一章 如月シンヤ
第15話 杉田 麗美は空気が読めない
「で、どういうことなんだってばよ」
「……きちゃった♪(てへぺろ)」
きちゃった♪ じゃ! ねぇだろぉぉぉぉがぁぁぁぁぁっ! と叫びたかったが、ここは教室である。
俺は深呼吸し、心を落ち着けることに努めた。
目の前のお嬢様風の少女は
この少女の正体は、俺が前世で僅かながら関りを持った相手、つまり同じ転生者である。
先週……、まあ色々とあって彼女とは協力関係を築くことになったのだが、その彼女が何故この学校に……
「……なんでここにいる?」
「えっと……、一緒にいたかったからですが……」
その言葉に、聞き耳を立てていたクラスメート達がざわめきだす。
マズイ、これは非常にマズイ。
俺は彼女の耳元に口を近付ける。
「言葉は選べよ? その制服はどうした? まさか、認識阻害で侵入したのか?」
「ち、違いますよ。ちゃんと転校してきました。あと、マスター、息が当たって、その、くすぐったい、です……」
ゴルアァァァッ! てめ、ワザとやってのか!? などとは当然叫ばない。
俺のクールなイメージが崩れてしまうからな。
しかし、これは増々マズイ状況だ。
麗美の反応は当然論外だが、それを差し引いても転校生の美女と知り合いというだけで、大いに誤解をまねく可能性が高い。
それがヒソヒソ秘密の話などをしていたら、色々な誤解を受けてしまう。
ここは、一時避難を……
「杉田さん、少し席を外そう。色々と聞きたいことがある」
返事は聞かない。有無を言わさず手を掴んで立たせる。
こんなことをしなくても彼女は絶対服従の呪縛に捕らわれているため拒否はできないのだが、正直頭が回っていなかった。
「待てよ、神山、聞きたいことがあるのは俺達も一緒なんだ。抜け駆けはズルイぞ? 二人は
「そ、そうよ! 独り占めは良くないと思うわ神山君。アナタはただでさえ雨宮さんを独占状態なんだから、そのくらいは譲ってもらわないと!」
などと口にしながら俺達を囲むクラスメート達。
これでは脱出できないではないか。
どうにか説得せねば……
「い、いや、ちょっと大事な話があってな。少しだけでいいんだ、できれば二人で話しをさせてくれ」
「良助? 大事な話って? 私も行っちゃ駄目なの?」
っと、このタイミングで入ってくるのかひーちゃん……
頼むからここは空気を読んで……、って無理だよな!
そんなことは、彼女を育てた俺が一番よく知っている。
「あ、いや、一重は問題ないけど……」
「おい、なんで雨宮さんは平気で俺達は駄目なんだ?」
「ま、まさか、痴情の……?」
「いや、これはどちらかを捨てるフラグかもしれない。であれば俺達にもチャンスが……」
「え、でも神山君のことだから、新しい妻が増えたとか言い出すんじゃ……。ほら、隣のクラスの山田さんも、彼にだけは凄い可愛い笑顔を見せるって噂が……」
「あ、それ私も聞いたことある!」
いかんな……、この状況は収拾がつかなそうだ……
それにしても、俺って女子にそんな風に思われていたのか?
少しショックだ……
とりあえず、とてもじゃないが抜け出せる雰囲気ではなくなってしまった。
もちろん強引に抜け出すことは可能だろうが、それをしたら恐らく後々酷い噂がたてられるに違いない。
ここはダメージを最小限に食い止めるため、この聴衆の認識を良い方向に修正していく必要がある。
「いや、みんな勘違いしているぞ? 彼女は確かに昔の知り合いなんだが、外国に引っ越すとかで長い間疎遠になっていたんだよ。それが急に同じ学校に転校して来たものだから、何があったのかと思ってだな……」
嘘は言っていない。
聞きたいこともアバウトだが概ね間違っていない。
まずは話を合わせつつ、徐々に話題を逸らしていくのだ。
「それは、いくら連絡してもマスターが反応してくれないからですよ……。本当は転校のことも伝えたかったのに……」
「………………あ、そうか」
ああ! そうだな! 確かにそれは俺が悪い!
確かに、俺は麗美の連絡を無視していた。
でも、仕方ないじゃないか……
俺には……、心の休養が必要だったんだ!
「そ、それは悪かったな。でも、完全に会わなかったワケじゃないし、その時に直接言うこともできただろ?」
確かに俺は彼女の連絡を基本無視していたし、直接会うのも極力避けていた。
しかし、呪いのこともあったし完全に会わなかったワケではない。
そのときに言ってくれていれば……
「相談しようとはしましたよ? でもマスターが、忙しいから細かいことは落ち着いてからにしろと……」
ああ、言ったな……。確かに言った。
いや、でもマジで疲れていたんですよ。
精神的には俺、老人もいいところだからな……
「私はマスターに絶対服従ですので、そう言われてしまうと、どうしようもないんです……」
「ね、ねえ杉田さん? さっきからマスターって言ってるのは何? それに、今、絶対服従って言わなかった?」
麗美……、君、わかってやっていないか?
ああ、なんだか女子の目が好奇心から、ゴミやらゲスを見るような目つきに変わっているような……
「す、杉田さん、誤解をまねくから、その呼び方はやめようか?」
努めて笑顔を作っているが、若干引きつってしまっている。
それを見た麗美は、さすがに察したのかハッとしたような顔をする。
「誤解って……、何が誤解なの?」
委員長はそう質問しながらも、その表情や声色には既に
まあ、普通ならそんな呼ばれ方してる時点でアウトだものな……
「いや、実は彼女とはテーブルトークRPGっていうゲームで遊んでいてだな? ついつい熱が入って、時折ロールプレイの癖が抜けずにその時の役割でお互いを呼んでしまうことがあるんだよ」
一般人にはテーブルトークRPGなんて何かわからないだろうが、ゲームだと言ってしまえば勝手に想像で補おうとするだろう。
テーブルトークRPGで役割を演じることなど普通のことだし、後ほどググられたとしても問題はないハズ。
「そ、そうです! プレイのときの癖が抜けなくて、つい……」
再びざわめくクラスメート一同。
ご主人様プレイだってよとか、そんな如何わしいゲームを二人で……? とか。
麗美……、もう喋らないでくれるかな……?
それから俺は必死に説明を繰り返したが、残念ながら完全に誤解を解消することはできなかった……
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