No.008
四月二十一日。
午前一時過ぎ。
アナザー世界。
リリカノさんからの、高瀬対策睡眠薬は絶大な効果を発揮した。
こっちの世界で眠ると、あっちの世界ではどうなるんだ?
なんて疑問を浮かべながら、高瀬の身体を抱えて、高瀬の手でドアを開けるとアッサリ開き、簡単に教室から外へ脱出出来た(ちなみに高瀬は、さっきの教室で眠り続けている)。
そのままドアを閉めると、どんなに力を加えても開く事が無く、高瀬の言った事が正しい事を理解出来た。
その後は、トイレに入ってうがいをし、リリカノさんへ連絡をして今に至る。
口の中の睡眠薬を飲むわけには行かないから、物凄く苦しかった……呼吸もままならない、高瀬は高瀬でどんどんキスが激しくなってくる…………酸素不足で下手すれば永遠の眠りに付くところだったよ……。
「っと、そんな事よりも、リリカノさんがせっかく出口を見付けてくれたんだ、急がないと」
今はC棟の三階……ここからA棟の二階までは結構距離がある。
二度もアリスから逃げた事になるから、今度見付かったら容赦はして来ないだろう。
不意打ちって事も有り得る。
ファントムナイトのヤツも神出鬼没だし、僕が不利な状況には変わり無いか。
リリカノさんに注意されたばかりだから、行動には気を付けよう。
僕が考えながら行動出来る人間、そうリリカノさんは言ったけれど、あれはたぶん、僕にそう思わせる為に言ったのだと思う……そうに違い無い。
「反省は後だ。こんな所でグダグダしていたら、リリカノさんにまた怒られる……」
『怒られたいなら怒って上げるけれど?』
「ひぇっ!」
聞かれてたっ?!
『安物のヘッドセットだから、通話を終了しない限り聞こえ続けるのよ。知らなかったの?』
「……普段ヘッドセットなんて使う機会無いですから」
『そうよね、電話を掛ける友達がいないものね』
「言われるだろうと思っていたのに、やっぱり言われるとヘコみます……」
『ほら、さっさと出口へ向かいなさい』
「うーい、了解です……」
やっぱり一気に走り抜けるか……短絡的、と取れるような行動だけれど、ファントムナイトなんて突然出てくるわけだから慎重になり過ぎるのも、それが隙になりそうだし……よし。
一つ呼吸をしてから、僕は意を決してC棟三階からダッシュする。
「って、うぇぇえええっ!」
ファントムナイトが増えてるじゃんっ!
「リリカノさんっ、ファントムナイト、明らかに数が増えてるんですけどっ?!」
『アリスから二度も逃げたのだから、そうなるでしょうね』
鎧騎士が廊下に数体、姿を隠す事も無く徘徊している。
けれど、こうなってくると怖さも無い、さっきまでのように突然出て来られた方が精神的にキツイから、これはこれで僕に取っては有利かも……それでも出来るだけ足音を出さずに駆け抜ける。
廊下の先にファントムナイトを確認出来れば、そこを通らず遠回り。
姿が無ければ一気にダッシュ。
「あと少しっ」
遠回りしたせいで、今はA棟の一階生徒玄関近く。
「この階段を上れば……」
二階まで上って、角から廊下の様子を伺うと……よし、誰もいない。
「リリカノさん、もうすぐ脱出出来そうですよっ」
『そう、分かったわ』
ぬおおおおおおおっ!
もう後は出口へ向かって突き進むのみっ!
これは行けるっ、そんな事を思うとお約束のように起こるのがハプニングってヤツで。
ドゴオッ!
「ひえぇぇっ!」
出口のある教室の一つ前の教室……の壁を破壊して。
「アリス……」
が出現した。
そんな出かた有りかよっ!
「クスクス、残念ですね」
「くっそ……」
どうする、ここは一旦戻……。
「ファントムナイトまで……」
何か、何か方法は無いか…………この状況を打破出来る何かはっ!
ギギ、ギギギギ。
ファントムナイトが動き出した。
アイツ、遅いから逃げるなら、そいつ側だけど……アリスの投擲に背中を向けるのはリスクが有り過ぎる。
今度は声を掛けて隙を作ってくれる誰かもいないわけだし……。
「逃げ道……無いです」
「そう、でも無いんだなぁ」
ハッタリじゃぁ無い、窮地に思い付いたこの方法なら、何とか行ける……頼む、上手く行ってくれよ。
「これなら……どうだぁっ!」
ゴガッ!
足元に転がっている、アリスが壊した教室の壁の一部を思いっきり、アリスへ向けて蹴っ飛ばした。
飛んだ瞬間を見計らい、ダッシュでファントムナイト側に。
「うおおおおおっ!」
ギギッギギギギッ!
「だりゃぁっ!」
攻撃はしない、僕はファントムナイトの足元をスライディングで通り抜ける。
そして。
「転がってろぉっ!」
背後を上手く取った後は、膝裏に手刀を思いっきりいれて、体勢が崩れたファントムナイトの身体を勢い任せに押し倒した。
「まだまだぁ、ふんぬぅぅぅうううっ!」
重っ!
でも、これだけの重量があればっ!
ファントムナイトがうつ伏せに転がり、持っている武器を放したそれを拾い上げ……。
「ぬああああ、飛んっでけーっ!」
メチャクチャ重い大剣を持ち上げて、無理矢理遠心力を使い、アリスへ向けて投げ付ける。
「お前のターンはまだ来ないんだよっ!」
再度アリス側へ向かい走りながら、壁の一部を拾い上げての渾身のオーバースロー。
「ジャイロッボォォォールッっ!」
投げた物はアリスの見えない壁に遮られ、一つ目の壁片、送れて二つ目の大剣、更に三つ目の壁片全てが跳ね返り床へと落下する。
どうやらあの壁を展開(してるのか?)中は、アリス自身が動けないようだ。
「姑息です」
と言うアリスの表情は、長い前髪で分からない。
「逃げれば勝ちだっ何とでも言えっ!」
そのおかげもありアリスと僕の距離は、人一人分……この距離ならもう投擲は不可能、となれば、アリスは武器を振り下ろすか薙ぎ払うしか無い。
たった二択、その二択を更に絞らせる事だって可能。
僕はアリスが武器を持っている逆側から、一人分の間合いを一気に詰めた。
となれば、アリスが取れる行動は、薙ぎ払う事のたった一択。
ブオンッ!
利き腕とは逆から攻められれば、振り下ろす攻撃は当て辛い。
目論見通りの行動。
その薙ぎ払いを、前転で飛び避け、その下を潜り、アリスの横を上手く通過する。
「これでお前から逃げるのも三回目。ここを脱出すれば全て終わりだからもう会う事も無いだろうけどなっ!」
アリスが振り向くよりも早く。
「ぬあああああっ!」
リリカノさんから教えて貰った教室のドアを…………。
ガラッ!
開いたっ!
「普通に話せなかったのが残念だけど、じゃあな、アリスッ!」
一瞬だけ見えたアリスの表情は……やっぱり長い髪で隠れていて見る事は出来なかった、そして…………。
「……僕の部屋だ…………おおお、戻った、戻ってこれたぁっ!」
やっったぁぁぁあああああっ!
「って、あれ? 身体が男に戻ってない?」
あ、あぁ、そうか、これはリリカノさんの雷撃目印が原因だし、リリカノさんに解除されなくちゃいけない、って事だろう。
そうだ、戻って来た事、リリカノさんに報告しなきゃな。
ピリリリリリ、ピリリリリリ。
「うお、びっくりした……」
スマートフォンを手に取った瞬間、着信音が激しい音で鳴り響き。
相手は当然リリカノさん。
「もしもし、リリカノさん。僕戻って来れ」
『初音さんっ大変な事になったわっ!』
僕の言葉を遮るリリカノさんの声は、今までに聞いた事が無いような焦りが感じ取れる。
嫌な予感……まだ、終わりじゃない……のか。
「ど、どうしたんですか?!」
『高瀬さんが帰って来れていないのっ!』
「なっ! え?!」
A Preview
「初音くん、ここで満を持してオープニング曲の開始だよ」
「オープニング、曲?」
「アニメになったら、あるでしょ? 途中で曲が流れ始めたり、終わりに流れたりする演出が」
「って遅いからっ! せめて第一話で組み込むんだよっ!」
「えっと、今は八話、だね」
「1クール放送だったら、もう終わりに近いっ佳境だってのっ!」
「そうなの? どうしよう、エンディング曲、出来てないのに」
「見切り発車過ぎるでしょっ! せめて始めと終わりくらいの曲は作ろうよっ!」
「実は他にも問題があってね。制作が追い付いていないってさ。だからね、次は総集編」
「でたよ、総集編っ!」
「その次の回はね、総集編2」
「おいっ!」
「んっと、その次は、おさらい編」
「どれだけ伸ばすんだよっ! ある意味伝説になるわっ!」
「では、ここからオープニングの始まりです」
「…………待てこらぁーっ! ほっとんど僕が『目がー』をしているシーンじゃないかよっ! しかも使いまわしっ!」
「あ、バレちゃったかな? 急ピッチで作ったから」
「そっこー終わるわ、そんな酷いアニメ始まったら……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます