四章 転生者達

第99話 新入部員



 津田さんを蝕む『淫魔の角』の呪いは、無事再封印が完了した。

 しかし、今後のことを考えると、やはりなるべく一緒にいた方が良いのは確実である。

 結果として、彼女には『正義部』の一員になって貰うこととなった。



「つ、津田 朝日です。よろしくお願いします」



「「「ようこそ、『正義部』のアジトへ!」」」



 女子部員3名は、早速歓迎するように津田さんを部屋へと招き入れる。

 予め準備していたのか、部屋には簡素ながら飾り付けがされているようであった。



「……兄者、俺のときは、こんな歓迎会はありませんでしたが」



 そんな女子達を見ながら、如月君が恨めしそうに言ってきた。

 ……なんとも面倒くさい男である。



「おい如月、お前こんな風に歓迎されたかったのかよ」



「そんなことは無いが、なんか差を感じるだろ……」



「……シンヤ君、君が入部した時と今では状況が違うだろう? 別に、歓迎会をしなかったからといって、君の入部を歓迎しなかったなんてことにはならないさ」



「そ、そうですよね!」



 面倒ではあるが、ここでフォローしておかないと如月君はすぐ沈むからな……

 繊細過ぎるのも考えモノだ。



「……とりあえず、俺達も中へ入ろうか」





 ……………………………………



 …………………………



 …………………





 緊張した面持ちの津田さんを挟み込むように、一重と麗美が席につく。

 静子はそれぞれのコップにオレンジジュースを注ぎ終わると、そのまま一重の隣に座った。



「……それでは、津田さんの歓迎会を始めようか。津田さん、『正義部』へようこそ」



「「「「「ようこそ!!!」」」」」



 俺の言葉を乾杯の音頭とし、それぞれがコップをぶつけあう。

 中身はオレンジジュースだが、気分は前世でやった飲み会と同じノリである。

 若さゆえなのか、アルコール無しでも全員普段よりテンションが高めだ。



「あ、あの、私なんかのために、わざわざこんな歓迎会を開いてくれて、ありがとう……」



 津田さんは照れているのか、少し顔が赤くなっている。

 何というか、実に魅力的である。



(……津田さんって、こんな可愛かったですっけ)



(失礼だぞシンヤ君。津田さんは最初から魅力的な女性だったぞ)



 どうやら如月君も、今の津田さんに魅力を感じてしまったようだ。

 俺もこんな返し方こそしたが、確かに津田さんは以前に比べて魅力的に見えるようになった気がする。

 何だかんだと色々なことがあったから、俺の見方も変わってきているのかもしれない……



「ところで、『正義部』って具体的にどんな活動をしてるの?」



「私から説明しましょう」



 津田さんの質問に対し、静子はそう答えてからホワイトボードに『正義部』の活動内容を記した画像を映し出す。

 用意周到だな……



「『正義部』は、読んで字の如く正義に関することを主な活動内容としています。活動範囲は校内及び、周辺地域で、暇なときは近所の見回りなどもしていますね」



 概ね静子の説明の通りだが、少し誤解を招きそうな言い回しである。

 何故なら、実際は暇な時の方が多いからだ。



「正義に関する活動って、具体的にはどういう内容なの?」



「広義な意味で悪と思われる行為への制裁ですね。暴力事件だったり、今回の津田ベーカリーに対する嫌がらせのような案件に対し、武力を含む手段で対抗措置を取ります」



「ぶ、武力……」



「安心して下さい。津田さんは私や如月君と同じ裏方ですので、荒事に参加することはありませんから」



 裏方に自分が含まれていることに、如月君が密かにショックを受けている。

 フォローしてあげたいところだが、今は触れないでおくことにしよう……



「概ね静子の言った通りだが、津田さんの立場は少々特殊になる。『淫魔の角』のことがあるから、なるべく俺の手元に置いておきたいというのが、今回『正義部』に入って貰った最大の理由だからだ」



「はい。残念ながら、津田さんにかかる呪いに対処することが可能なのは、現状では師匠だけです。そのため、津田さんにはなるべく師匠と一緒に行動を共にして頂くことになります」



「や、やっぱり、そうなんだね……」



 津田さんは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 無理もない。封印の方法が方法だけに、俺だって少々恥ずかしいからな。



「苦労をかけるが、これも津田さんのためなんだ。理解してくれるかな?」



「わ、私は別に、苦労だなんて思ってないから……。むしろ、苦労をかけているのは私の方で……」



「その話は先日しただろう? 津田さんは気にせず、俺達に守られていてくれ」



 不測の事態だったとはいえ、もう少し上手く立ち回っていれば、夕日や津田さんが攫われるようなことはなかったかもしれない。

 彼女がこんな状態になってしまった原因の一端は、俺の甘さにあると言っていいだろう。その責任は果たしたい。



「神山……」



 津田さんが申し訳なさそうに俺を見るが、申し訳ない気分なのはこちらの方である。



「オホン。それで、『正義部』の活動方針については今述べた通りですが、師匠も言いましたように、今後は津田さんを守るという役割も担うことになります」



「……さっき神山が言った時も気になったんだが、具体的に何から津田を守るんだ?」



「それ、俺も気になった」



 静子の説明に、尾田君が疑問を挟んでくる。

 如月君も同じ疑問を持ったらしく、その質問に便乗してきた。



「津田さんを侵す『淫魔の角』を提供した者達、或いはその本体からになります」



 そう言って静子は、ホワイトボードの画像を切り替える。

 切り替わった画像は、『淫魔の角』に関する詳細な情報だ。



「『淫魔の角』は、本体である淫魔から強い影響を受けます。本体との距離が近ければ近い程、呪いの効果が強まるのです」



 静子がポインターで指定した図には、『淫魔の角』と本体との距離における影響を表したグラフが書かれている。

 これは、俺が全員に説明するために作成したものだ。



「その距離ってのは具体的にどのくらいなんだ?」



「影響自体は、本体が国外にでもいない限りは受け続けることになる。具体的に影響力を増すのは本体が大体50km圏内に入っている場合だ」



 前世での記憶をもとに出した概算だが、大きく外れていることはないハズだ。

 転生の影響もあるだろうし、少なくともこれより広いという可能性は低いだろう。



「ってことは、少なくとも『淫魔の角』の本体は国内にいるってことか」



「そうなる。さらに、影響の度合いから考えると、都内もしくは近隣の県にいる可能性が高い」



 俺の封印を蝕む速度から考えて、ある程度は影響力が高くなっていることが伺える。

 恐らく本体は、近すぎず遠すぎずくらいの距離にいるのだろう。



「……その本体は、津田さんが自分の角の影響下にあることに気づいているのでしょうか?」



「気づいている。だからこそ、津田さんを守る必要があるんだ」



「成程……」



 麗美もそれを聞いて、ようやくどういう状況なのかを理解したようだ。



「地上げ屋……というより立川に『淫魔の角』を提供した何者かは、確実にその性質を利用してくるだろう」



 立川の意図とは別に『淫魔の角』を提供した者は、使用された者達を利用することを考えている可能性が高い。

 何故ならば、本体を近づけさえすれば、『淫魔の角』に侵された被害者を絶対服従の奴隷と化すことができるからだ。

 そうなってしまえば、性的なこと以外にもいくらでも利用価値が見いだせる。



「つまり俺達の役目は、その『淫魔の角』の提供者から津田を守るのと、角の本体を確保して呪いを解除するってことだな」



「そうなる。みんな、力を貸してくれ」



 俺の言葉に、全員が迷いなく首を縦に振る。

 全くもって、頼もしい仲間達であった



「……オホン。では、皆さんに意識は纏まったようですので、歓迎会の続きをしましょうか」



 そういえば、今は歓迎会の最中だったな……

 細かいことはあとで考えるとして、今は新しく加わった仲間を祝福することにしよう。




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