第48話
――ロスト達が竜王国から帰って来て2週間が経過した。
ロスト家の裏庭で、ロストとロストの弟子である勇者ラックが3メートルの大岩を前に立っていた。
「――では、いきます!」
ラックが両腕で大岩をがっちりと掴む!
「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
そして雄叫びを上げながら大岩を持ち上げた!
「うむ、よくやったぞラック」
「ありがとうございます、師匠!」
勇者ラックはたゆまぬ努力により、二メートルの岩を軽々と持てるようになり、遂に3メートルの岩を持てるようになったのだ。
「では、いつも通りその状態を一時間維持し続けるんだぞ」
「はい! 必ず成し遂げて見せます!」
ロストが去りって行く中、大岩を持ち続けるラックを陰から見守る人影が。
「ラックさん、遂に3メートルの岩を持ち上げちゃいましたね……」
「……どんどん人間離れしていく……」
勇者一行のメンバー、ティアとシキである。
「私達、ここにきて大分経ちますけど……ラックさん、もう魔王討伐なんてする気ないんでしょうね……」
「……もしかしたら、一生ここで暮らすことになるかもしれない……」
「まぁそれはそれで、悪くは無いんですけどね」
「うん……意外と過ごしやすいしね……」
ラックたちはロスト達の近くで暮らし始め、畑仕事をこなし、魔野菜などの美味しい食べ物を食べ続けた結果、身体は以前より健康になり、肌つやも良くなった。
「それに、レティさんの作るお菓子は絶品ですしね~♪」
「……それは同感……」
レティの作ったお菓子を思い浮かべ、涎を垂らすティアとシキ。
「でも一つ気がかりなのは、王国の方ですよね……」
「……確かに……そろそろ新しい勇者を選定してる頃だろうね……」
「はい……そう言えば、リリィさんは?」
「……レティと料理……後、おめかししてる」
「ああ……」
―一時間後。
「ふぅぅぅ……」
ラックは大岩を地面に置き、地面に座った。
そんなラックの元に、バスケットを持った白のワンピースを着た少女が歩いてくる。
「ラック、お疲れ様……これで汗拭いて」
「リリィ、ありがとう」
そう、勇者一行のリリィである。
リリィからタオルを受け取ったラックが顔の汗を拭う。
「お腹空いたでしょう? サンドイッチ作ったから食べて」
「本当!? 訓練した後は腹ペコだから嬉しいよ」
リリィが地面に布製シートを引き、バスケットからサンドイッチが入った小箱を出した。
「それじゃあ、いただきまーす! ……美味しい! 野菜が瑞々しいね」
「ふふ、喜んでくれて嬉しいわ♪ たくさんあるからどんどん食べてね」
リリィは微笑みながら、ラックの食べる姿を見つめ、その後二の腕に視線を向けた。
「ラック、ここに来てから本当にたくましくなったわね……」
以前のラックの肉体は、成長途中の少年のモノであったが厳しい訓練の結果、細身ながらも腹筋が割れ、二の腕もたくましくなった。
「まだまだだよ、俺は絶対師匠と同じくらい強くなるんだ!」
「ふふ、無茶だけはしないでね」
「……リリィさん、完全にラックさんを狙ってますね」
「……うん、リリィ女の顔をしてる……そもそも普段着ないであろう白のワンピースを着ている時点で、確定……」
「でもあのワンピース、どうやって手に入れたんでしょう?」
「……蟻人さん達に作ってもらったみたい……」
「蟻人さん達、凄いですねー……それにしても、リリィさん今までラックさんの事『世話のかかる幼馴染』ぐらいにしか思ってなかったはずですよね……? どうして急に……」
「……それについて、ある仮説を立てた」
「その仮説とは?」
「……リリィは……童顔マッチョな男が好み……!」
「な、なんと……!?」
「私達が以前ラックのマッチョ姿を想像した際、リリィだけ頬を染めていた……」
「そう言えば確かに……」
「つまり……ムキムキマッチョのラックこそが、リリィの理想の男だったと言う事!」
「な、なんですってーーーーーっ!?」
シキの発言に、ティアが驚愕の声を上げる!
「……リリィさんって、趣味悪かったんですね」
「……うん……」
「誰が趣味悪いですって?」
「「っ!?」」
シキとティアの背後に、いつの間にかリリィが立っていた。
「り、リリィさん、ど、どうして……」
「あれだけ大きな声出してたら気付くわよ……」
「不覚……」
「まったく……あんたたち散々言いたい放題言ってくれたわね……」
「ご、ごめんなさいリリィさん……悪気はないんです……」
「……ごめん……」
「別に怒ってないわよ、ただ趣味が悪いってのは訂正してほしいわ……だって今のラック、とっても素敵なんだもん♪」
リリィは両手を頬に添えてはにかんだ笑顔を見せた。
「リリィ? なにやってるのー?」
「なんでもないわ、ティアとシキがいたから話してただけよ」
「そうか……そうだ、せっかくだから皆で食べようよー!」
「良いわねそれ! ティア、シキ、行きましょう」
「……やっぱり、趣味悪いですよね……」
「……同感」
リリィに聞こえないように、ティアとシキが呟き合った。
「――兄様、どうぞ召し上がってください」
「おお、これはまた美味そうだな」
一方その頃、ロストとレティは庭でサンドイッチを食べていた。
「うむ、美味い! やはりレティの料理は絶品だな!」
「ありがとうございます、兄様……そう言えば、グレンさん達からお手紙が届いたんですよね?」
「ああ、竜王国の飛竜便でな……なんでも今新婚旅行に行っているそうだぞ」
「それは素敵ですね! ……私もまた兄様と一緒に旅行に行きたいな……」
「はははは、そのうちな……今は、こうしてレティと一緒に居る方が俺は幸せだ」
「兄様……えへへっ」
ロストに撫でられて喜ぶレティ。
そしてその姿に癒されながらも、ゆったりとした日常を満喫するロストであった。
魔王、辞めます。 稲生景 @ka1006
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