第46話 調査報告



 麗美と静子の調査によると、どうやら谷中 浩史やなか ひろしは完全に被害者であるらしいことがわかった。



 中学二年の頃まで、谷中 浩史やなか ひろし沢井 和也さわい かずやは普通の友人関係だった。

 引っ込み思案で暗い性格の谷中に対し、沢井は健康的で明るい性格とほとんど正反対の存在なのだが、存外気があったようだ。

 谷中は性格が災いしてか他に友達もいなかったため、沢井と一緒にいることが多かったらしい。

 谷中にとっては、沢井の存在が学園生活の数少ない楽しみだったと思われる。


 しかし、その楽しい学園生活は突如終わりを迎えた。

 沢井と友達になって一年半ほど経った二年生の中頃、谷中は沢井に襲われたのである。


 どうやら、友達として過ごした一年半は、谷中の警戒心を解くための準備期間であったらしい。

 そして十分に警戒心の解けた頃、沢井は計画を実行に移した。



「クソッ……、胸糞悪ぃぜ……」



 尾田君は、正義部のアジトに設置されたベッドでゴロリと寝転がり、悪態をついている。

 そんな彼を横目に、俺と静子、真矢君は、麗美に注いでもらったお茶を飲んで一息ついた。


 続いて、沢井への聴取の結果を真矢君が報告する。



「杉田さん達から報告があった内容と被るところもあるけど、俺達はもう少し詳細な話を沢井から聞けました」



 沢井への聴取は、奇しくも田中 純也たなか じゅんやから情報を聞き出した場所と同じカラオケ店で行われた。

 どうにもあの店はセキィリティが緩く、秘め事にはもってこいの空間として学生の中ではそれなりに有名らしい。

 ニートと化していた沢井がよく家の外に出てくる気になったと思ったが、その理由は真矢君に「話しが聞けるまで、アイツは毎日来るぜ?」と脅されたかららしい。

 どうやらその効果は極めて高かったらしく、これを切っ掛けで彼はニート生活から脱することができたそうだ。

 社会復帰の美談にでもなりそうな話だが、残念ながら沢井は正真正銘のクズであったらしく、そうはならなかった。

 話を聞くうちにブチ切れ寸前となった尾田君に対し、彼は盛大に粗相をし、再びニート生活に逆戻りしたそうだ。

 俺はそのとき、隣の部屋で静子とカラオケに興じていたいたのだが、後になってその現場を見て申し訳ない気分になった。



「カラオケ、楽しかったです」



 不機嫌そうな尾田君とは対象的に、上機嫌な静子。

 静子もあの光景を見たハズなのに、気にはならないのだろうか……


 ちなみに、俺達はもちろん単純に遊んでいたワケではない。

 魔術で聴取のバックアップをするため、わざわざ隣の部屋に入室したのである。

 ……静子のささやかな願いを叶える目的があったことは、まあ否定しないが。



「以上です」



 真矢くんの報告は拙く、内容が前後したりと中々に難解なものであったが、学生なのでこれは仕方ないと言える。

 それは最初から織り込み済みなので、これからも失敗を恐れずどんどん経験を重ねて成長していって欲しい。


 それはそれとして、俺は報告内容から情報を整理し、頭の中で簡単にダイジェスト化していく。


 ・沢井は谷中をレイプした

 ・その時の写真を脅しのネタとし、暫くの間肉体関係を続けた

 ・中学三年になった直後、沢井に彼女ができる(沢井はどうやら本物のバイセクシュアルであるらしい)

 ・彼女との付き合いが優先され、谷中との肉体関係はほぼなくなった

 ・一学期の終わり頃、沢井と谷中の行為中の画像が学内にばら撒かれる

 ・ばら撒いた犯人は速水桐花はやみとうからしい


 この画像がバラ撒かれたという『事件』により、三人は暫くの間謹慎を命じられた。

 しかし、謹慎が明けても三人が登校することはなく、そのまま不登校になってしまったのだそうだ。

 その後、沢井と谷中は進学せず引きこもりになり、速水さんだけが進学を果たしている。


 確かに、尾田君が言うように胸糞悪い話だと思う。

 特に沢井に関しては、同じ男として相当な嫌悪感を抱いた。

 ……まあ、レイプ行為は男だろうが女だろうが関係なく最低だとは思うが。



「……これがその時の写真らしいんだが、見るか?」



 真矢君の報告を聞いて思い出したのか、尾田君がポケットに突っ込んでいたらしい封筒を差し出してくる。



「……尾田君達は、見たのかい?」


「見てねぇよ……。見たら、またあの野郎をぶん殴りたくなるだろうからな……」


「そうか……」



 俺は差し出された封筒を受取り、思わず渋い顔をしてしまう。

 正直、俺だって見たくはない。

 しかし、この写真は恐らく速水桐花が撮ったと思われるもの。

 何らかの情報が含まれている可能性もあるため見ないワケには、いかないだろう……



「私が確認しましょうか?」



 麗美がそう申し出てきたが、どうにも複雑な気分になる。

 女子に見せるべきではないという気持ち以上に、麗美の目が心なしかルンルンとしていたからである。



「……麗美、まさか見たいだけ、ってことはないよな?」


「や、やですねマスター、そんなことあるワケないじゃないですか~」



 説得力の欠片もない返答が返ってき、思わず脱力する。

 正直悪趣味と注意したいところだが、確認する者は多い方が良いだろう。

 あまり気は進まないが、協力をお願いすることにする



「……わかった。ただ、確認は俺もするから、何か見つけたら教えてくれ」


「はい! もちろんですマスター!」


「静子も、すまないが解析を頼む。……辛かったら言ってくれ」


「大丈夫です師匠。慣れてますので」



 一体何に慣れてるのか、思わず突っ込みそうになるのをギリギリで堪える。

 聞いても複雑な気分にしかならないだろうからな……



 こうして、俺達は手に入れた情報を元に、速水桐花の世界を切り崩す準備を進めるのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る