

そしてその真ん中には倒れ伏した少女…シュースがいた。



「…」



お菓子を避けてながらシュースに近寄り、俺は無言でシュースの頭に向かって拳骨を振り下ろした。

ドコッと鈍い音と同時に「ふぎゃっ!?」と短い悲鳴が家に響き渡った。


ーーー



「うぅ、頭が痛い…」



「お菓子は少し食うだけなら別にいいけどな、食い過ぎだろ、そして散らかし過ぎ」



シュースが復活して数分後、シュースは朝飯として俺が作ったベーコンエッグとご飯を一緒に食べていた。



「お腹が空いていたんですから仕方ないじゃないですか…」



「そういや昨日は夕飯食ってなかったな」



「そうですよ、夕飯を作らなかった紅夜さんも悪いんですよ!」



朝から騒がしい、主にシュースの所為で。



「今度からは忘れないで下さいね、絶対ですよ!」



「昨日は疲れてたんだよ、金曜日って一気に疲労が来るから」



「あぁ、そういえば今日は土曜日でしたね、今日って予定ありますか?」



「いや、特にないけど」



「なら今日は異世界に来ませんか?視察としてでもいいですから、」



視察ねぇ…



「そのまま異世界に置いていくとかしないよな?」



「いや、そこまでしませんからねっ!?」



「いやでも、あんなに必死だったからやりかねないだろ」



「神は嘘をつきませんよ!」



「どんな事でもか?」



「つ、つきませんよ…多分」



この女神、不安しかねぇ…



「まあいいか、拒否ったら帰れると思うし」



「ほんと便利ですね、その能力…」


ジト目で見てくるが知らん。


そんな事を話している内に食べ終わったのでさっさと片付けを済まし、外出用の服に着替えておく。


シュースが靴も持って来るようにと言っていたので玄関から運動用の靴をひっぱり出してリビングにいく。



「こんなもんで大丈夫か?」



「普通なら武器とか持って行くでしょうけど、まあ紅夜さんなら大丈夫ですよね」



ゲーム風に言うと俺自体がチートだからな。



「それじゃあ、よろしく頼む」



「ではいきますよ…」



シュースが目を瞑り集中する。

すると周りに光が集まっていき俺達を包み込んでいく。

暖かく心地いい感覚が全身を包み込み、とても落ち着く…とそんな感覚を味わっていたのも束の間、ジェットコースターで一番高い所から落ちる時の様な浮遊感に襲われ、視界が真っ黒に染まる。



「うぉあ!?」



すげぇびっくりした、ジェットコースター苦手だから今のは怖かったぞ…



「あ、もう着きますから我慢して下さいね」



「お、おう」



それから数秒ほど、真っ暗な中で嫌な浮遊感に耐えつつ待っていると突然、視界に明るい光が差し込んだ。



「うおっ!」



その光が眩しくて思わず目を瞑ってしまう。


そして、暫くして目が慣れてのでゆっくりと目を見開いた。



「おぉ…」



するとそこには、今の現代では到底見れない様な、様々な植物が咲いている美しく広大な平原が広がっていた。



「紅夜さん、どうですか?私の創り出した世界、『イシュリア』は!」



ぼーっと辺りを見渡しているとシュースが声をかけてきたので返事をする。



「これはすごいな、あっちでは中々見れない景色だ」



「ふふん、そうでしょう?私もお気に入りの場所なんですからね!」



「へー、ここはどこなんだ?」



「えーと、ここはメルリア王国って言う街から少し離れた平原ですね、この付近一帯は土地が豊かで国も活気に溢れていてとても賑やかなんですよ」



「国か…やっぱりそこには冒険者ギルドとかあったりするのか?」



「勿論、平均的な大きさの国なら大抵ありますよ」



どうせ来たなら楽しまなきゃ損だからな、折角だし冒険者にでもなってシュースが言っていた勇者の力とやらも試してみるか。



「取り敢えず冒険者登録とかしたいから街に行くって事で大丈夫か?」



「大丈夫ですよ、街に入るのと冒険者登録にはお金がかかりますけど今回は私が負担しておきますね」



「助かる、じゃあ行くか」



そうして俺達は街に向かって歩きだした。


道中、のんびりしながら勇者の力についてシュースに聞いてみると色々な事が分かった。



「勇者の力って言うのは簡単に言えば神の加護みたいなモノなんですよ、加護があるだけでこの世界では勇者や聖女扱いされますからね」



「つまり貴重な力の持ち主って事か」



「そうですね、加護は付与する神によって違いますが私の加護は特にすごいんですよ!」



「ほう、どんなのなんだ?」



「まず、全部で3つほど効果があります。まず1つ目は、魔法の発動に必要な魔力が大量に手に入ります」



「つまり魔法が発動し放題になるって訳か」



「そして2つ目は、全属性の魔法が才能関係無しで上級まで使える様になります」



1つ目と2つ目を合わせると魔法チートって感じかよ…これ以上俺に何を与えるんだよ。

もう十分な気がするんだが。



「そして3つ目、これが一番すごいんですよ!」



「嫌な予感しかしないぞ…」



「なんと、なんとですね…私と念話が出来るようになります!!」



……。



「それ、側にいるから一番意味ないだろ」



「こっちの世界の人からすれば一番すごいんですよ、だってこの世界を創った人と会話が出来るんですから!」



「へー」



「返事適当ですね!?そんなに興味ないですか?」



「全くない…とっ、もう着いたみたいだな」



目の前には40mはあろう大きな石造りの壁がそびえ立っていた。


俺はそれを見て、暫く感嘆していた。

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