第2話
そもそもの始まりはこっそりと調理室の鍵を調達して、無断でハンバーグを作っていることが彼女に見つかったことだった。
「何をしているのですか?」
という一言。普通は多少挙動不審になっても不思議ではないのに。むしろ彼は気丈に「自分は料理部を発足させて、今はその活動中なのだ」と言い張った。
「そんな話は知りませんが……」という一言にも怯むことなくゴリ押したが、そうそう上手く話が流れるはずもない。
「あ、そうだ。良かったら食べていきませんか?」
雲行きがあやしくなったとき、そう切り出すことで懐柔を図る。
人からの料理を普通であれば、ハンバーグの味に関わらずに説教されるか、こっぴどく説教されるになるかのどちらかだろう。
矢澤だったから、きっとここからの流れがおかしくなったのだ。
野々宮が作ったハンバーグを一口食べて矢澤は言ったのだった。
「美味しいのは間違いありませんが……、この料理には愛が足りませんね」
いつもの平坦で淡々とした感情の薄い口調で紡がれた言葉にしては、人間味の溢れるものだった。
彼女のことを入学したばかりの野々宮は、詳しくは知らないが、周囲の噂を耳にすることくらいはあった。
容姿端麗で頭脳明晰、そして公正明大で冷眼傍観。
非人間的なほどの美貌と非人間的な冷静さは、まるで人間ではないようでーー。
『鉄の女』とは誰が言ったのか。
最初に彼女の姿を見たときに、その言葉はあながち間違いでは無かった。
そんな彼女が口にしたと信じられず、予想外なくらいに哲学的で、そしてそれ故に辛辣。
そして、人の情がそこにあった。
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