異世界から転生!? 転生賢者の第二の人生 ~バカとテンサイはカミヒトエ~
九傷
序章 ぼーいみーつがーる
第1話 ぼーいみーつがーる
俺の名前は
いわゆる、転生者というやつだ。
前世の記憶を残しての転生というのは、誰もが羨むシチュエーションの一つと言えるだろう。
実際、俺も転生した瞬間は年甲斐もなく興奮したものである。
しかし、現実はそう甘くなかった。
転生した先は、俺の住んでいた世界とは異なる世界だったからだ。
俺のいた世界には、地球と呼ばれる星もなければ、日本という国も存在しなかった。
つまり、俺はこちらの世界目線で言えば、異世界からの転生者というワケである。
言わば、逆輸入のような状態だ。
……まあ、別に召喚されたワケではないのだが。
ともあれ、そんな俺に待っていたのはチートだの俺TUEEEだのとはかけ離れた、至って普通の生活。
かつては神とまで崇められる程の天才魔術師だった俺が、地球ではただの一般人になりさがるしかなかったのである。
それは何故か?
答えは簡単で、この世界には魔術は存在しないし、人間もほとんど魔力を持たないからである。
俺が生まれた肉体も、その多分に漏れず僅かな魔力しか持っていなかった……
さらに言えば、言葉も当然わからないし、常識の類も一切通用しない。
つまり、転生者っぽい恩恵がほとんどないのである。
転生は転生なので前世で大人になるまでに培った人生経験はある程度活かすことができるが、常識から何から異なるこの世界ではその人生経験もどれだけ役にたつかわからない。
とはいえ、折角の転生なのだから楽しまないことには始まらない。
俺は未知の世界に期待し、この世界の常識や知識を熱心に学んでいった。
そして2歳になる頃には、この世界の常識を一通り理解することもできた。
あとは健康に気を付けて成長し、前世の経験を活かしてこの世界でも成功者になるだけである。
「ワンワン!」
そんな野望に胸を熱くしていると、いつの間にか俺の目の前に一人の少女が立っていた。
(……ワンワン?)
一瞬何のことかわからなかったが、ワンワンとはつまり犬。
彼女は、俺が今作っている犬の像を見てワンワンと言ったようであった。
「うん、ワンワンだよ!」
俺は子どもらしく知能レベルを落としてそう答える。
「わぁ♪ ワンワン! ワンワン!」
どうやら、この少女は俺の作品をとても気に入ってくれたようだ。
この少女……、中々に見所がある。
1歳頃から公園デビューを果たした俺は、今ではこの砂場の主となりつつあった。
俺は日々この砂場で創作に励んでおり、その腕は最早芸術の域に達している。
無駄にリアルに作られたこの像は、他の子供達や大人達からドン引かれる程の出来映えであった。
「えい!」
そんな犬の像に、少女は満面の笑顔でチョップをお見舞いした。
犬の像は砂で出来ているので、当然そんなことをすれば粉砕されてしまう。
ああ! 俺の
「な、な、な、なにをするのだーーーーーっ!」
「ふぇ? あ、ワンワン……、しんじゃった……? う、う、うぁぁぁぁぁぁん!」
ちょ、な、泣きたいのは俺の方だぞ!?
「いてぇぇっ!」
「いてぇって、この子はどこでそんな汚い言葉遣いを……。じゃなくて、何、女の子を泣かせてるの!?」
泣かせてない! 俺は断じて泣かせてなどいない!
くっ……、しかし少女の涙のなんと破壊力のあることか……!
……とりあえず俺も泣いておこう。
「う、うえぇぇぇぇん。ぼく、なにもやってないもーーーん!」
「な、なんてワザとらしい泣き方……。私の育て方が悪かったの……? ……いや、悪くない! 私は断じて悪くない!」
何故か我が母も頭を抱えだす。
先程の俺の反応にそっくりだ。やはり俺は母親似なのであろうか……
「ど、どうしましたか!?」
すると、さっきまで向こうで楽しそうにブランコを漕いでいた主婦らしき女性が、見事な双丘を派手に揺らしながら慌てて駆けてくる。
あの慌てぶりから、恐らくはこの少女の母親なのであろうが、娘の一大事(?)に気付くのが随分遅い気がする。
ブランコが余程楽しかったのであろうか……?
「ハッ! あ、あの、どうもすみません! ウチの子がこの子を泣かせてしまったようで……」
「ち、ちがうもん! このこが、ぼ、ぼくのワンワンを……! えーん!」
「っぐ、ワ、ワンワン、しんじゃったの……。ひ、ひとえが、なでなでしたら、ワンワンが……。うあぁぁぁぁぁぁん!」
なでなで……? どう見てもチョップだったが……
「あら……、じゃあ一重がこれを壊しちゃったの……?」
「な、なんだそういうことか……。私はてっきり、またウチの子が何かしでかしたかと……」
またって母上……。いや、心当たりがありまくるな。すまない母上。
先程の反応も、もしかすると明らかに普通の子供じゃない俺に対して母なりに何か思い悩んでいた結果なのかもしれない。
あるいは、少し育児ノイローゼ気味なのか……?
いかんな、これからは少し行動を慎まないと……
考えた俺はひとまず泣き真似をやめ、スケさんの再生をすることにする。
なに、この程度、俺の手にかかれば修復に1分もかからん!
「……えっと、ひとえちゃん? ほら、ワンワンいきかえったよ?」
「ふぇ……? ワンワン? いきてるの?」
「うん、ワンワンはぼくがなおした。だから、もうなかないで?」
「わぁ! ワンワン! ワンワン!」
「あ、もうさっきみたいに、あたまをなでなでしないでね? なでるなら、せなかのほうを、やさしく、ね?」
そう言って実演してみせる。
少女もそれにならってスケさんの背中を撫でる。
「ワンワン! かわいいね!」
少女は、先程の涙が嘘だったかの様に、輝かしい笑顔を見せている。
その笑顔を見た瞬間、俺の中で何かが貫かれた。
(か、可愛い……)
誓って言うが、俺は別にロリコンではない。
これは今の俺、2歳の純粋な少年である
記憶や性格は以前のものを引き継いでいるものの、感性や感覚は肉体に引きずられるものらしく、全て刷新されていると言っていいだろう。
つまり俺の若き感性が、この少女を可愛いと思ってしまっただけだ。
……そして、その感性が俺にこう告げている。
――この少女を決して手放してはならないと。
前世の俺は魔術研究一筋の人生を歩んでいた。
結果として、俺の研究は世に認められ成功者となったわけだが、今思えばある意味では灰色の人生だったと言えなくもない。
色恋沙汰などあるわけもなく、生涯を独身で終えたのである。
そんな俺が、今この若き肉体と感性を得て、以前は感じることのなかった胸の高鳴りを感じていた。
(この少女を、俺が女神に育ててみせる……!)
この少女、
そう、リア充の道へと……
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