第3話 禁忌の子と共に

「俺TUEEEEが適用されてるとか・・・それはないか、てかあの女の子は?」


昨日か一昨日かいつまで寝ていたのかは不明だがあの女の子が生きているのかが俺は気になっていた。


「・・・じゃあついてきて」


「俺は今動いていいのか?」


俺は病人である身、そして続けて「肝臓やらなんやら死んでいる状態で歩いてもいいのか」と俺は看護師に問うと、看護師は不満げに舌打ちをした。


「わかったよ、背負ってやる」


「お、おう・・・」


不機嫌な看護師はぶつぶつ言いながらも俺の高さまで屈んで、俺は看護師の背中に乗ると看護師は立ち上がり、俺を何処かへと連れて行った。


「ここだ」


看護師の声に俺は顔を出すと、鉄の扉に「立ち入り禁止」と木製の看板に書かれていた。一見、研究室だろうかと俺は予想していると何も言わず、ドアを開けて入っていった。


「おお、これが最先端の異世界治療術?」


と、周りに様々な機械が並ぶ研究室に驚嘆の声を上げているが看護師は無反応、俺は研究室から実験室に連れていかれ、今度は中心に灰色の布が被っている突起物が目についた。


「な、なあ、これはなんだ?」


と、俺は看護師にその突起物が何かを問うと、何も言わずに俺を背中から降ろし、キャスター付きの椅子に座らせると実験室の電気をつけ、看護師は突起物にかかっている布をどかして説明した。


「君が助けたのは禁忌の子シャルロット・レイ・ラグナロクと言うんだ」


どかされた布から出てきたのは台に置かれた無色透明の大きなクリスタル。その中で意識があるどうか不明な女の子がうずくまった姿勢で眠っていた。


「おい、この子は前の・・・」


俺は見覚えのある三角耳に女の子がこの前助けた猫耳の女の子であったこと、あの後の記憶が一切というのは嘘になるが、俺が気を失った後の女の子がこんな所で眠っていること、禁忌の子と看護師に言われた事・・・。


「おい、まさかこいつはこの後どうなるんだ?」


と、俺の後ろで腕を組んで立っている看護師に聞く。


「禁忌の子は世界の平和を壊すと言われているからね、殺されるのは確定だろう」


真顔で答える看護師に俺は「おい、ふざけんなよ・・・」と言うと椅子の手すりをなんとか器用に使いながら立ち上がり、よろつく足で女の子が入るクリスタルの近くへ行くと俺はため息交じりに言った。


「なぁ、俺は禁忌の子だからってこういうことをするのは許せない、だからこいつを助けてやってもいいか」


俺は女の子が眠るクリスタルに右手をつけ、手が凍り付きそうな冷たさを感じながらも言う。


「さあね、でもバレたら国家転覆罪確定だよ?」


椅子を定位置に戻した看護師が微笑交じりに言う、まあもちろんそれで殺されるのも嫌だし女の子がこのまま殺されるのもどうかと思うのだ。


「それがなんだ、この子を助けてやりたい、と俺の中の性格が言ってるんだよ」


この異世界に来る前の話、目の前で大切な物を失った俺はそれから人間不信や幻聴、幻覚などに悩まされる日々を過ごしてきた、でも今はその過去をやり直すチャンスが目の前にあるなら、俺は必ず言うだろう。


――俺は絶対にこの子を死なせたりはしない、と


* * * *


「さてと、お馬鹿さんがどう国家に抗うのか見ものだね、桜井和也くん?」


クリスタルを支える台の近くに操作盤があり、それを操作する看護師が言った。


「さあ? 俺は禁忌の子だからってこういうことをするのは許せないだけだからな」


「流石だね、自ら危険な橋を渡る君の勇敢さは後世に残してやりたいくらいだ、さてとこれでクリスタルからの封印が解かれたはず、クリスタルに触れてみな」


俺はその看護師の言う通りにクリスタルに触れると、俺の右手が触れたところから亀裂が入り、次の瞬間生暖かい水と共に女の子が落ちてきたのですかさず俺は女の子をキャッチすると数分前までクリスタルに被っていた布を女の子の体に巻いた。


「ふぅ・・・さあて、上司になんて言い訳しよっかね、あとお前らは裏口から出ろよ」


役目を終えたかのように大きなため息を吐く看護師は実験室から出る際に言った。


「入ってきた所に和也のジャージ?が入ってる袋を置いておいたから」


俺達に背を向け、看護師は実験室から出ていこうとした時


「あ、名前を教えてほしい!」


と言うと、看護師は振り向いて言った。


「エルメア・アルメニア、それが私の名前だから。まあ今度会った時はエルメアでいい」


そう言い残しエルメアは実験室から出ていき、俺も手の上で眠ったままの女の子を背負うと階段を上り、エルメアが言った通り、研究室に入るドアの横に俺のジャージが入った袋が置いてあった。


「ん? なんか入ってる」


紙袋の中にあるジャージの上に丁寧に折られた紙があり、それを開くと俺は何故か笑顔になった。


「まったく、エルメアは面白い奴だな」


* * * * *


「はぁ・・・全裸の女の子を街中で背負うのは恥ずかしかったぜ」


エルメアの指示通りに病院から抜け出した俺は、休憩のために路地裏の木箱に座り、女の子を使われていなかった長椅子に寝かせていた。


「あ~なんでこんな事になったんだろう」


俺は今さら後悔しているが、あのまま女の子が殺されるよりマシだ、と考えたら俺の行動は正解だと思った。


「ん・・・」


長椅子で眠っていた女の子が目を覚まし、目を擦りながら起き上がる。


「ふにゃぁ・・・え?」


可愛い欠伸と共に女の子は「何故私はここに?」と言いたげな素振りをする。


「よう、起きたか」


「おはようございま・・・ってきゃぁぁぁ!!」


俺は女の子に挨拶をすると、女の子は自分が何故全裸で見知らぬ男と一緒にいるのか、と現状把握したのか俺は女の子から3回頬にビンタをされた。


「おいおい、俺がお前を助けたのにビンタは酷いぞ」


強力なビンタのせいで腫れる左の頬を押さえながら言うと女の子はそっぽを向いた状態で答える、


「助けた?いつ、どこでですか?」


「え、時計塔にひっかがってたから助けたのに恩知らずだな」


と、俺は説明をしても女の子は小首を傾げていたので完全に記憶がないと俺は察した。


「まあいいけどさ、体は大丈夫なのか?」


まあ封印されたとなると身体機能の低下とかが心配なのだが女の子は自分の手のひらを広げると詠唱を唱え始め、次の瞬間、女の子の小さな手に小さな炎が現れた。


「えっと、まあマナに関しては全然大丈夫みたいですがやっぱり前みたいには行きませんね」


「でもそれくらいできるのは普通に凄いぞ」


と、俺は苦笑交じりに言う。マナは生命の源と言われるが、もしもそれが尽きたとしてもこの女の子の力があれば生き返えられるのだろうか、と、俺は頭の中で考える。いやそれよりもこれからの事だが女の子を助けた以上、手放すわけにはいかない。


「とりあえず、ギルドに行くか」


と、俺は長椅子に座る女の子に言った

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界生活は冴えない仲間とともに 朝比奈なつめ/帰宅部部長 @Asahina_natume

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ