魔王、辞めます。

稲生景

第1話 

この世界には魔王が存在している。


魔王はその圧倒的な力で世界を混沌に陥れた。


幾人もの戦士が魔王に戦いを挑んだが、誰も魔王を倒せなかった。


この世界に、救いの手は差し伸べられないのであろうか―

















「―俺、魔王辞めるわ」


彼の名はロスト・モナーク。


第349代目魔王であり、歴代最強の魔王と呼ばれる男である。


「…は?」


執務室で暇つぶしにチェスの相手をさせられていた側近、ロウズは突然の宣言に間の抜けた声を上げた。


「い、今なんと?」


「聞こえなかったのか? 魔王を辞めると言ったんだ」


「な、何突然とんでもない事言ってるんですか魔王様!」


「だってなぁ…俺が毎日ここで何やってんのかお前も知っているだろう? 毎日机の前で書類確認して判子押すだけだぞ? これ魔王じゃなくても出来るだろ絶対」


「は、はぁ…」


「しかもだ、俺を倒しに来る人間達なんて大半が俺の前に来る前に四天王にやられてるんだぞ?」


「良いことではありませんか、それが何か不満なのですか?」


「いやだって四天王いるだろ? あいつら基本最初舐めプするじゃないか? 後あいつら一回倒されても全員第二形態に変身するよな」


「…はい」


「アレ(変身)俺と被ってるじゃん、駄目だろ魔王と被ったら…」


「それを私に言われましても…」


「それで四天王を倒して俺の前に来た奴ら、そいつら四天王との戦いで傷ついてたから俺が全回復させてやってから戦ったが…ほとんどの奴が平手一発で終わったぞ? あと数年前に俺を倒しに来た…えっと、勇者だったか? あいつ四天王を一気に倒して俺の元に来たのはいいんだけどさ…あいつ拳一発入れただけで死んだぞ? よくあれで魔王に挑もうと考えたよな…魔王舐めてるだろあれ?」


「ですからそれを私に言われましても…」


「とにかく俺もう魔王辞めるから、田舎でペットと一緒にのんびりと過ごすことにする、じゃあ俺荷物まとめてくるから」


そう言ってロストは執務室から出ていこうとするが、それをロウズが止める。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 魔王様が辞めたら誰が魔王をやるんですか!?」


「弟に任せたらいいだろ、あいつ俺より頭いいし、書類仕事も簡単にこなすと思うぞ、じゃあ俺もう行くからな、じゃあなロウズ、元気でな」


「え、ちょ、ま、魔王様ぁー!?」









―こうして、歴代最強と呼ばれた魔王は突然魔王を辞め、ペットと数人の部下を引き連れて何処かに消えていった。

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