レーデンヤの呪術式 -幼女化xヤンデレx異世界バトル-

ラノ

第一章 高瀬鈴/アリス・ザ・ナイトメア編

No.001

 四月十九日。

 午後四時前。

 生徒玄関。

 待ちに待った放課後になり、僕は自分のクラスである二年C組の教室から、ダッシュで生徒玄関へとやって来た。

 今日は新作のテレビゲームが発売される日。

 ダウンロード購入なので直接店へ買いに行く必要が無く、ディスクを交換せずとも起動出来るのだから、パッケージ版とは違うメリットが存在し、ダウンロード版だって捨てたモノでは無いと思う。

 さすがに高校二年にもなって、ゲームがプレイしたいから走って帰るのははばかれる……と、言いながらもさっき、ダッシュしたのは何処のどいつやら。

 外履きに靴を履き替え、生徒玄関を後にし、早く帰りたい衝動を抑えながら校門を横切ろうとしたその時。

 バチンッ!

「ぴぎゃああああぁぁぁあああっ!」

 ビリビリバリバリバリーッと音を立てながら、身体を電流が物凄い速さで、足の裏から頭の先へと突き抜けて行った。

 二次元世界だったらおそらく、明滅しつつ骨人間の画が映された事だろう。

「あが……あがががが……」

 ドサリ。

 なんで……足元から、電撃が……?

 その場に崩れ落ちながら、僕の意識は徐々に遠くなって行く。

 ……なんて事だ……新作ゲームをプレイせずして、僕は死んでしまうのか?

 理不尽だ……せめて、新作ゲームだけでもクリアしてからにして欲しい……。

 いや……そんな事よりも、パソコンのハードディスクの中身を削除する時間だけでいいから与えて貰いたい。

 ネットの閲覧履歴とかも。

 そうなるとスマートフォンも対象になる。

 頼むよっ神様っ、破壊するだけ、水没するだけでもいいからハードディスクとスマートフォンを読み取れないようにさせてくれぇぇええっ!

「はっ?!」

 あ、れ?

 ここ……は?

 目を開けた直後、視界に入って来た景色は……真っ白な天井?

「う、ん……」

 首を動かして左右を確認すると、どうやら僕はベッドの上に寝ているようだ。

「えっと……」

 消毒液独特の匂いに気付き、今、自分が保健室のベッドの上に寝ている事へようやく気付く。

 ここが保健室って事なら…………。

「良かった……ちゃんと生きてる……」

 誰か運んでくれたのか……?

 校門で倒れたのが不幸中の幸い。

 誰も通らないような場所だったら、そのまま放置死……なんて事も有り得たわけだ。

 倒れた後から、こうして目を覚ますまでの記憶は全く無い。

 頭が少しぼぉっとするけれど、特別これと言って痛む部分も無いし、このまま帰っても問題無いような気がする。

 ええっと、今の時間は……枕元に置かれている自分のスマートフォンを手に取って時間を確認すると…………午後六時前、だと……?!

 放課後になってから僕は二時間もの間、保健室で寝ていたって事になるっ?!

「こ、こうしちゃいられないっ!」

 僕にはやるべき事があるんだよっ!

 電撃がどうして足元から流れて来たのか不思議ではあるが、僕に取っては新作ゲームの方が優先事項っ!

 出遅れた分を取り戻す為に周りを気にせずダッシュで帰ろうっ!

 あ、あとついでに……今度こそ突然死を迎えた時に、ハードディスクが自然消去される手段も考えておかなくちゃ……。

「荷物っリュックは何処っ?! あっち側かっ?!」

 急いでベッドから飛び出して、保健医の先生がいるだろうと思われる向こう側へと第一歩を踏み出す。

 キュッ。

「え?」

 ピーン。

 ビターンッ!

「おごおおおおお、鼻がぁっ! 鼻が壊れるぅぅぅっ!」

 スラックスの裾を思いっきり自分で踏み付けてしまい、そのままの勢いで防御行動も出来ずモロに床へ顔面からダイブした。

 あまりの痛さに、ゴロンゴロンとのたうち回っていると、ベッドの周りを覆っているカーテンが開け放たれ、声を掛けられる。

「目が覚めたようね」

「?!」

 床に転がったまま見上げた先には……白い天井とは違う、白いモノ。

 白い天井なんかよりも、ずっと白いっ!

 当社比五十倍くらいっ!

 酵素パワーも恐れ戦く白さだぞっ!

 打ち付けた時に鼻血は出なかったが、今、違う意味で出てしまいそうっ!

「いつまで転がっているつもしかしら?」

 それは、いつまででもっ!

 こんなタナボタシチュエーション早々無いし、鼻の痛みくらいなんて事は無いっ!

 むしろ回復しちゃうっ!

「そろそろその顔を踏み付けてもいいのだけれど、それでいいかしら?」

「めっ、滅相も無いですっ!」

 まだジンジンする鼻を、更に踏み付けられたら本当に鼻が壊れちゃうっ!

 残念だが仕方無い、ここは大人しく起き上がる事にしよう……鼻、大切だしね。

 慌ててその場に立ち上がった僕は、自分自身の身体に言い様の無い違和感を感じた。

「……」

 ……何だか全体的に景色が高い感じがする。

「…………」

 …………胸が重いので、触ってみる。

 ぷにゅんぷにゅん。

 何、これ?

 手に収まりきらないソフトボールサイズよりも大きく柔らかい塊が二つ。

「………………」

 ………………下半身のバランスが変なので、触ってみる。

 ペッタンコ。

 あ、れ?

 いやいやっそんなまさかっ!

 慌てて手を突っ込んでみた。

「ジュニアアアアアアアアァァァァ!」

 無い……無くなっている……真面目に……本気で無くなっているっ!

「はっ?! まさか、アイツ……バランサーの役目をっ?! そうか、だからバランスが悪いのかっ!」

「どうせ無かったようなモノでしょう? あなたの貧相なXXXの事はどうでもいいとして」

「どうでも良く無いよっ!」

「代わりにXXXがあるでしょう?」

「男の僕でも引くくらいハッキリ言う女子はいかがなモンでしょうねぇっ!」

 諸事情によりXXXの部分は、色々な擬音が流れていると思って頂ければ幸いだ。

「ほら、そこに姿見があるでしょう? それで一度自分の姿を見てご覧なさいな」

 パッチリ二重の青色の瞳、ピンクブロンドのツヤツヤキラキラの長い髪の女子生徒に言われるがまま(うちの学校にこんな子いたっけ?)、保健室の隅に置いてある二メートル程の姿見へと自分の姿を映すと……。

「やっぱり女になってるぅぅぅうううう!」

 全く持って僕自身の面影は無く、身長が一メートル三十センチくらい、髪が特徴的で腰まであるロングに、そして、顔一つ一つのパーツにしても男の時とは全く違い、目は大きな猫目、鼻及び口のサイズは小さく、それはゲームで例えるならキャラクリエイト時に、女子用パーツとしての分類になるだろう見た目そのもので……挙げ句、声も違うと来たっ!

「そ、そうかぁ、これはまだ夢の続きなんだろうなぁ……うはは……」

「本当にそう思っているの?」

 あぁ、分かってるさ、そんな事、言われるまでも無く、夢と現実の区別くらいは付いている……今、ここは正しく現実でリアルの世界。

 僕が寝ている間に改造されたとか、整形されたとか……は、無いだろう……たかだか数時間で整形出来るわけが無い……元より改造なんて更に有り得ない……。

 じゃあ、考えられる事は。

「……あの電撃だよ、な」

 となれば……もう一度あれを浴びる事で直る可能性は、ゼロでは無い……それで直って貰わないとむしろ困る。

「えぇっと……君がここまで運んでくれたの? とにかくありがとうっ、このお礼は後でちゃんとするっ! けど、今すぐに僕はやるべき事が出来たから悪いけどこれでっ!」

 日本人……では無い(と思う)女子生徒へ早口で告げ、とにもかくにも僕は校門へ向かう事にする。

「ちょっと待ちなさい」

 淡々と抑揚無く、いかにも面倒くさそうな言い方が特徴的な、僕と同じ背丈の女子生徒は続けて言う。

「その事について説明をするから、これから少し時間を貰えるかしら?」

「十分後くらいじゃダメ?」

 先ずは何よりもあの場所へ急ぎたいっ!

 下手をすれば、電撃が起こる現象が無くなっているかもしれないしっ!

「すぐ戻って来るから少し待っててっ!」

 女子生徒の返事も聞かずに急いで保健室を出る。

 キュッ。

 ピーン。

 ビターンッ!

「ほぎょおおおおおっ! 鼻っ! 鼻がぁああああぁぁぁっ!」

 さすがに二度目はメチャクチャ痛いっ!

 鼻、砕けてペッタンコになっちゃったんじゃないのかっ!

 激痛を紛らわせようと、床をゴロンゴロンとさっきよりも高速に転げ回る。

「行っても意味は無いわ。同じ現象はもう起き無いから」

「ひょれならひょうとひゃきにひゅってひょっ!」

「あなたが、私の言う事を聞こうとしないから悪いのよ」

「ひょれにひひゃって、ひゅみつけることないひゃないひゃっ!」

「そうでもしなければ、私の事なんて放り出して出て行ったでしょう? 自業自得よ」

 可愛い顔してるくせに当たりが厳しいなぁおいっ!

 僕の余りに余るスラックスの裾を踏ん付けるだもんっ!

 たぶん、踏まれるまでも無く、僕は自分でもう一度同じ過ちを繰り返していたと思う……だって、服のサイズが合わない事をすっかり忘れていたのだから。

「さぁ、ほら立ちなさい。時間が惜しいからこれに着替えて」

 手を貸してくれるわけでも無く、一方的に僕へ渡して来た物は……。

「女子用の制服と内履き……?」

 鼻を擦りつつ手渡された物を見て、怪訝な表情を僕は浮かべる。

「……せめてジャージとか」

 女子用の制服を着ろって言われても……さすがに抵抗があるって……。

「ただでさえその背丈のせいで目立つのだから、周りと同じ格好をした方が利口でしょう?」

 ……一理ある……木を隠すには森の中って事、か。

「それに着替えた後で説明をして上げるわ。着替え終わった元の制服はちゃんと保管して置きなさい。ほら、分かったのならさっさと動いて」

 ぐぬぬ、言われるがままってのが、少し癪に障るけれど……何か事情を知っているみたいだし、大人しく従う事にしよう。

 下手に逆らって、説明して貰えなくなってしまっては困る。

 こんな姿のままでは普通に生活する事だって、相当困難になるのは目に見えているわけだし……今は言う事を聞いておくか。

「まったく……何が起こってるんだよ……」

 グチグチと文句を垂れつつ、今着ている長くなった制服を脱ぎ始める。

 こんな馬鹿げた事象、今時の二次元モノにだって採用されないっての。

 女体化なんてのは流行らないってのに……時代は繰り返す、と言うけれど、何で僕の身体で繰り返す羽目に……そもそもちゃんと直るんだろうか……?

 まさか、一生このまま……なんて事にはならないだろうな……?

「ちょっと、着替えるならそっちで着替えてちょうだい。まぁ、あなたが誰かに見て貰いたい露出狂の変態だと言うなら、見てあげるけれど、その代わり百万払いなさい」

「何で僕が払う側っ?!」

「見たいとは思わない物を、勝手に見せられるのだから当然でしょう。幸いXXXが無いから、九百万程下げてあげているのよ? 感謝なさい」

 無くなった僕のジュニアは、散々なディスられっぷりだ。

 そっち、と言うのは、僕がさっきまで寝ていたベッドの場所。

 どうせ今は同じ性別なんだし、細かい事気にしなくてもいいと思うのに。

 心の中で悪態を付き、僕は言われたようにカーテンを閉めて、そっち側で着替える事にする。

「私、この学園の一年でリリカノ=フランジュ=ティーキッス。よろしく」

「やっぱり外の国の人?」

 まぁ、日本人離れしてる容姿だし、黒髪じゃないし、薄々はそうだろうと思っていたけれど……それにしたって、何処の国からやって来たんだ?

 一年って事は新入生か…………妙に大人びていると言うか、上から目線で物事を言うから上級生だとばかり思っていたけど……まさかの年下……。

「見れば分かるでしょう? 名目上一年生と言う事になっているけれど、実際、授業には出ていないし、クラスだって与えられていないわ」

 二学期デビューならぬ新入生デビューだと?!

「サボリ……不良は良く無い」

 上級生らしい事を一応言ってはみる……が、強くは言えない。

 だって、あんな小さいのに、実は物すっごいケンカ慣れしてるかもしれないじゃないかっ!

 殴られたら痛いしっ怖いもんっ!

「そうじゃないわ。私、すでに大学卒業資格を持っているから、今更高校の授業を受ける意味が無いってだけ」

「え……? じゃあ、二十歳超えているって事?」

 着替えながら気になる事を質問して行く。

「いいえ、年齢は十六よ」

 本当に天才ってのは存在するって事か……出来が良過ぎて高校を飛ばしたって事だろう……実在するんだなぁ、そんな人間が。

 十六って事は……中学も飛ばした?

 外国は義務教育なんて関係無い?

 十六歳で大学卒業資格にも当然ながら唖然としちゃったけど、ついでに、もう一つ唖然とする事実が目の前に。

「あの……えっと、リリ……ごめんなさい、名前何でしたっけ?」

 長くてスッカリ覚え切れていない。

「リリカノでいいわ。それで、何かしら?」

「リリカノさん……えっと、ですね……これ、下着も着用しろって事、でしょうか……?」

「当たり前でしょう? ブラもショーツも渡した物を身に付けなさい」

「……そんな簡単に言いますけど」

 どうやって着るモノなんだよ、これ……。

 ブラを手に取って見る。

 真っ白で一般的なモノなんだろうけど……生地の触り心地が妙に良い。

「下着、上下合わせて五万円」

「高っ!」

 プレステ買えるじゃんっ!

「サイズは大丈夫なはず。あなたが寝ている最中に調べさせて貰ったから」

「寝込みを襲うなんて卑怯だぞっ!」

「減る物じゃあるまいし、いいからさったと着用なさい」

 人事だと思って、アッサリ言ってくれる……。

 まぁ、僕も彼女側だったら、他人の事なんて気にもしないだろうけどさ。

「ねぇ、あなた、名前は?」

「あぁ、そうか言ってなかったですね……僕は二年C組で初音七(はつね なな)です」

「ふーん、初音ミクさんね」

「……いえ、違います」

「冗談よ」

「……でしょうね」

 話し方のせいで、冗談か本気か全く持って検討が付かない面倒くさそうな口調。

 それはそうと、ボーカロイドを知っている事に、少なからず驚いてしまう。

 世界規模で有名だしなぁ……当然と言えば当然、なのかも。

「初音さん、着替え、まだ終わらないのかしら?」

「……何て言うか、覚悟が決まらないって言うのか……勇気が出ないって言うのか……」

「女用の下着なんてなかなか見れないだろうし、興味があって悦びながら着るのかと思っていたわ。あぁ、ちなみに悦ぶは、快楽の悦ぶだから。ふぅ、気持ち悪い」

「悦んでませんよっ!」

「あぁ、そう、分かったわ。それは家に帰ってからゆっくりしなさいな」

「はい? えっと、何が分かったんですか……?」

 勝手に結論を出しているけれど、その結論は嫌な予感しかしない。

「胸を触るのもXXXを広げるのも、後で好きなだけすればいいって事よ」

「しねぇよっ!」

 今のは冗談で言っている感じはしなかった。

「初音さん」

「…………」

 うーぬぬぬぬ、これ、本当に着なくちゃならないのか……?

 本当に胸が重いし……下は無くなってバランス悪いし…………信じられないような事が起こっているわけだけど、こうして実際なってみると別に喜ばしい事なんて何も無い。

「初音さん、聞いているの?」

「え、あぁ、はい…………呼びました?」

 女になった事と女用の下着を着ろと言われた事で頭がいっぱいになり、自分が呼ばれている事に気付かなかった。

「あなたもこの学校の生徒であれば、聞いた事があるでしょう? 殴打や斬刺による重体者が今も意識不明のまま入院している事を」

「……ここ最近多いですね。警察が来ているのを何度か見た事もあります」

 それは当然知っている……何人か立て続けに、リリカノさんが言うような生徒が、僕の学校内で発見されていると言う事を。

 この状況でその事を尋ねられたとなれば……。

「それと、これ…………姿が変わっている事って関係があるって事ですか……?」

「あなたがどれ程今の現状を軽視しているかは分からないけれど、何とかなるだろう、なんて考えは止めなさい。何とかしなければならない事なのよ。被害者の一人になりたくないのならね」

 確かに言われた通りだ……僕は自分の身に起こっている事を深刻に受け止めてはいない。

 根拠は無いけれど、たぶん、何とかなるだろう、しばらくすれば元に戻る……そんな風に軽く受け止めているのが正直なところだったけれど、まさか、そこへ繋がりが出来るだなんて思ってもいなかった。

 このままだと、僕もその一人になり兼ねない……リリカノさんはそう言っている。

「ようやく少しは事の重大さを理解出来たのかしら? だからこそ、説明してあげると言っているの。分かったのなら、早く着替えてちょうだい」

 噂によれば、入院している生徒達の被害は相当凄惨なモノだったらしく、生きている事が奇跡に近いとまで言われ、警察の見解だと、重度な怨恨の線が妥当、との事らしい。

 らしい、と言うのは、今現在も真実が分からない状況の為。

 これから先どうなるか検討も付かないとなれば、まずは、リリカノさんから説明をして貰って、その後どうするかを考えるべきだろう……身の危険が掛かっているんだ……着替えくらいでぐだぐだ言っている場合では無い…………のだけれど。

「リリカノさん……何故、オーバーニーを? 普通の靴下は?」

 一言言わないと気が済まないわけで。

 着替え終わった僕は、ベッドのカーテンを開けて、リリカノさんがいる側へと戻る。

「男はみんなそれが好きなんでしょう?」

「否定はしない……いや、むしろ好きだけどっ自分が穿くって意味じゃないんですっ!」

「お願い、気持ち悪いから近寄らないで」

 その視線は、汚らわしい物を見るような冷酷さ。

「本当に僕よりも年下なんですか?!」

 年上相手によくも遠慮無くズバズバ言えるものだ。

 僕だったら、絶対無理。

 基本的に心はチキンなので、誰に対しても、気さくに声を掛ける事すらままならない。

「一つ二つしか違わないのに、上も下も大差無いでしょう? たかが一年の違いで、年上だから偉いなんて考えは今すぐに止めるべきだわ。それに、そう言うあたなは自分が年上なのに、何故、私へ敬語を使うわけ?」

「それは……リリカノさんが、僕よりもずっと人生経験豊富な気がするから……」

 これは当然の事だと思う。

 もうすでに大学を卒業までしちゃっているのだから、高校すら卒業していない僕の言う事なんて、リリカノさんからすれば子供の戯言程度にしか感じられないだろう。

「私、こう見えても社会人だから、あなたよりは人生経験豊富よ。あぁ、ただ、まだ処女だから、セックスに関しては全くの素人ね」

「論点がずれているけど、悪く無い情報をありがとうございますっ!」

 例え自分のものにならないとしても、リリカノさんがすでに経験済みだと知ってしまったら、絶対に僕は残念な気持ちを抱く事だろう。

 まだ、誰のモノにもなっていない……それだけで安堵感は、天と地程の差がある。

「ふむ、それなりに似合っているわ。どうしてもそれが嫌なら、自分で替えを用意してくださいな」

 替えって言われても、元の姿の時の靴下じゃ変だろうし……買わないとダメ、だろうな。

 この姿が今日中に直ればそれでいいけど、もし、明日もって事になれば、靴下だけじゃなくて、私服も買う事を考えないといけないのか……。

「着替えが済んだようだから、行くわよ」

「何処へ、ですか?」

「あなたの教室へ、その制服を置きに。教室は何処? 二年C組だったかしら?」

「はい、そうです」

「そう、じゃあ、案内してくれる? 私、まだこの学校の事を良く知らないから」

 自分のリュックを手に持ちリリカノさんよりも半歩先に出て、二年C組を目指す。

「あの……これじゃあ、僕、不法侵入になります、よね?」

「大丈夫よ。あなたの事は、誰が見てもあなたは前からその姿だったと認識するから」

「そ、そうなんですか……?」

 そもそも同じ学校の制服着ていれば、初見でこの学校の生徒じゃない、なんて見分けは付かないだろう……相当違和感ある姿じゃなければ、だけど。

「リリカノさん、これなんなんです? 未知のウィルス……?」

 これとは女体化兼低身長の事。

「ウィルスのほうがまだ良かったかもしれないわ。抗体さえ完成すれば治るのだから」

「……ウィルス以上に厄介って事、ですか?」

 なんだよ、それ。

 未知のウィルスだって、厄介なんてものじゃないはず。

 抗体が出来なければ死ぬ事だって有り得るってのに……それがまだ良かったって?

「一言で言えば、呪いよ」

「へ? 呪い……オマジナイの呪い?」

「ええ、その通り。ついさっき、社会人だと言ったのを覚えているかしら?」

「はい」

「私は生まれ付き見える側の人間だったから、フリーでオカルト関係の事を仕事として生きているの。悪霊や悪魔退治、呪術の解除、憑依霊の除霊と、まぁ、オカルト全般の事をね」

 シレッと言っているけれど、見えない側の僕にしてみたら作り話のような職業だ。

 それにリリカノさんを見る限り、全然そんな感じが見受けられない。

「あなた、今、嘘だと思ったでしょう?」

「……だって、そんな風に全く見えないですし」

 どう見たって良くて中学生……下手すれば小学生に見えてしまう。

 夜七時以降、外を出歩いていたら補導される事確定だ。

「見た目で人を判断するのは、あまり褒められたモノでは無いわ」

「……小学生に見えてしまって」

「初音さん、こっちを見てくれるかしら?」

 半歩後ろから付いて来ているリリカノさんへ、言われるがまま向き直る。

 何だ?

 何か良い物でも拝ませてくれるのか?

 と言っても、さっきすでにいいモノは見ちゃっているけどさ。

 ズビッ!

「ぎゃひぃっ! 目がぁっ! 目がぁぁぁああっ!」

 振り向き様の目潰し攻撃。

「全く、誰のせいでこんなに小さくなったと思っているの」

「知らないですよっ!」

 くぅっ、一切の戸惑いも無く、両目に指を突っ込んで来るとはっ!

 末恐ろしい幼女!

「まぁ、あなたが悪いわけでは無いから、あなたに抗議したところで意味は無いけれど」

「それなら目潰ししなくてもいいでしょっ!」

 我ながら何て的確な返答だろうか。

 自分で自分を褒めてあげたい。

「悪かったわ。さぁ、ほら、教室へ案内を続けてちょうだい」

「……リリカノさんの特有な喋り方のせいで、全然悪気があるように感じ無いです」

「仕方無いでしょう? これはもう霊感と同じで生まれ付きなのだから」

 目から涙を流しながら、チクチクとリリカノさんを責めては見るものの、当の本人を見ればお澄まし顔で別段気にした様子はこれっぽっちも感じられない。

 うーむ、やっぱり、学生の僕と、すでに社会人のリリカノさんとでは精神年齢が違うって事なのか……お子様の戯言なんて付き合っていられないわね、こんな感じ?

「ねぇ、初音さん」

 サッ!

 両手で両目を隠す。

「何よ、それ」

「また目をヤラレルのかと思って防御を……」

「お馬鹿。二度も同じ事をしないわよ。もしするとしたら、また別の事をするわ」

 えげつない。

「それで何ですか?」

 目を防御した両手を下ろ、ズビッ!

「ひぎゃあっ! 目がぁっ! お目めがぁぁああっ! 嘘付きーっ!」

 さすがに二度連続となると痛さは倍増。

 僕は床をのたうち回る。

「さっき初めて会ったばかりの人間相手によくそんな事が出来ますよねぇっ!」

 ゴロンゴロンしながらリリカノさんへ抗議する。

「信用し過ぎよ。もっと警戒心を持ちなさい。世の中には人の良さに付け入る悪い人間だっているのだから」

 言っている事は最もだけど、同じ学校に通っている人間相手に警戒しろって言われても、それは無茶があるってモノだ。

「ほら、制服が汚れちゃうでしょう? いつまでも転がっていないで立ちなさい」

「……誰のせいだと思っているんですかっ」

 可愛い顔してるくせに……鬼だわ、この幼女。

「質問、続けても良いかしら? 今日からあなたと私は気兼ね無いお友達、と思っても問題は無い、と言う事でいいわよね?」

「あぁ、はい、全く持って…………ええっ?! マジでっ?!」

 こっ、こんな可愛い子と、今からお友達だってぇぇ?!

 改めてリリカノさんを見る。

 パッチリ二重の青色の瞳、ピンクブロンドのツヤツヤキラキラの長い髪、身長は低いのに……あのボリュームたっぷりな胸……ロリ巨乳、ここに極まれり、さらに付け足せば、黒ストッキングと来ているから……これはもう、二次元好きであればむせび泣いて喜ぶ事必至っ!

 ちょっと狂暴なのはこの際目を瞑ろう。

 被害に遭った前例者には悪いけれど……今思っている正直な気持ちを敢えて言いたい。

 呪いだか何だか知らないけれど、良い事もあるじゃないかっ!

 ふはははっ、呪いよっ、残念だったなぁっ!

 お前は僕が愕然と落胆し、絶望するだろう姿を思い浮かべていたんだろうけど、そうは行かないぞっ!

 むしろ、ありがとうと言ってやろうじゃないかっ!

 思い返せば女子と会話をした機会なんて、学校行事の受け答えくらいだったんだから、お前には感謝せざるを得ないっ!

 なんなら菓子折りも付けてやろうかっ?

「望むならセックスフレンドでもいいけれど?」

 僕の第六感が告げている……ここの選択肢はとても重要だ、と。

 間違えて選択すれば、死亡フラグ確定のバッドエンドへまっしぐら。

「…………それは、遠慮しておきます」

「懸命な判断ね」

「もし、よろしくお願いしますって言ったら……?」

「死を選んだ方がマシだと感じるくらい、悲惨な絶望を与えてあげる」

 一瞬、ヒャッホーって言いそうになったのは言うまでも無いけど、この人だったら、本当にやり遂げそう……いや、やり遂げる…………。

「あぁ、そうそう、この学校へ来てから、あなたが最初のお友達」

 ”最初”か。

 心地良い響きだ……最初の友達、最初の恋人、最初のえっち相手。

 ふむ、最初のって言葉を付けると、何でも心地良く感じるのかもしれないな。

 ネガティブな言葉にくっ付けたらどうなるんだろう?

 最初の浮気相手。

 うむ、まぁ、これはこれで……誰かから愛を奪ったって感じも悪く無い。

 最初の喧嘩相手。

 ま、まぁ、喧嘩する程仲が良いって言うし、及第点。

 最初の被害者。

 って、何があったんだよっ?!

 最初の犠牲者。

 被害者と大差無いけど、嫌な響きだなぁっおい!

 結論……付けるべき言葉にもよる、と。

「リリカノさん、友達はいないんですか?」

「いつこの国からいなくなるか分からないでしょう? あまり知人を増やすと呪術の解除に取れる時間が少なくなるじゃない。まぁ、無駄に知人を増やしてしまうと、干渉されて鬱陶しいから嫌なのよ」

「あぁ、リリカノさんって、何となくそんな感じしま……うっ?!」

 自分の教室へ向かっていると、廊下の向こう側から、僕の担任の先生が歩いて来るのに気付いて、リリカノさんの後ろへと隠れる。

 大丈夫とは言われているが、さすがにいざ顔見知りを前にすると、あまり見られたく無いし、出来れば引き返してやり過ごしたい気分になる。

「何?」

 囁くようにリリカノさんへ言う。

「……前から来る女の先生、僕のクラスの担任の先生なんですよっ」

「隠れるような事でもしたの?」

「この姿を見られたく無いってだけですっ!」

「聞いて無かったの? さっき言ったでしょう? あなたは元々その姿だと認識されるって」

「そ、それはそうですけど……やっぱり不安ですよっ」

「普段通りに接してご覧なさい。その方があなたに取っても、気持ちが晴れるから」

「そうは言いますけど……」

 このままリリカノさんの影に隠れていたい……と思っていた矢先。

「お疲れ様です、先生」

 なっなんて事をっ!

 リリカノさんは僕の担任の先生へ、先に声を掛ける所業に出た。

「まだ学校に残っているの?」

「彼女が教室へ用事があると言うから、その用を済ませて帰ります」

 わざと僕に先生の視線が向くような発言。

 鬼だっ、ホントに鬼っ!

「あら、初音くんの事だったのね」

「……」

 マジで?

 先生は僕の姿を見て、何の躊躇いもなく『初音くん』と言う。

 見た目は女子生徒だってのに、敬称が『くん』。

 自分自身の発言におかしいと思わないのか……?

「もうすぐ下校時間になるから、用事は早めに済ませて帰りなさい」

「……は、はい」

「では、先生。失礼します」

「はい、さようなら」

 先生はひらひらと手を振って、僕達が歩いて来た方向へ、それ以上は何も言う事無く行ってしまった。

「……マジ、か?」

「そんなに硬くなる必要無いじゃないの。あぁ、もう硬くするXXXが無くなっていたわね」

「もっと恥じらいってモノは無いんですかっ?!」

「元気じゃないの」

 そりゃね、年頃の女子が平然とそんな卑猥な言葉を言えば誰だって、どんな健康状態にあったとしても、一言くらい言っちゃうっての。

「ほら、教室はもうすぐでしょう? さっさと制服をロッカーに閉まって帰るわよ」

「……思ったんですけど、もし、突然直った場所が外だったりしたら?」

「せめてモザイクを掛けてあげるわ」

「そこまで酷い様相にっ……なりますよね……」

 このサイズの女子用制服のまま、男の姿に戻るわけだから……一生トラウマになっちゃいそうだよ。

「まぁ……見られたとしても、どうせ周りから避けられているのは今更だから、いいですけど……」

「避けられているって初音さん、苛めにでもあっているの?」

「えっと……んー、苛めとは違うと思います。嫌がらせを受けているわけでは無くて、ただ避けられているってだけですから」

「あなた、どんな変態行為をしたと言うのよ?」

「変態行為なんてしてませんっ!」

「もう済んだ事なのだから、別に隠す必要は無いじゃない。言ってご覧なさいな、変態さん」

「……だから変態行為じゃないですから」

「女子の縦笛でも舐めたとか? 制服を着たとか? あぁ、スクール水着を被った、とかでしょ?」

「……どうしても僕を変態にしたいわけですか」

「だって、それくらいしか思い付かないもの」

 それくらいって……それだけ思い付けば充分だって……。

 リリカノさんがこの学校の生徒なら、近い内にたぶん自然と耳に入るだろうから、隠す必要は無い、か…………。

「……僕が中学一年の時だったんですけど」

「実は僕、着替え中の女子更衣室を覗いたんです。それ以来」

「僕の口調真似て言わないでっ!」

「じゃあ、何をしたと言うのよ?」

「……聞いても詰まらないです、よ?」

「マッチョな男達に輪姦されてしまったんです、それが学校中に知れ渡っ」

「だーはっ! ややこしいですから、それ止めてくださいっ!」

「全く。会話が進まないじゃないの」

 誰のせいだよ…………。

「話したく無いってわけじゃないですけど、全然大した理由じゃないですからね」

 と告げてから、本当に大した理由じゃない避けられている理由を、リリカノさんへ話しをした。

 高校の入学式の前日の事になる。

 僕は日課となっていた習い事の卒業認定を受けていたのだけれど、その時、調子に乗って相手に全力で掛かって来るようにと申し出た。

「習い事?」

「分かり易く言えば格闘術、です。世の中何が起こるか分からないから自分の身を守る為に習っておけって母が……」

「ふーん、勉強は学校で教えてくれるけれど、格闘術なんて教えてくれないものね。とても賢明は判断だと思うわ」

 これまで何年も続けて教わって来たのだから、相手がどんなチートな才能を持っていたとしても、それなりに対応出来る…………なんてのは全くの思い上がりで、すっごい重い一撃を食らい、左目の周辺が見るも無残に晴れ上がる事になって、入学式当日だと言うのに大事を取り病院で診察を受け、入学式に遅刻して行った挙句、左目全体を覆う為に施された、グルグル巻きの包帯姿の人物を見たクラスメイト達は……完全に引いてしまっていた。

「それ以来……ずっと避けられてしまって……」

「要するに、あなた、避けられていると言うよりも、周囲から怖がられているのでは?」

「えっと……まぁ、実の所はそうです……危険人物扱いですよ……」

 最初は誤解を解く為に周囲へそれと無く話をしていたのだけれど、口々に僕の言う事へ『分かった』とは言ってはいたものの、愛想笑いだったり目を合わせて貰えなかったりで、態度を見れば僕の言う事なんて全く信じて貰えていない事は気付いていた。

 そんな事を入学してから一ヶ月余り繰り返したけれど、僕の言う事は信じて貰え無いばかりか、ドンドン勝手に根も葉もない嘘の噂が密かにやり取りされるようになり、もう面倒だからこのままにしておこう、と思うようになって今に至っている。

 一度付いた悪い印象のレッテルは、事実じゃないにしても、そう簡単に取れるものでは無い……。

 毎日喧嘩に明け暮れているとか、百人相手に全員一撃で落としたとか…………はたまた異世界でバトルしてる、とか……そんな噂が広まって、それを周囲が信じて危険人物だと思っているのだから……誤解を解く努力をしたくなくなるってモノだ。

「初音さんが避けられている理由は、だいたい分かったわ」

「分かったって……それ、だけですか? 周りは僕を危険人物だと思って避けているんですよ?」

「周りがどう感じて、何を言おうが関係無いわよ。私は私が感じた通りに行動するだけだもの。周りの意見と違うからと言って、自分の気持ちを捩じ曲げるような事はしたく無いわね」

「……けど、僕と一緒に行動したら、リリカノさんも何か陰口を言われたりするかもしれないじゃないですか」

 集団行動なんてのは何処だってそう言うものだ。

 集団が黒と言えば、白だって黒になる。

 集団と違う行動を取った時に、自分が集団から何かすらのリスクを負う事になってしまうかもしれない……だから、自分の気持ちを押し殺してでも、白だろうと黒を選ぶ。

 それが……きっと、普通の行動……だから僕の誤解だと言う意見なんて、誰も端から聞いてくれる事なんて無かったのだろう。

「初音さん、面倒臭い性格だと言われない? あぁ、避けられて友人がいないから言われる事も無かったわね、ごめんなさい、辛い事を再認識させてしまって」

「マジで泣いちゃいますよっ?!」

 人の心を抉らせたら、この人は絶対に一番右の人だ。

「先に言っておくけれど、私、本音が建前よりも先に出るタイプだから。あなたの心が病んでしまっても責任は取らない」

 酷く辛辣な事を言っているけれど、再度リリカノさんに確認を取る。

「リリカノさん……真面目に友達だと思ってもいいんですか……?」

「本来であればそんな事聞くまでも無いし言うまでも無い事だけれど、ええ、それは約束してあげる」

「リ、リリカノさーんっ!」

 ヒッシッ!

 嬉しさのあまり、リリカノさんへ飛び付いた。

「ちょっと、こら、ドサクサに紛れて何をするのっ」

「心底嬉しくてっ! 僕、絶対にリリカノさんから離れませんからねっ!」

「分かったから。とにかく離れてくれるかしら? コロスわよ?」

「ひぃぃっ…………ごめんなさいっ」

 ちょー怖かった……視線だけで人を殺せるんじゃないかってくらい……。

 でも言い方に棘があって、どこか冷たい印象もあるけれど、抱き付いた時のリリカノさんはとってもあったかかった。

 ん、待て、よ……?

 もしかして、もしかすると……リリカノさんって……クーデレ体質なんじゃ無いのか?!

 そう考えると今までの発言だって、照れ隠しをする為に面倒くさそうな物言いだったと考えられる。

 そうに違い無いっ!

 仲良くなればきっと、デレッデレのデレリンコリリカノさんが見れるはずだっ!

「余りにも鬱陶しいようなら、排除するからそのつもりで」

「分かってます、分かってますよっ」

 その発言はクーデレのクーだって事。

 そう思うと、棘のある言葉だって、可愛く思えて来るから不思議なものだ。

 むしろドンドン言って欲しいくらい……それは裏を返せば、照れているって事になるのだからっ!

「いまいち分かっていない気がするけれど、まぁ、いいわ。さっさと制服をロッカーに閉まって来なさいな。それと、もう少し話しがあるから生徒玄関に集合よ、いいわね?」

「はい、了解ですっ」

 二つ先の二年C組の教室まで小走りになってしまう。

 ひゃっほー、呪いよ、本当にありがとうっ!

 今の所、身体が女になったってだけだし、健康状態は良好、とりあえずこの姿でも暮らせそうな事も分かったんだから、なかなか悪く無い呪いの効果じゃないか……あくまでも、今の所、の話だけどさ。

 結局、事の重大さをないがしろにして意気揚々と、今まで着ていた制服をロッカーの奥へ仕舞い込み、僕は、マイフレンドリリカノさんのところへと戻る事にする。

「はぁ、彼……呪いの恐ろしさを何も分かっていないようね……先が思いやられそう」


A Preview

「リリカノさん、予告って言いますけど、何をすればいいんですか?」

「知らないわよ。私だって突然呼び出されたのだから。あぁでも、これを預かって来ていたわね」

「箱?」

「お題が入っている、と聞いているけれど?」

「……お題って……それ、予告をする意思、完全に無いじゃないですか。まぁ、引いてみますけど…………えぇっと、何々、初音七(変態)の特徴を述べよって、何だよっ! 括弧変態ってさぁっ!」

「あら、すでに括弧の中身が特徴を述べているじゃないの。簡単なお題目ね」

「明らかに悪意しか感じられないんですけどぉっ!」

「あなたに上げられるモノは悪意しか無い、と言う事でしょう」

「自分の好き勝手に解釈しないでくださいっ!」

「ほら、ちゃんと特徴を述べないと本当に変態で済まされるわよ?」

「うぐぐぐ……特徴って、一体何を言えばいいのか……適当過ぎません? このお題っての」

「身長とか体重とか、プロフィールの事でも言っておけば?」

「リリカノさんにしては、全うな解っすね……。えぇっと、初音七高校二年、十六歳。身長は169センチ、体重は」

「ちょっと待ちなさい」

「はい?」

「誰が男の時の特徴を言えと? 今の姿の事を言うべきでしょう? 誰も男の時のあなたになんて興味無いのだから」

「…………いや、この姿でも興味持たれるのは勘弁して欲しいんですけど」

「世の中の男なんて異性の外見しか見ていないのだから、初音さんが元男であっても受け入れてくれるわ。良かったわね」

「良くねぇっすっ!」

「あら? どうやら時間が来たらしいわ。ふむ、結局あなたの特徴は括弧の中身、と言う事ね」

「やっぱり悪意しか感じられ無いしっ! わぁっ、ちょっと待って待っ」

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